移動教室の帰りなんだろう。偶然友達と歩く君の姿を見つけた。

「…なにすんのよ」

僕が声をかけると、いつだって君はそうやって不機嫌な顔をするよね。

「いや、ちょっと聞きたいことがあってね?」

ホント、気にくわない。

「ならまずその胡散臭い顔やめたら?」
「三橋さんこそ、その長すぎる髪切ったら?邪魔」

三橋さんの特徴とも言える、長すぎるポニーテール。邪魔なんて思ったことない。別にケンカしたいわけでもないんだけど、売り言葉に買い言葉。

「月島にどう迷惑をかけたかわからないからそんな予定はまったくない。てゆーか、それならムダにでかいあんたに言えるんじゃない?」
「は?」

別に身長に文句こそないけど、好きで身長伸ばしたわけじゃないのにそんなこと言われたらさすがにムカつくんだけど。
三橋さんより小さい友達が分かりやすく困ってるけど、今ここで引くわけにいかない。

「私自販機寄って行きたいんだけど」
「僕は三橋さんと話したいんだけど」

基本的に話は一方通行。いつだって三橋さんは攻撃的な言葉を選んで口にする。そんなことをされたら、つい同じように返してしまうこの気持ちもわかってもらえるだろう。

「ひー、先に行ってて」
「え、あ、でも」
「時間なくなるから」
「‥気を付けてね」
「大丈夫(月島は大丈夫じゃなくなるかもしれないけど)」

君は友達に、僕には見せたことのない顔で話しかける。それなのに、僕に見せるのはいつも不機嫌そうな顔。
そもそも知り合ったきっかけがあまりいいものではなかったから対応の差は覚悟の上だけど、これはいくらなんでも酷すぎると思う。

「…で?なんなのあんた。ホントに迷惑なんだけど。私の髪よりあんたの方がよっぽど迷惑」

眉間にシワのよってない顔なんて、1度だって正面から見たことがない。

「三橋さんさぁ」
「なに」
「眉間にシワよせるのやめたら?」

だから、僕の記憶の中の君はほとんどが横顔。

「よってない」
「よってるよ、ここ」

なんで気付かないわけ?無意識に睨むくらい僕のことが嫌いってこと?
眉間をつつけば「触んな」と即座に腕を振り払われた。

流石にムカつくんだけど。

「あのさ」

高さの合わない目線を合わせようと壁に腕をついたまま距離を積めたら、三橋さんは勢いよく壁に頭をぶつけた。そのあと壁にそって崩れ落ちるから正直驚いた。

「…なにやってるの?」

かなりすごい音したけど、大丈夫なの?

「う、るさい!近付くな変態!」

ぶつけただろう箇所をおさえながら顔をあげないから、やっぱりかなり痛かったんだろう。
無意識に頭を撫でようと手が伸びたけど、ついさっき振り払われたのを思い出してやめた。

「…あのさ」
「なに」
「僕、君になにかした?なにかしたなら謝るけど」

出会いこそ酷かったけど、意図して何かした覚えはまったくない。
心当たりもないのにいつまでもこんな対応じゃ、ため息のひとつやふたつ、つきたくなる。

「今現在進行中」
「そうじゃなくて、君、最初から僕のこと睨んでるよね」
「…そんなことないけど」

ほんの少しだけ頭が持ち上がるけど、やっぱり顔は上がってこない。なに?そんなに痛いの?それとも僕が嫌いなの?

「ある。無意識になにかしたなら謝るから、」

訳もわからないまま避けられてたら、さすがに傷付く。

「だからないってっ」

反射的に顔をあげたらしい三橋さんとの距離が思ったより近くて、驚いたらしい三橋さんの頭がまた勢いよく壁に向かった。
咄嗟に三橋さんの頭と壁の間に手を滑り込ませたけど、どんな勢いで頭後ろに下げてんだよ。めちゃくちゃ手痛いんだけど。

「…バカなの?学習能力ないの?」

あと、頭ちっさ…

「うるさい!ちかい!」
「三橋さんの方がよっぽどうるさいけど」
「月島が近いから!」
「ならもう僕のこと睨まないって約束する?それなら離れてもいいけど」
「わかったから!」

離れるとようやく顔が見えた。
真っ赤で、困ったような不機嫌なような、そんな顔。

「じゃあ、もう睨むのやめてよね」
「…善処する」

そう言うくせに、三橋さんは相変わらず僕のことを睨んだまま。

「言ったそばから」
「うるさい!今はしょうがないじゃない!」
「まぁいいけどね」

君の気持ちなんて最初からわかってるんだから、早く言ってくれないかな。僕はあまり気が長い方じゃないんだ。


2017/05/09