▼ 魔法で世界を美しく


和泉さんのクラスはほとんど席替えをしないと岩ちゃんから聞いてた。だから和泉さんはいつもの席で、いつもと同じように本を読んでいた。

「和泉さん」

声をかければ、やはりいつもと同じように読んでいた本から顔を上げてくれる。

「これ、ありがとう」

俺は借りていた小説を片手に近寄ると、意外だと言わんばかりの顔をした。そのあと少し残念そうな顔で「やっぱり及川には難しかった?」なんて言うんだからびっくりした。

「ちゃんと読んだよ!」
「わかってる」

和泉さんからしたらほんのジョークなんだろうけど、俺には本気にしか聞こえないから!もっとわかりやすい顔してよね。

「思ってたより早かったものだから」
「中休みとかに読んでたからね」
「それを想像できないくらいここに来てたと思う」

それを言われると痛いんだけど、和泉さんに会わない中休みとか、隙間時間に読んでたんだよ。

「読めた?」
「もちろん!」

借りた本は思っていた以上に読みやすくて、気付いたら読み終わってた。
正直文字ばっかりの本は苦手だったから、まさかこんなに早く読めると自分でも思わなかった。

「読みやすかったみたいでよかった」
「他にもなにかある?」
「及川が読めそうなもの?」
「うん」

好きかどうかは置いておいて、文章にたいしての苦手意識はだいぶ払拭された。この機会にもっと読んでみたいと思った。せっかくなら、和泉さんの好きなものを。

「なら同じ作者の本持ってくる」
「どんなやつ?」
「「私」が殺してしまった「彼」に殺された「私」が「彼」を助ける話」
「それってこの前読んでたやつ?」
「そう」
「楽しみだなぁ…あ!そうだった!」
「なに?」

本の返却もだけど、今日は和泉さんに大事な話があるんだった。

「和泉さん」
「なに?」
「予選、来てくれる?」

俺が知る限り、最初の烏野との練習試合以降で和泉さんが試合を観に来てくれたことはない。
それでも岩ちゃんと3人でバレーしたばっかりだから、興味が薄れたってことはないと思う。だけど和泉さんの都合もあるだろうから、必ず来てくれるなんて保証はない。

それに、春高予選は俺達の最後の試合。

「予選?春高の?」
「うん」

負けるつもりなんてこれっぽっちもない。今のメンバーで、次こそ東京に行く。

「行く」
「本当に?」
「及川がバレーしてるの、ちゃんと観たことないから」

松っつん曰く、インハイも来てなかったらしいから驚かない。…烏野との練習試合は?って思うけど、あの頃は知り合いでもなかったから仕方ないと思うことにする。

「それに、ルールもわかってきたからちゃんと観たい」

そんな和泉さんが試合に来てくれるって言ってくれた。今までいい返事をもらえなかったから、それだけでもめちゃくちゃ嬉しい。

「ありがとう」
「でも東京まではいかない」
「えー!来てよ!」
「めんどくさい」
「そんなこと言わずに!」
「やだ」

試合に行くんだから浮かれてられないけど、せっかくだから東京での試合も観てもらいたい。

「今はまだ、むり」

もしかして、向こうで知り合いに会うかもしれないから行きたくないのかな。

「じゃあまた誘うから、その時に和泉さんがどうしたいか教えて」

無理は言いたくない。それは和泉さんの中でゆっくり解決していかないといかないものだから。

「うん」

だからと言って、俺もただ待ってるだけじゃないけどね。


  
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