▼ 星屑の涙


「岩泉はどうしてバレーを始めたの?」

少し前まで違和感を覚えるほどの敬語だった和泉は、思っていたよりもあっさりと敬語が外れた。それに伴ってずいぶん素直に物事を聞いてくるようになった。

「いきなりどうした」

それが子供のような幼さを滲ませるから、俺に答えられるならできる限り教えてやりたいと思う。

「なにかきっかけがあったから始めたんだろうけど、なんだったのかしらと思って」
「なんか趣味とかねぇのか?」
「うん。だから気になったの」

正直そんなもんはっきりとは覚えてない。それでも思うのは

「スパイク決めてぇと思ったからだな」
「そうなの?」
「ああ。ガキの時に見た世界大会かなんかで見たエースのスパイクがかっこよかったから、俺もやりてぇと思ったんだ」

あの日から俺はバレーにハマって、バカの一つ覚えみてぇにバレーばっかりしてここまで来た。

「及川とか一静さんもそうなのかな」
「なんかきっかけがあったのは間違いないだろうな」

あいにく和泉ほど頭がいいわけでもねぇから望む回答を返せる自信はないが、こんな感じでよかったのか?

「なんでそんなこと気になったんだよ」
「私には、岩泉たちみたいに本気でやれるものがないから」
「あー」

いままでの和泉を見れば、少なくともハマってるものがないことはわかる。それどころか、和泉は他のやつらとは一線を画していた。雰囲気と言うか、とにかく和泉は普通じゃないやつだった。

「別に急いで探さなくてもいいだろ」

どんなやつでも、ハマれるもんなんて探して見つけられもんでもないだろ。
つーかクラスのやつらだってそんなもん見つけてないやついるべ。俺らは偶然早くに見つけたってだけで、下手したらこの先ずっとなんにもハマないやつもいそうだ。

「そうなんだけど、普通にならないといけないから」
「は?」

和泉がきっかけ探しを始めたことに対しての違和感が、和泉の雰囲気からくるのか考え方からくるのかわからねぇ。
でも普通なんてそんなの主観だろ?俺にとっての普通が和泉にとっての普通じゃないってだけ。そんなもん気にすることでもねぇだろ。

「それに楽しいって思えること、私も見つけたいから」

それでも1個だけ言えることがある。

「なら余計に急ぐ必要なんてないだろ」
「どうして?」
「急いで見つけたハマれるものなんて、どうせすぐあきる」

何事にも興味を示さなかった和泉に言わせれば、いい傾向なんだろう。だからと言って急いで興味があるフリをすることに意味なんてない。

「そういうものなの?」
「そういうもんだな」

そんなこと考えるまでもなく和泉はバレーに興味があるんだから、ごちゃごちゃ考えなくていいと思うけどな。そうでもなきゃバレーの勉強なんてしないだろうよ。

「そっか…ねぇ岩泉」
「なんだ?」
「私もやってみたい」
「は?」

そう思ってたのに、まさかやりたいなんて言われると思わなかった。

「やりたいって、バレーか?」
「うん。やってみたい」

別にやりてぇと思っても構いやしねぇけど、和泉にバレーやる友達なんているのか?

「人数いた方がいい?」
「いや、ボールに触るくらいなら2人でもいいだろうけど」
「わかった。岩泉、いつなら大丈夫?」
「は?そんなすぐやりてぇの?」
「うん」

どうやら、思っていたより和泉はアクティブなのかもしれない。

「なら今日やるか?」
「‥いいの?」

すぐやりてぇって言ったくせに様子を伺うのはなんでなんだよ。

「すぐやりてぇんだろ?」

疑問系に疑問系で返すのは反則っぽいけど、俺の言葉に無言で返事をする和泉に笑うしかなかった。

「なんで笑ってるの?」

本人はわかってないらしい。散歩に行きたい犬みたいな目をしてるんだから、笑うなって言う方が無理だろ。

「なんでもねぇよ。じゃあ放課後な」
「うん、よろしく」


  
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