▼ 月明かりに反射する鈍色
負けた。その事実だけが重くのしかかってくる。気を抜いたら簡単に持っていかれることはわかっていた。実際ギリギリの試合をしていた。
もしボールが返ってこなかったら。もし俺がそこにいたら。もしブロックに当たって軌道が変わっていなかったら。
もし、勝ったのが俺達だったら。
『よく戦った』
どんなに考えたところで、俺達のバレーはここで終わり。
「あーくそ、及川お前マジやめろよなー」
「だって言いたかったんだもん」
「もんとかキメェ」
「それが許されるのは女子だけだ」
「なんかごめん!」
「お前らもホントあきねぇな」
「温田は泣き止め」
「うぅ…っ」
こうして集まるのも、これからなくなるんだよな。息抜きとかで顔を出すとは思うけど、チームとして試合に挑むことは、ない。
「まぁ、また顔出すべ」
「だろうな」
あれから片付けやらなんやらしてたらすっかり日が暮れてた。まだそんなに気にならないけど、さすがに気温差があるな。
無意識か意識してかはわからないけど、歩いてるときにバレーの話は出なかった。代わりに受験の話が飛び交う。
そこまで頭悪いつもりはないけど、既に勉強1本で打ち込んでる奴らを出し抜いて受験戦争を勝ち抜けるとはとても思えない。でもやらないわけにいかないから、とりあえず明日からは勉強だな。
今日はやんね。
「及川どうした?」
学校からしばらく行ったところで及川が立ち止まった。
携帯見てるから俺達も止まって待ってたけど、及川が顔をあげることはなかった。
「待ってる、って…」
「は?」
「ちょっと行ってくる」
「あ、おいどこ行くんだよ」
「学校!」
「ごめん!先帰ってて!」なんて言いながら顔を上げた及川は、携帯をポケットに突っ込んでエナメルを跳ね上げながら、今来た道を走って戻った。
「忘れ物か?」
「なんか体育館に残ってたか?」
「さぁ」
なにも知らなければそうとしか見えないだろう。でも、俺は気付いてしまった。及川が走って戻らないといけないような用事。
「わざわざ待っててやることもねぇだろ。帰んべ」
「そーだな」
岩泉も気付いてるのか?
及川とは長い付き合いらしいし、さんざん目の前で見てるんだから察してもおかしくはないか。
「だいぶ腹もこなれたな」
「俺デザート食いたい」
「コンビニ寄るか?」
「お前らまだ食うのかよ!」
客席に和泉さんがいることはすぐにわかった。初めはずいぶん上の方にいたけど、及川が温田に声をかけた後はバレー部と一緒に真ん中辺りにいた。
小さく集団になった人の中から、すぐに見つけることができた理由については深く考えない事にした。
少し前から和泉さんはバレーについて知ろうとしてたし、今日は楽しんでくれただろうか。ああ、でも。せっかく観に来てくれたのに、情けないところ見せることになったな。
「松川」
「なに?岩泉」
「…いや、その時になったら声かけるわ」
男前を体現していると言っても過言ではない岩泉が、歯切れの悪い言葉で終わるなんてらしくない。
「わかった」
岩泉が何を言おうと思ったのか想像もつかない。今はいろいろ考えない方がいいんだろうな。
家についたら嫌でも考え込むことになるんだから、今だけは思考を放棄してもいいだろ?
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