ウグイスは高らかに啼く

学校が終わって携帯を確認したら、クロからうちに来るってメールが入ってた。

部活で疲れてる時にクロの相手をするのは、ぶっちゃけめんどくさい。どうでもいい話をしに来るだけならいいんだけど、愚痴とかなんか良いことあったからって話にくるのはもっとめんどくさい。
さっさと彼女でも作ってそっちに話聞いてもらえばいいのにと思ったけど、それはそれでしつこくノロケられそうだから、結局どうしたってクロはめんどくさいことになるんだろう。

メールにはわかったとだけ打って、そのまま返信を終わらせた。どうせ部活中に携帯なんて見れないし、もし返信がなくてもクロは気にしないで押しかけてくるからどうでもいいんだよね。

どうやら今日もコンビニ弁当のお世話になりそうだと、メールを確認してから学校から離れた。

家についてからしばらく、日が沈んだ頃にクロは来た。

「研磨!ちゃんと飯食ってるか?」

先に高校に上がったクロの部活の方が後に終わるから、俺は暇潰しにゲームして待ってたんだけど、うちに来たクロのテンションが出だしからウザい。

「うるさい。そもそもご飯食べるついでにこっち来たんでしょ」
「話のついでにな」

更に話があるなんて言うときのクロは、大抵めんどくさいって相場が決まってる。

「で、なに」
「まぁまぁ、とりあえず飯にしようぜ」

言われなくてもお腹はすいてるから、クロに言われるがままコンビニ弁当をレンジに入れた。クロも来るときに買ったらしいコンビニ弁当を片手にレンジまで来た。

…え、それ全部食べるの?

「なんだよ」
「別に、なんでもない」

よくそんなに食べれるよね。頼まれたっておれにはそれを全部食べられる気がしない。と言うか、ムリだしヤダ。吐く。
レンジで温めた弁当を2人でつつき始めて少ししてから、ようやくクロが話を始めた。

「研磨はさ、きなこのこと覚えてるか?」

忘れたことがない、なんて言うとちょっと違うけど、覚えてはいる。日常生活のふとしたときに「もしもきなこがいたら」なんて考える事があった。この間も、もし同じ学校だったら勉強教えてあげたり、同じクラブに入って一緒にバレーでもしてたのかな、なんて考えたばっかりだ。

「うん。ずいぶん久しぶりに聞いたけど、どうしたの?」

そうしてたまに考えてはいたけど、こうしてクロとの話題に出ることは全くなかった。だって、きなこにはもう2度と会えないだろうと思ってるから。

「いいか?驚くなよ?」
「わかったから早くして」
「きなこ、音駒にいた」
「………は?」

箸からおかずが落ちたのがわかったけど、気にしてる余裕はなかった。

「こぼすなよ」

どうやらおかずは弁当の上じゃなくてテーブルに落ちたらしい。
こぼしたのはクロが意味わかんないこと言うからでしょ。そんなことよりちょっと待って。なにが音駒にいたって?

「驚いたか?」
「クロ、高校行ってついに頭おかしくなった?」
「なってませんー正常ですぅー」
「きなこって、あのきなこだよね?」
「ああ。偶然今日見つけたんだよ。明日はクラスも見つける」
「そっか…きなこ、生きてたんだ」

きなこが音駒にいると聞いて、軽く混乱したおれにはそんなことしか言えなかった。

「…どういうことだよ」

おれが変な言い方をしたから、クロの雰囲気が刺さるようなものに変わった。

「いや、死んでると思ってたとかじゃなくて、ちゃんと元気でいたんだと思って…」

おれの言い方が悪かったから言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、まさかきなこが死んでたらとか、思うわけないじゃん。全く喋らなくておとなしくて、ケガばっかりしてて自己主張もしないきなこのことを、子どもなりに助けたいと思ってたくらいだし。

「そーかよ」

おれの言い訳に納得したのかしてないのかはわからないけど、また弁当をつつき始めたクロに習って早くも冷め始めたご飯を口に入れた。

クロの口振りからして、きなこが元気でいることは間違いない。もしもボロボロになったきなこを見つけたらそのまま連れ帰ってくるか、そんなことできなくても怒りながら助けるための相談をしてくると思うから。

「きなこ、高校生だったんだね。年下だと思ってた」
「だよな。俺もタメだって聞いて驚いた」

あの頃はおれよりも小さかったけど、今も小さいのかな。それとも、背が伸びて違う人みたいになったのかな。
今のところ会う予定もないのに、そんなことが頭の中で過った。

「クラスは?」
「明日しらみつぶしに調べる。だから昼休みは教室にいろって言っといた」

そう言えば、クラスは明日見つけるとか言ってたっけ。聞いたことをまた聞くなんて、俺も動揺してるのかな。
子どもの頃きなこの家を探した時もそうだけど、クロって結構ギリギリで生きてるよね。犯罪ライン的な意味で。

「捕まっても面会にはいかないから」
「は?どういうことだよ」
「わかんないならいいや」

でもまぁ、誘拐でもしてこない限り大丈夫かな。校内で探すくらいなら問題にならないし。

「研磨」
「なに」
「音駒にくる理由、増えたな」

元々高校なんてどこでもいいし、強いて言うなら電車とかめんどくさいから近場がいいってくらい。音駒だったら近いし、クロが誘ってきたからまぁいいかなってくらいで、絶対に音駒じゃないとダメな理由もおれにはない。

「そうだね」

だけど、音駒に行きたい理由は一つ増えたかな。