▼ 朝を夢見る
日に日に冬の訪れを感じるようになったこの頃、私は仙台市体育館に来ていた。
「ウチはシードだからね、2日目から観に来てくれたら大丈夫だよ」なんて言われて、私の通っている学校が強豪校であるという事実を再認識した。それと同時に、観ることができる試合数が少ないのかと落胆もした。
限られたシードを取っているだなんてプレイヤーからしたら誉れ高いことなのだから、外野の私がこんなことを言うのは失礼なんだということは重々承知している。でも思わずにいられなかった。
と、そこまで考えて気付いた。
そもそも及川が出ていないからなんだと言うのか。私はバレーボールという競技が観たいんだ。誰と観るでもないんだから、勝手に観に行けばいいんだった。
そう気付いたのが今日になってからなんだから、後の祭りもいいところ。気を取り直して目の前の試合に集中しなくては。
「伊達の7番って…」
「1年だべ?ちょいちょいミスってるし」
2番の人が7番の人になにか言ってるから、なにか指導でもしてるんだろう。及川と同じポジションで、及川よりも高い身長。高さを必要とする競技では、あの身長は重宝されるのだろう。
「今現在、県内最強の鉄壁か」
いくらか勉強したとはいえ、それらは所詮付け焼き刃。足りない情報を補うために周りの声を拾う。
ミスがあっても最強と称される相手。今後練習を重ねてミスが減ったら、それこそ一筋縄でいかないチームになるだろうと言うことはわかった。
「くっそ、伊達工でけぇな」
誰かが言うけど、私から言わせれば岩泉はけして小さい訳じゃない。比較対照が大きすぎて小さく見えるだけ。でも、岩泉はそんな外野の声に惑わされるようなタイプでもない。
「腕のど真ん中抜いたー!!」
最後の1点をノータッチでコートに叩き込んだ。
沸き立つ声がどこか遠いところで響いている。いつだったか、及川達がそれぞれ自分のポジションのいいところを熱弁したことがあった。聞いたときはよくわからなくて「そんなものか」と、なんとなく頭の片隅に置いていた。
それが今になって、痛いくらいにわかる。
不覚にも試合の熱気に当てられてぼんやり考えてしまった。その隙に挨拶の為客席に向かって選手が整列してた。そのほんの一瞬の間に、及川がどこかに向かって手を振ってた。
と言っても、沸き立つ女子の声に私じゃないと思って無視したんだけど。そうしたら一静さんが及川に何か言って、騒いだ及川に岩泉の腹パンが入ったところで、ようやく気付いた。あれは私に向けられたものだったらしい。
あまりに距離があるとわからないから、やめた方がいいと思う。
「あの、すみません」
「、はい。私になにか御用でしょうか?」
及川の謎な行動と当てられた熱意にぼんやりしてたら、返事が遅れてしまった。でも一拍遅れた返事は特に気にされなかったようで、客席の前まで来るように呼ばれた。
「なにか私に御用でしたか?」
どうしてここに呼ばれたのか生憎まったくわからない。だって及川達以外に、部員の知り合いなんていない。
「あ、はじめまして。温田兼生です」
「はぁ、和泉加奈枝です」
案の定知り合いではなかったらしく、自己紹介をされた。
「さっき及川から「和泉さん試合観るの初めてだから教えてあげて」って言われたんだ」
なるほど。及川が気を回してくれたのか。
「居づらいかも知れないけど、わからないことがあったら教えるから!何でも聞いて!」
「ありがとうございます」
正直なところ、この話は有り難かった。なぜなら中途半端に知識をつけた私がどんなに周りの声を拾っても、元々よく知ってる人達の話していることは良くわからなかった。かといって全く詳しくない人ではたいした情報がない。解説してもらえるのは本当に助かる。
「和泉さんが観に来てくれてたなんて嬉しいよ!」
「そうですか」
「スポーツ好きなイメージがなかったからさ。やっぱり及川?」
やっぱりってどういうこと?
「温田やめろって」
「え?」
「和泉さん引いてんだろ」
「え!マジで?ごめん!」
「いえ、お気遣いなく」
「ああああやらかしたああああ!」
「落ち着け」
よくわからないけど、この人が及川とまた異なるめんどくささを持ってることはよくわかった。
「ごめん!ウザかったら言ってくれ!黙るから!」
「わかりました」
「わかるんだ」
「和泉さん意外と面白いのな」
試合を観ることに、解説者がウザいかどうかは関係ないと思う。それに騒ぐ温田さんをたしなめているこの2人がいれば、観るのになんの支障もないだろう。
「よろしくお願い致します」
ほんの一時のこととは言えお世話になるのだからと頭を下げると、嬉しそうな声が返ってきた。
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