▼ 僕等の青春記


そう言えばと思い出して、ポケットに入ってた携帯を確認したら通知が1件。お母ちゃんかなと思って確認したらまさかのメール。今やほとんどの連絡をアプリで代用してると言うのに、わざわざメールを使う人なんて和泉さんしか思い付かなかった。

「ごめん!先帰ってて!」

メールを読むと、岩ちゃん達になんの説明をすることなく走り出した。

試合してさっきまで体育館で人数の揃わない状態でバレーしてぶっちゃけ疲れてるよ。走るたびに跳ねるエナメルは邪魔だし、別に走って戻らなくてもいいんじゃないかとも思う。
でも、待ってるなんて言われたら走らないわけにいかないじゃない。

「和泉さん!」

メールに書かれてた場所には、和泉さんだけがいた。この時間じゃあおかしくもない。

「別に急がなくてもよかったのに」
「和泉さんが待ってるってわかって急がないわけにいかないよ」
「待ってるなんて書いてない。気が向いたらって書いた」
「そうだっけ?」

気付かなかっただけで、メールが入ってたのはずいぶん前のこと。
結果的にこうして待っててくれたんだから、実際メールに書いてたかどうかはどうでもいいべ。

「で、及川さんになんのお話?」
「まずはお疲れ様でした」
「和泉さんも観に来てくれてありがとう」
「温田さんのおかげで、なんの問題もなく観ていられた」
「そっか、それならよかった」

いくらルールとかわかるようになったとは言え、初めてちゃんと観るとなるとリアルタイムでわからないことが出てくるだろうと思って、その解説役として指名したのが上にいた温田っち。やっぱり温田っちに声かけて正解だったよ。
それに、ウチのベンチにいたから大丈夫だと思うけど、女の子がひとりで観てたら良からぬ輩が声をかけるかもしれないからね。

「楽しめた?」
「ええ、それはもう」

楽しんでくれてよかった。それは間違いなく本音なんだけど…

「和泉さんには情けないところ見せちゃったねー」

東京まで行くって言ったのに、まさか烏野に負けるなんて思わなかった。今度こそ俺達が東京に行くって思ってた。
思ってたからこそ、キツい。

「もっとかっこいいところ見せたかったんだけど、ごめんねっ」

正直いつもと同じテンションで話すのもキツいくらいだけど、和泉さんの前でこれ以上情けない姿を見せるわけにいかない。
何を今更と言われようと、こればっかりは譲れない。

「情けなくなんかない」

それなのに、

「努力してきた人を貶す資格なんて、誰も持ってない」

なんでそんなこと言うのかなぁ。

「録画してない試合を観るまでわからなかった。体育館の熱気も、プレイヤーの熱意も、震えるほどの感動もなにもわからなかった」
「でも和泉さんの知り合いのいる烏野が勝ったし、よかったんじゃない?」

ああ、こんなこと言っていいものじゃない。こんなの卑屈でしかない。

「知り合いはいるけど私は青城の生徒で、及川にバレーボールを教わった」

どうして、

「私は及川達のバレーだから、ひとりだとしても観に行きたいと思った」
「ごめん、ちょっとだけ貸して」

俺は和泉さんを引き寄せて、そのまま抱きしめた。

そんなこと言われたらね、いくら俺でも泣いちゃうんだよ。しかも和泉さんに言われたら余計なんだよ。そこんとこわかってないでしょ。

「私は及川をカッコ悪いだなんて思わない。そんなこと、誰にも言わせない」
「今日はいつにも増して優しいね」
「別に。思ったこと言ってるだけだから」

危機感が薄いのかなんなのか、和泉さんはおとなしく俺に抱きしめられてる。
俺に言われたくないとは思うけどさ、こんなあっさり男に抱きしめられちゃダメだよ。なにをされるかわかったもんじゃないんだからね。

「明日は、ゆっくり休みなさいな」
「うん、ありがとう」


  
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