お買い物に行きましょう


「アリス、今日は街に行きましょう!」
『え?』

今日も食事を終えて特訓のために着替えていた時。リナリーが訪ねて来て言ったのは、この世界に来てから初めて聞く言葉だった。
おかげで理解するのに時間がかかったよ。

「アリスがここに来てしばらく経つでしょう?なのに1回も外に出てないから、今日は気分転換しましょ」
『でも特訓は?』
「1日くらい大丈夫よ。たまには息抜きしなきゃ疲れちゃうもの」

リナリーの服は明らかにおでかけ仕様になってる。だってスカートで練習なんてできないし、そんなきれいな服じゃ汚れるもん。

『うん』

こうしてでかける準備をしてから強行突破してくるんだから、リナリーも結構頑固だよね。もちろんいい意味で。私がうにゃうにゃ考える方だから助かります。

「ほら、早く着替えて」
『あ、そっか』

練習すると思ってたから稽古着だったんだ。
今日はどうしようかなー。せっかくおでかけするし、ちょっとくらいおしゃれしたい。元々はアリスの服だからそこから探すのも違和感なんだけどねぇ。

「これなんていいんじゃない?今日あったかいし」
『じゃあそうしようかな』
「それからこれに…」

アリスの服を漁り始めたリナリーを見ながら思ったことは、今日はリナリーのコーディネートに決まりだなってこと。
アリスの服って私が今まで持ってた服と全然違うから選ぶの大変なんだよね。どれをどう使ったらいいのかいまだによくわかんない。リナリーの引っ張り出す服はどれもかわいいしセンスもいいから、いっそのことでかける度に毎回お願いしたいくらいだよ。

「そう言えば最近コルセット着けないわね。着ける?」
『苦しくない?』
「苦しくないわよ」
『じゃあする』

うーむ、それにしても買い物か。これといって必要なものは特にないし…なに買おう?

「ねぇアリス、こっちとこっちどっちがいい?」
『んー…左』
「じゃあこれはこっちの方がいいかしら」

初めてアリスの部屋を見たとき「あぁ、私の部屋だな」と思ったのを今も覚えてる。
ほとんどの家具や小物は無地で、たまにある柄物は私が好きなボタニカル模様。慣れるのは本当に一瞬だった。昔から使っていたように物の場所がわかる。

そこから、私とアリスは違う世界にいる同一人物なんじゃないかなと思ったんだ。ドッペルゲンガーみたいな。

『あ』
「どうしたの?」

薄手のポンチョを手にリナリーが振り返った。
私そんな服持ってたんだ。どこから見つけたんだろう…じゃなくて。

『私、お金ないよ?』
「心配しなくて大丈夫よ。経費から落ちるから」

あ、そうなんだ。私物を買いに行くのに経費なんだ。それって大丈夫なの?

「はい、着替えて」
『着方よくわかんない』
「じゃあ教えてあげる」

リナリーが選んだ服を言われるがままに着ていく。シュミーズに浅葱色のコルセットとペチコート。それから濃紺の薄手のポンチョ。
なにこれ舞台衣裳?

「懐かしいわね」
『なにが?』
「【アリス】ったらイベントの時にしかそういうの着なかったのよ」
『正装ってこと?』
「普段着よ」

え、これ普段着なの?
この時代の人って毎日こんなにいっぱい着込んでるの?めんどくさ。

「めんどくさがっていつも男の人と同じような服ばっかり着てたんだから」

もしかして私が普段選んでるのって男物だったのかな?だって普通のシャツいっぱいあるよ。あと中国っぽいのもあった。

「さ、準備もできたし早く行きましょ」

時代の波に追い付けてない、いや戻りきれていない私の思考を無視してリナリーは私の腕を引いて歩く。

単純にリナリーが行きたかったんじゃないかってくらい楽しそうで、私はしばらくの間テンションの高いリナリーにおとなしく連れられることにした。

「アクセサリーもいいけど、あんまりつけられないものね。やっぱり服?でもそんなに頻繁に着れないし…」

なにやらいっぱい考えてるリナリーは今までに見たどの瞬間よりも女の子だ。
楽しそうでなにより。

今日はいつもお世話になってるリナリーにとことん付き合おうじゃないですか!

「これかわいい!」
『こっちのもかわいい!リナリー似合いそうっ』
「じゃあアリスはこれなんてどうかしらっ」

なんて思ってたのに、雑貨屋さんでうっかりきゃっきゃしてしまった自分に気付いた。

「私これ買ってくるわ」
『じゃーここで見てるね』

なんだこれ女子高生か?歳はそうだけどさ、世界超えてるのに普通の女子高生みたいにはしゃげるって私図太いな。

『お?』

シンプルなシルバーの小さなピアス。頭赤いし顔周りが賑やかだから、これくらいシンプルな方がラビに似合いそう…や、シルバーが似合わない人もいないか。

せっかく連れ出してもらったんだし、私もなんか買おうかなー。

「お待たせ、なにかいいのあった?」
『いや、見てただけ』
「ピアス?」
『うん』
「アリスピアスなんてしてたの?」
『みたい』
「知らなかった…」

私もこっちに来てから暫くは知らなかった。洗面台の下にピアスが落ちてたから、もしかしてと思って見たら開いてたんだよね。
友達はピアス開けてたけど、私は怖くてできなかったから。

「買うの?」

これなら私が付けてもまったく問題ないだろうけど、特別ピアスを付けたいわけでもない。そもそもこれ、ラビに似合うかなーと思ってみてただけだし。
どうしようかな。なんて悩んでみたけど、悩む意味がなかったくらい私の意思は早々に固まってた。

『うん。買っちゃう』

ラビだけじゃ不公平かな。神田だけ仲間外れみたいになるもんね。

「他にもなにか見る?」
『うん』

神田ならやっぱり髪留めかな。紐ならさっきこっちによさそうなのあったよね。

「ねぇアリス、さっきのよりこっちの方が似合うんじゃない?」
『ピアス?』
「そう」

リナリーが見つけてくれたピアスはシンプルなんだけど、すごく女の子っぽい。
さっき私が見つけたのは、小さな球体がついてるだけの本当によく見るやつ。リナリーが見つけたのは私が見つけたものより少し大きめで、球体のところがバラになってるやつ。

「せっかくなんだから、かわいいの買ってもいいんじゃない?」

ラビのイメージしかなかったことなんてリナリーは知らないから、きっと私が付けると思ってるんだろう。
アリスも花が好きみたいだったから、これが手元に残ってても、きっと使ってくれる。

『これも買う。大丈夫かな』
「ええ、いいけど…そんなに気に入ったの?」
『うん』

だってリナリーが私の為に選んでくれたんだもん。このまま手元に置いておきたい。
後は神田の…あ、この髪紐いいんじゃない?真っ黒い赤…ガーネットみたい。よーし、神田はこれにしよ。

リナリーにもなにかお返しできたらなぁ…

それからしばらく、2人で店内を物色してからお店を出た。
なんか、結構いろいろと買っちゃった気がする。無駄にティーセット買っちゃったし…ごめんなさいコムイさん。

「次は洋服見ましょ」

ショッピングバッグを提げてはしゃぐリナリーを見てると、元気だなぁって思っちゃう。私もまだ若いんだけどね、こう、自分よりテンション高い人がいるとテンション下がる現象が起きてる。

「これ絶対似合うわ」
『そうかな?』
「そうよ、絶対似合う!」

そんなリナリーがかわいい。
決めた。いつかコムイさんから奪ってやろう。それで泣かせてやろう。

「これもかわいいっ」

でもね、リナリー。おねーさんちょっとだけ言いたいな。買い過ぎ選びすぎ厳選してください。帰り持ちきれなくなっちゃうから。

『リナリー、私こんなに着ないよ』
「そんなことないわよ」
『あるよっ?!』

私訓練ばっかりだし!
そう言ってなんとかリナリーを宥めて、渋々丈の長いワンピースを1枚、ブラウスが3着、セーターは1着にしてくれた。
それでも多いけどね。こんなにいっぺんに服買うの初めてだよ。セールかな?バーゲンかな?いいえ、どちらでもありません、定価です。

なんかこっちきてから初めてのことばっかりだな。

「ああやっぱりこれも!」
『リナリー…』
「だってこれ絶対アリスに似合うもの!お願い、これで最後だから!」

そんなリナリーに弱い私…お金は経費だからあんまり気にしてないけどね。帰りがちょっと大変じゃないかな。

あれ?私リナリーの彼氏だったのか?