日本人というのは常々得な人種だと思う。仏教らしい盆と正月の他に、クリスマスやハロウィンなんて西洋のお祭りだって楽しめるんだもん。楽しいことを素直に楽しめるのは本当にいいと思う。
「あれ?三橋さん?」
仮装してハロウィンパーティーを楽しんだ帰り。暗いし人もいないからいいやと思ってそのままの格好で帰ってたんだけど、まさか同級生に会うとは思わなかった。
「え、猿杙くん?」
「こんな時間にどうしたの?ハロウィンの帰り?」
「うん」
学校では目立たないように比較的大人しくしてたのに、こんなことしてるなんてバレたらやだ。いや、バレてもいいんだけど、調子乗ってるなとか言われたくないからできれば隠しておきたい。
「俺は部活終わったところなんだぁ」
「そっか、お疲れさま」
猿杙くんは悪い人じゃないから言い触らしたりとかしないと思うけど、それでもできれば会いたくなかったなぁ。なんて思っちゃう。
そんなことを考えてたら、予告もなくシャッター音がした。
「え、何してるの?」
「まぁまぁ、気にしないで」
いや!気にするから!
「ちょ、ちょっとやめて」
私の声が聞こえてないわけないのにシャッター音は続く。って言うかもう連写じゃない?
「ねぇ、盗撮!」
「撮ってるよ」
「事後報告!?」
なにそれ!事後報告な盗撮なんて初めて聞いたよ!
「あの、まぁいいけど、ネットに乗せたり誰かに送ったりとかはしないでね」
知らない人じゃないし、見馴れないから興味として撮ってるんだよね。たぶん。
「うん。俺だけで楽しむから安心して」
…それはどういう意味かな。
「それよりさ、黒猫?」
「え?あー、うん」
フレアをたっぷりとった黒いミニ丈ワンピースに黒いデザインタイツ。黒いベロアで作ったケープの裾は、同じ黒のファーで縁取ってる。そのファーの余りで耳としっぽも作った。
今回のはちょっと自信作。
「いいね。ハロウィンっぽい」
「ありがと」
会場ではみんな気合いの入った仮装してるから、こうしてなんでもない人から褒められるとやっぱり嬉しい。
「そのスカートなんでそんな広がってるの?」
「パニエ入ってるの」
「?」
「えーっと、スカートを膨らませるヒラヒラしたスカートが入ってるの」
「へー。そんなのあるんだ」
「うん」
当たり前に使ってる単語を知らない人に教えるのって難しい。この説明であってるのかもわかんない。あとね、なんでもないように普通に話してるけどさ、やっぱり気になるんだよね。
猿杙くん写真撮りすぎ!さっきからずっと撮ってるからね!
「ねぇ、そんなに写真撮っておもしろい?」
「おもしろくはないけど、三橋さんのかわいい格好撮れて楽しいよ」
「え」
えーっと、猿杙くんってそんな感じの人だったっけ?仮装に興味でもあるの?
「三橋さんって学校以外ではそんな感じなの?」
「そんなことないよ」
「じゃあ誰かその格好見たりしないの?」
「うん、知り合いはないかな」
「じゃあ俺が初めて?」
「そうだけど…」
なんか、その言い方ちょっとやだ。別に見せたくて見せた訳じゃないもん。偶然会っただけだもん。
「そっかぁ」
「なんで笑ったの」
「笑ってないよ」
「嘘」
「俺笑ってないのに笑うなって言われるし」
「絶対笑った」
ほら!もう今絶対笑った!
「かわいい三橋さんを初めて見たって思ったからかなぁ」
「…は?」
「あ、」
「ちょっと!撮らないでよ!」
「えー?」
やだやだ!今絶対顔赤いもん!かわいいなんて言われなれてないから!
「恥ずかしいからやめて!」
「恥ずかしがってるのもかわいいよ?」
「もー!やだ!」
面白がってるだけの癖に!
「写真全部消して!」
「消すの大変だと思うよ?」
「なんでそんなに撮ったのよ!」
「三橋さんが可愛いから」
なんとかして携帯を奪って写真を消してやろうと思ったのに、いかんせん猿杙くんは背が高い。私が少し跳び跳ねたところで全然届くわけがない。
もうやだ!今日この数分で猿杙くんの印象変わった!
「帰る!」
「送っていこうか?」
「すぐそこだから大丈夫!」
「あ、じゃあ1つだけ」
「…なに?」
「今日会ったのは、誰にも秘密ね」
何を言われるのかと思ったけど、なんだそんなこと。
「私からもそうしてほしい」
願ったり叶ったりの申し出に私は迷わず二つ返事。それを聞き届けると猿杙くんはどこか満足そうに笑って背を向けた。
歩きながら思ったことは、さっき会ったのが本当に猿杙くんだったのかってこと。
いつもと印象が違いすぎる。でも確認する術なんて私にはない。だって猿杙くんと特別仲がいいわけじゃないし、個人的に連絡を取ったこともない。
もしかしたら、猿杙くんと会ったのはハロウィンの夜が見せた夢なんじゃないか。なんて考えてるくらいなんだから、私の頭も今日と言う日に随分と浮かされているんだろう。
明日も学校だし、寝坊しないためにも早く帰って寝よう。
2017/11/01
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