▼ 甘いお菓子のような
「岩ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
便所に行った帰り、及川がいつも以上にめんどくせぇテンションで走ってきた。
「なんだよ」
つーかお前俺のクラスにいただろ。話があるならそのまま待っとけっつの。
「ヤバい!俺今なら死んでも後悔ないかもしれない!」
「じゃあ死んどけ」
「死なないよ!」
どっちだよ。めんどくせぇ。
「もうこの感動は俺の親友である岩ちゃんに今すぐ隠すことも余すこともなく全て報告しないといけないと思ったんだよ!」
「要約しろ」
「全部言いたい!」
「まとめろ」
つーかそう言うのいらねぇからとりあえず黙ってくれ。英単語抜ける。
「じゃあ簡単に言うけど、和泉さんが俺の名前呼んでくれるって言った」
「おー…は?」
なに言ってんだ?
「俺も和泉さんの名前呼んでいいって言われた」
「頭大丈夫か?お前受験控えてるんだぞ?」
「失礼だよ岩ちゃん!」
「ならなんでまだ名字で呼んでんだよ」
「恥ずかしすぎて呼べないよ!」
なんだよそれ。
「お前ホントめんどくせぇな」
「今まで呼ばないでって言われてたのに急に名前で呼んでいいよって言われても呼べるわけないべ!呼びたいけど緊張しすぎて呼べないの!」
及川の言ってることはよくわかんねぇけど、そんなもんなのか?
「あ、ごめん。脳筋の岩ちゃんにはわかんないよぬぇぐふぁっ!」
「なんかムカついた」
からとりあえず腹パン決めた。
そのまま校庭にでも埋まっといてくれたら静かでいいんだけどな。
「さすがゴリラ…」
「オメーもな」
でもそうか、和泉が及川に名前を呼ばせるとは。
及川からぼんやりとしか聞いてないからたいして覚えちゃいねぇが、なんか訳があって呼ばせなかったんだろ?それがどういう風の吹き回しか。昔のことは吹っ切れたのか?
「ねぇ、どういうことかな」
「知らねぇよ。そう言うことは本人に聞け」
「だって岩ちゃん和泉さんと仲いいじゃん」
「そうでもねぇよ」
個人的に和泉と話すことなんて相変わらずない。練習に誘ったのだって、いつ死んだって少しもおかしくなかったあの和泉が興味を持ったからだ。せっかくだから、興味をなくす前に1回でいいから体験させておきたいと思った。ただそれだけだ。
「えー?だってよく和泉さんと話してるってクラスの子に聞いたよ?」
「及川ほど喋っちゃいねーよ」
「ホントにぃー?」
うっぜえ…
「まぁいいや、岩ちゃんがいてくれれば和泉さんも安全だからね」
「は?」
「今更変な虫はつかないと思うけど、それ以外は同じクラスの岩ちゃんの方が早く気付けると思うからさ」
それがどういう意味を持ってるのか、さすがにわからなくない。
正直ただ和泉を見てても何がどう変わったのか、何か起きているのかなんて全然わかんねぇけど、
「大丈夫だろ」
「和泉さんだって女の子なんだよ?なんかあったら助けてあげてよ」
少なくとも、及川が絡むようになってからいきなり消えそうような奴ではなくなった。
「そーだな」
でも及川や松川ほど和泉の機微に気付けない俺としては、多少心配ではある。
「あ!だからってあんまり和泉さんに話しかけたりしないでね!」
「はぁ?」
「ないと思うけど和泉さんが岩ちゃんのこと好きになったり、もちろんその逆もなしだからね!」
「ねぇよ」
とは言え、余裕があれば見といてやるよ。何か起こってから気付くのも心持ち悪いからな。
▼ ▲back