「お疲れさま」

今年こそはって、みんな意気込んでた。
最初はちょっとあれだったけど、木兎の調子も概ねよかった。小見の読みも、ここしばらく見てた中で一番冴えてた。鷲尾のスパイクにもいつも以上のキレがあった。初めて出場した尾長のブロックは、相手の陣形を崩した瞬間もあった。猿杙のスパイクも、いつもより重さが乗ってたし狙いもよかった。赤葦の、いつもの強気な姿勢のゲームメイクにも穴はなかった。

「…悪い…負けた」

木葉だって、いつも以上に調子がよかった。
安定的なレシーブに、ギリギリを狙ったスパイク。いつからか呼ばれるようになった「Mr.器用貧乏」が本当にしっくりくるくらいなんだってこなして、木兎がショボくれた時に人一倍動いてた。

「なんで、謝るの」

みんなモチベーションもテンションも上々。けして勝てない試合じゃなかった。それでも、負けた。

「約束しただろ?これが最後だ、絶対に勝って頂上に立つって」
「そうだっけ?」
「覚えとけよ」

誰も悪くない。ほんのすこし、本当に少しだけ、相手が、

「…泣くなよ」
「ないてない」
「嘘つけ。ちょー泣いてんじゃん」

泣きたいのは実際に試合をしてた木葉だ。なんで負けた人より私が泣くんだ。今日こそ私は泣かない。
毎回そう思ってるのに、いつも私の涙腺は言うことを聞いてくれない。

「ないてないっ」
「…じゃ、それでいーか」

私が泣いても泣かなくても、木葉は謝る。「勝てなくてごめん」って。そんなことを言わせたい訳じゃないのに、私はいつもその言葉を聞く。

「ごめんな」
「なんで沙羅が謝ってんだよ」
「木葉が謝ったから」
「そっか」

私がいると、木葉は泣かない。
でも、今日だけは、

「木葉、泣いてるよ?」
「うっせ」

一緒に泣こうよ。

「く…っそ!これが最後だったのに!」

ぎゅうぎゅうと、今まで以上に痛いくらい抱き締められる。どちらかと言うなら、迷子の子供がお母さんを見つけてしがみつくのに似てる。
この瞬間、どんなに涙が止まりそうになってても私はまた泣くんだ。

「これが、高校最後だった!」
「うん」

私にはわからない。木葉みたいに本気で頑張ったことなんてなにもないし、ひとつのことに真剣に打ち込んだこともない。

「絶対イケると、思ったんだけどなぁ…っ」

だから、木葉が今どんなに悔しいのか私にはわかってあげられない。

「ごめん…!」

いつも私に向けられる言葉だけど、それが本当は誰に向けられた言葉なのか。たぶん、私ではない。だから、もしかしたらその相手は自分自身かもしれないし、チームメイトや部活の仲間なのかもしれない。
どれも推測でわからないけど、それでも言わないでいられないんだろう。もう1歩が出たらとか、もう少し高く跳べたらとか、きっといろいろ考えるだろう。

私には、どれもわからない。

「ごめんね」

だから謝るんだ。木葉のこと1番わかってあげたいのにわかってあげられないことを。ずっと頑張ってきたことはわかるのに、その気持ちに共感できないことを。同じ涙を共有できないことを。

「…っ…そ…!」

ごめんね。


2018/01/06