袖振り合うも多生の縁

次の日、俺はきなこを探すために昼休みを待たず、休み時間のたびに廊下を歩いた。夜久と海が知らなかったから、2人のクラスを除いて探していく。
それなのになかなか見つからない。どっか行ってんのかな。昼休みにって言ったからその時はいるだろうけど、早いとこ見つけたいんだよな。きなこには聞きたいことも話したいことも山ほどあるんだ。

「黒尾」
「なに」
「昼まで待った方がいいんじゃねぇの?」

短い授業間の10分休み。移動教室なんかがあれば絶対に通る廊下にいれば見かけるくらいはできるだろうと踏んで、1人で待ってたこのタイミングで夜久に会ったのは偶然だった。

「だってきなこと一緒にいたあいつ、ゼッテー俺と会えないようにするだろ」
「そりゃああんな事案起こせばな」

あれはうっかりテンション上がったからだよ。もう2度と会えないと思ってた奴に突然会えたら誰だってそうなるだろ。
どんなにそう思ったところで、俺がやらかした事実が消えることはない。研磨にバレたらまたなんか言われることは必至だろう。

「て言うか今やってることも事案直前だろ」
「わかってるよ」

俺は同じ轍は2度と踏まない。と言い切れないのが微妙なところだが、少なくとも意図的に犯罪を犯すつもりはない。

「お前なんであの子のこと必死になって探してるの?」
「久しぶりに会ったから積もる話があるんです」
「ふーん、黒尾とつるまなそうなタイプに見えたけどな」
「おい、どういう意味だよ」
「そのままだよ」

たしかに?きなこを最初にバレーに誘ったのは研磨だったし、なついてたのも明らかに研磨だ。
それなら研磨に任せた方がいいのかと一瞬思ったけど、研磨はまだ中学で、高校に来るまで後1年ある。その間きなこに何かあったとき、同じ校舎にいる俺がちゃんと関わりを持ってたら、俺の方が早く動ける。

「久しぶりに会った昔の友達のわりに、なんか過干渉じゃね?」
「は?そりゃあ…」

いや、これは言わない方がいいか。もしきなこが隠してるなら俺が言っていいことでもない。

「やっぱ言わね」
「いや言えよ。気になるだろ」
「夜久くんには関係ないので気にしなくていいんですー」
「いちいち腹立つな」
「俺が勝手に言っていいもんじゃねぇんだよ」

しかも教えてもらったこととかじゃなく、研磨と考えた結果の可能性の話。そんな曖昧なものを、おいそれと他人に言っていいわけがない。

「それなら最初から言おうとすんなよ」
「それは悪い」
「…黒尾が素直に謝るとか」
「おい。それどういう意味だよ」
「キモチワルイ」
「おい!」

気持ち悪いってなんだよ。普通だろ。俺はちゃんと謝れるタイプなんだよ。

「正直黒尾がどうなろうが俺には関係ねぇけどな」
「いくらなんでもヒドすぎねぇ?」
「今更黒尾に優しくしてやる必要もないだろ」
「マジひでぇな」

まぁ優しくなくてもいいんだけど。俺だって夜久に優しいかどうかと言われたらそんなことねぇし。

「黒尾」
「なに」
「あの子じゃね?」

そう夜久に言われて見れば、間違いなくきなこが歩いてた。隣にはあの女子もいる。

「夜っくんナイス」
「その呼び方やめろ」

あいつらいつも一緒にいるのか?きなこが1人じゃないならなんでもいいけど、ちゃんと他の友達いるのか?まさかいじめられてないよな?

「今犯罪者みたいな顔してるぞ」
「そんなことはない」
「いやある。これから人殺しそうな顔してる」
「マジで?」
「マジで」

それはヤベェな、気を付けよう。きなこにビビられたらマジでへこむ。

「この時間に音楽ってことは、俺の中学の同級生とクラス同じだな」
「夜っくん愛してる」
「死ね」
「酷すぎねぇ?」

想像以上に強力な味方だったらしい夜久のお陰で、早々にきなこのクラスがわかった。
後は昼休みにきなこと話すだけ。それにはまず、あのやたらと俺を敵視してくる女子からきなこを引き離さないといけない。別にきなこがいいならいてもいいけど、あいつおしゃべりそうだしきなこと話せなくなりそうなんだよな。それだけは嫌だ。

「なぁ夜久」
「なに」
「ちょっと協力してくんね?」
「明日の昼飯」

くそ、弱いところをついてくる。しかし背に腹は代えられない。

「オネガイシマス」
「俺は一緒にいた女子の足止めでもしとけばいいか?」
「なんなの夜久、話早すぎない?」
「あいつ黒尾にかなり噛みついてきてたからな。一緒にいることになったら話もできないだろ」

夜久から見ても俺はあいつに噛みつかれてたらしい。やらかしたことを考えると仕方ないとは思うけど、勢い余ったという事で許してほしいとも思う。

「明日は奮発させていただきます」
「おう、期待してるからな」

いや、それ明らかに俺の台詞だから。
とにもかくにも、今日と明日の昼の予定が決まった。夜久マジ神だわ。