朝練こそ時期的に減ったものの、年度が変わればすぐに試合がひとつある。そんな中、久しぶりの朝練があって登校してるわけだけど、こんな時期に朝練をやってる部活がそもそも少ない。当たり前だ。むしろなんで朝練があるんだ。
そんな理由で人の少ない通学路で、ひときわ目立つデコボココンビを見つけるのは驚くほど簡単なことである。

見覚えがありすぎる金髪プリンとトサカ頭。間違えようもなく我らが音駒高校男子バレー部の主将様と、脳で背骨で心臓様だ。

「おはようございまーす!」
「んぁ?‥おー、三橋チャンは朝から元気ね」
「元気が取り柄なもので。弧爪はまたゲームやってるの?」
「今日、イベント最終日だから」
「クロさんも苦労しますね」
「どういう意味?」
「スマホ持つようになってからはずっとこうだから慣れたな」

そうこういっている間にも、クロさんは弧爪が転んだりぶつかったりしないようにコントロールしてる。そして弧爪はそれに身を任せながらも足取りがふらつくことはない。
幼馴染みってやつはすごい。

「あ!クロさん!」
「んー?」
「今日がなんの日かわかりますか?」
「んー…あぁ、わかった」

ちなみに弧爪は会話にまったく入ってくる気配がない。

「ふふー。私、今日はいいものを持ってきたんです」

猫型ロボットよろしく鞄から取り出したそれに、クロさんはいつものようにニヤリと、それはそれは人のよくない顔を見せてくれた。

「やるか」
「もちろんです」

ターゲットはもちろん目の前のプリン頭。
ゲームに夢中になってるのをいいことに、その頭に容赦なく取り付けた。

「ちょっと、なにするの?」
「大丈夫、危険なものじゃないから」
「なに乗せたの」
「なーに、変なもんじゃないから安心しろ」
「少しも安心できないんだけど」

色は少し違うけど、部員全員に回すことを考えてこれと、あと黒いのにした。

「大丈夫!かわいいよ!」
「嬉しくない。なに?」

プリン頭に乗った茶色いそれは、色が合ってこそいないけど元来持ってる性格も相まって異様に似合ってるように見えた。

「私天才だと思いました」
「なんであの色?」
「みんなにつけるので」
「俺も?」
「クロさんはこっちです」

黒いのを渡すと意外そうではあるけど、否定的な表情はされなかった。

「用意いいなー」
「みんなを写メるのが今年の目標です」
「お。じゃあ今やるか?」
「いいんですか?」
「外される前に撮った方がいいだろ」

そう言うとクロさんは意気揚々とそれを頭に乗せてくれた。

「あざーす!」
「これちっこくね?」
「まぁそんなにおっきいのはないと思いますよ?たぶん男子は想定されていないのかと」
「なるほどな」

弧爪は頭についたものは完全無視でゲームに勤しんでる。そんなにイベントギリギリなの?弧爪なら余裕なんじゃない?

「クロさんはポーズお願いします」
「研磨は? 」
「スマホに必死なんでいいです」
「なんの相談してるの?」
「あ、弧爪こっち一瞬だけ見て!」

本当に一瞬だけこっちを見た瞬間、連写した。

「え、ホントなに?」
「クロさん完璧ですよ」
「お、見せて見せてー」

なかなかうまく撮れたと思う。ぶれたり反射したりもない。この中から1番いいやつを厳選しよう。

「なかなかイイんじゃね?」
「ですよね!」

ひとまず若干ボケてるのは削除…と。

「なんで今写メ撮ったの」
「あ、見るー?」

気になったのか、ゲームを一時停止にしたらしい。そんな弧爪に1番綺麗っぽい写メを選んで見せると、それはそれは嫌そうな顔をされた。そして頭の上につけていたものをおもむろに取った。

「ああああ!投げつけないでごめん返してください!」

コンクリートに思いっきり叩きつけられる未来が見えた。そんなことされたらたまったものじゃない。それはこれからあと何人かの頭の上に乗らなきゃいけないんだから!

なんとか引き留めることに成功して、コンクリートに打ち付けられる前にそれを回収することに成功した。

「三橋、消して」
「やだ」

ひとまずサーバーに写メを逃がした。

「なんで猫耳?」
「猫の日だから」
「クロ知ってたなら教えてよ」
「教えたらお前取るだろ」
「そりゃあ」
「それをわかってて教えるわけねーって」
「いいから消して」
「だめ!まだみんなの集めてない!」

そう、全員分集めなきゃいけないのだ!

私はスマホを制服のスカートのポケットに押し込んで、クロさんを弧爪との間にはさんで登校しすることにした。
さすがにポケットに手を突っ込むわけにもいかないんだろう。諦めたようにもう1度スマホへ目を落とした。その様子を見て、クロさんとひっそり笑ったのは弧爪には絶対ナイショだ。




さて、朝練の前に実行できるのは1年だろう。

「芝山ー、犬岡ー」
「なんですか?三橋さん」
「これを是非ともつけていただきたい」

臆することなく猫耳を差し出すと、2人は戸惑いもなく受け取ってくれた。

「あ、猫の日だからですか」
「そうそう。芝山知ってたの?」
「昨日クラスの女子が言ってたので」
「あ、今日のことだったんだ」
「犬岡のクラスでもあったの?」
「よく聞こえなかったんですけど「明日うちらの日だねー」って言ってたんで、なんなんだろうって思ってました」

ああ!音駒だからうちらの日か!
対戦相手にネコちゃんってバカにされることはあったけど、いつもムカついてたからすっかり忘れてた。

「話がわかってるなら早いよ。それつけて写メ撮らせて」
「はい!」

うんうん、素直でかわいい。しかもノリノリでやってくれるからホントありがたい。
犬岡は茶色、芝山は黒い耳を渡すと乗せてから、お互いの猫耳姿を見て笑ったり猫耳を触ったりしてる。もう仔猫が戯れてるようにしか見えない。体はでっかいのにね。1人は猫じゃなくて犬なのにね。

「あ、猫ポーズもよろしくー」
「はーい!」

元気な返事と共に、定番のポーズを楽しそうに取ってくれる。かわいい。

「オッケー。ありがとー」

私今日写真撮るのめっちゃうまいんじゃない?今だかつてなくうまいんだけど。
これは明日からの運が今使われてるな。新年度抜き打ちテストの為にちゃんと勉強しておこう。

「それどうするんですか?」
「焼き増しして男バレアルバムに入れるよ」
「わー!いいですね!」
「そんなのあったんですか?」
「勝手に作ってるの」

昨年度末から作ってるから、1年がいない時もあるけどね。まぁそこはいいでしょう。

「俺見たいです!」
「僕も!」
「完成したら部室に置くからね」
「あざーーーーす!」

犬岡元気か。芝山の声消えたよ。

「お前ら元気だなー」

体育館に飛び込んできた声に飛び付くのは、たぶん私くらいのものだろう。

「おはようございます夜久さん!」

バレー部の中では比較的身長の低い夜久さんは、私が自分より小さいのがお気に召したのかよく頭を撫でてくれる。今日も犬よろしく夜久さんに駆け寄るともう何も言わず私の頭を撫でてくれる。
新年度になったら私、おかしくなるかもしれない。

「おー。お前らは頭に何つけてんだ?」
「今日は猫の日なので!」
「それで猫耳つけてんのか」
「夜久さんも是非お願いします!あ、海さんもおにゃしゃす!」
「え、なに?」

ちょうど夜久さんの後ろからきた海さんも確保。
芝山と犬岡から猫耳を回収するとすかさず差し出した。夜久さんも海さんも基本的にめちゃくちゃ優しいから笑ってそれを受け取ってくれた。
夜久さんはちょっと微妙そうな顔をしたけど、意外なことに海さんはこういうことに結構ノってきてくれる。クロさんと海さんに手伝ってもらって夜久さんを丸め込んで、みんなでふざけて監督に怒られたのはそれなりに最近のことである。

「か…っ!!!」

海さんは動物物のアニメに出てくるような、それはそれは貫禄のある大人猫の様なイメージなのに対して、夜久さんはどうだろうか。海さんと並んでその小柄な体でやんちゃな虎猫の様に見える。
かわいい。究極にかわいい。でも夜久さんにかわいいなんて言ったら写メを撮らせてくれなくなるかもしれない。

「と、撮りまーす」

全力で言葉を飲み込んでシャッターを連続して切った自分を褒めたい。よくやったよ私。

「ちゃんと撮れた?」
「はい!もう最高です!」

これは個人的にも永久保存決定だ。ありがとうございます。

「それどうするんだ?」
「バレー部アルバムに入ります」

かろうじてぶれてない辺り、ケータイのカメラ機能の性能に感謝しかない。ありがとうソミーケータイ。

「そんなのあったっけ?」
「勝手に作ってます」
「いままでマネージャーいなかったからそう言うの残ってないしな」
「あるとしても集合写真くらいかな」
「だな」
「福永と山本は来てました?」
「もうじき来るんじゃないかな」
「山本にもやるのか?」
「やりますよ。当然じゃないですか」

夜久さんと海さんから耳を回収して今か今かと2人の到着を待つ。とは言ってもすぐに来るんだけどね!

「あ、おはー!」
「なっ!なんだよ!」

もうかなりの時間が経つのに、山本はまだ私が苦手らしい。これで彼女がほしいとかちゃんちゃらおかしくて臍で茶が沸くわっ

「あれ?福永は?」
「なんか立ち止まってたけど、なんだよ」
「山本これ頭つけて?」
「は?!なんでだよ!」
「いいから!」

耳を持ってにじりよると、その分山本は後ろに下がる。
…これ、私が嫌われてるわけではないよね?大丈夫だよね?

「あ」

体育館から後ろ向きに出そうになった時、福永が来た。


「福永ナーイス!」
「やめろ!福永!」
「福永もこれつけてー」

言葉こそ発してくれないけど、福永とは結構気が合うと思ってる。
山本捕まえてくれたし、そのまま前屈してくれたから2人の頭が降りてきて簡単につけることもできた。

「やめてくれ!頼む!」
「やだ」
「福永!」
「無理だって」
「ああああああ!」
「振り落としたりしたらちゅーする」

私の発言に山本が完全に動きを止めた。もちろんすかさず山本の頭に装着。
山本はすぐ本気にするからからかいがいがあるんだよね。しかも山本ならノってこれないからね!私も安全!

「はい、福永」

福永が手を離すと山本は体育館に崩れ落ちた。耳がずれたのでそれをすかさず直すけど、まったく反応しない。
本当に嫌われてない?それとも今嫌われた?まぁいいけど。山本になんと思われようとどうでもいいけど。

「さー撮るよー。ちょっと山本こっち向いて」

そんなにショックだったのか、山本は放心しながらもこっちを向いてくれた。福永はノリノリでポーズを決めてくれる。山本、これヘタしたら一生残るからね。いいんだね。

「セイチィーズ」
「なんで海外風」

突っ込みなんて聞こえない。私は今とても楽しんでいるから。

「イイ写真が撮れたよ!」

福永がOKを出してくれたからこれでいこう。

「猛虎さん、なに頭につけてるんですか?」

あ、このでっかいのを忘れてた。

「猫耳だよ。今日は猫の日だからね」
「いーなー!俺もやりたい!です!」
「いいよー」

山本の頭から無造作に取ってリエーフに渡すと嬉々としてつけてくれた。

「これちょっと小さいんですけど」
「元々男子がつけることは想定してないと思うよ」
「なら仕方ないッスね」

背が高すぎてさ、耳がついてるのかわかんない。

「撮るよー?」
「はい!」
「なぁ三橋」
「なんですか?」
「三橋はつけねーの?」

クロさんが変なことを言い出した。

「私がつけて誰が得しますか?」
「山本のことあれだけ凹ませたんだ。三橋もつけろ」
「まぁいいですけど」

福永から黒い耳を受けとると当然なんの抵抗もなく頭につける。
あ、これちょっとちっちゃい。

「やっぱり女子がつけた方がいいな」
「そりゃそうだろ」
「ほら、写真とってやるから並べ」
「え?写真撮ってたんですか?」
「そうそう。みんなの猫耳写メ」
「ほら、リエーフ見切れるから座れ」

しゃがんだことで私よりも低い位置に頭がくる。全然色があってない。

「ほら、前見ないと写真撮られますよ」
「うん」

あいにく私はここで怖じ気づくようなキャラでもない。余裕で全力の猫ポーズを決めた。

「なに?三橋練習でもしてたの?」
「してないですよ」
「あざと…」
「あざとくないです!」

ケータイを見ると、なんかリエーフと同級生と言われてもいいくらいハジけてる。
なんだこれめっちゃ恥ずかしい。

「三橋さんめっちゃかわいいじゃないですか!」
「リエーフはでかいね」
「そうッスね!」

まぁこれで全員分集まったわけだし。

「さて!皆さん!朝練を始めましょー!」

いきなりだって?それくらいが音駒にはちょうどいいのです!
まとめるのは朝練終わってから厳選してまとめます!


2017/02/23