お買い物に行きましょう


結局お店を出るまでにかなりの量を買ってしまった。もうこれ以上買うのは控えないと、教団のお財布事情を逼迫することになってしまう…って、あれ…

『リナリー、私あそこ行きたい』
「ええ」

もう買い物はしないと決めたばかりの私が見つけたのは、奥まった路地にひっそり佇む商店。看板もなにもないけど、私が気になったのは戸口に開いた状態で置いてある番傘。

「傘屋さんかしら…?」
『わかんない…』

パッと見じゃあただの民家かお店かもわからない。もしかしたら昨晩の雨で使って乾かしてるだけかもしれない。
でも、私はここがお店だとほぼ確信している。だってここに番傘があるなんて絶対変だもん!

『ごめんくださーい…』

ドアを開くと小さくベルがなった。静かに開けすぎたんだろう。これじゃあ忍び込んでるのと大差ない。でも、そんなことは私の意識にほとんど残らなかった。

お店で間違いなかったこともそうだけど、店内には着物や番傘、簪や巾着といろんなものが置いてある。

なんだここめっちゃテンション上がる!

「日本のお店なのかしら」

リナリーは見慣れないのか辺りをきょろきょろ見回してる。私は脇目も振らず、真っ直ぐ簪を見に行った。
なんで簪かって?値段がかわいいからだよ。

「アリスは日本人なのよね」

暫く小物系を見て回って、やっぱり着物もいいなぁなんて眺めてたとき、リナリーに聞かれた。

『へ?うん』

私は生粋の日本人だよ。時代はずれてるけどね。

「日本が恋しい?」

日本が恋しいかどうかと言われたら、正直微妙。
だって普段は洋服着てて、着物なんて絶対に着ない。着たとしてもお祭りの時とかに浴衣を着るくらい。ご飯だって和食だけで生活してるわけじゃなくて洋食やジャンクフードもあったから、食生活も今とあんまり変わらない。
そう考えると、あんまり日本って感じの文化が色濃い思い出ってあんまりない。

『まぁ…』

でもここで全然興味ないとも言えない。
日本が特別恋しいわけではないけど、その日本に私の生活があったんだもん。それはやっぱり恋しいよ。友達もみんな日本だし。

「せっかくだからなにか買えば?」
『悪いよそんなの』
「気にしなくていいわよ」

そう言うもんなの?リナリーといるとなんか許されてる感半端なくて、本当に大丈夫なのか気になる。
でも欲しいと思ってるのも事実。

『これ、どうかな?』
「それならこっちの方がアリスには似合うわ」
『じゃあそっちにしよ』

リナリーのセンスに間違いないからね。私は素直にリナリーの選んだ簪にシフトした。
ああ、でも浴衣も欲しいなぁ。それならやっぱり下駄もはずせないし、この扇子かわいい。帯締めもいいなぁ。

そんなことを考えてるのがバレてたのか、リナリーは次から次へと手にとっていくものだから止めるのが間に合わなかった。

「これはなんに使うの?」
『それは飾りだから、なくても大丈夫』
「じゃああった方がいいわね」

私がなくても大丈夫と言ったのに必要と判断されたのか、迷うことなく帯飾りが購入予定に組み込まれた。
こうなったリナリーを止めるのは至難の技だ。少なくとも今の私には止められない。たまに何に使うのか聞きながら、私の「使わない」を却下しながら手に抱えていく。
私はリナリーに選んでもらった簪と蜻蛉玉だけ持ってる。

「アリス、これで着れる?」

そう言ったリナリーの手には一通り揃ってるけど、着物も浴衣も全部混ざってる。

『着れるけど、種類混ざってるよ』
「あら、そうなの?」

少なくとも着物は着ないから、リナリーが残念そうにしてて申し訳ないけど全部戻した。
気付けができないわけではないけど、敷居が高すぎるからね。

そうして減らしていったのに、結局一式を買ってしまったよ。重さもそれなり。
これ完全な無駄遣いだよ。こんなのいつ着ればいいんだろう?寝るときに着る?いやいや、それこそもったいないを極めるよ。

「アリス、そこのカフェでお茶しない?」

そんな私の悩みなんてどこ吹く風。リナリーが指差したのは小洒落たオープンカフェ。お客さんもなんかお洒落だ。

そわそわと落ち着かない私とリナリーは、入れ替わりで空いた角席に通された。

「どうする?」
『うーん…』

悩むー。チーズケーキもいいけどショートケーキもいいなぁ。でもほとんど読めない。これなんだろう?ベリー…たぶんタルト。
紅茶もなんか色々あるけど、マジでわからん。こうなったらありそうなやつを適当に言ってもいいかな。いや、それはいくらなんでも危険すぎる。せめて予測できるやつ…

「決まった?」

あんまり待たせちゃうと悪いよね。

『うん。決まった』

決まるどころか読めてないんだけどね!

「すみませーん」

リナリーが声をかけると店員さんは素早く注文を取りにきた。おお、爽やかイケメンですね。

「私はスコーンとストレートティを」
『ロイヤルミルクティとチーズケーキで』

あ、ショートケーキにしようと思ったのに間違えた。いいや。夜ジェリーさんに作ってもらお。

「買い物はもういいの?」
『うん。結構買ったし…そうだ!』

私は傍らに置いておいた買い物袋に手を突っ込んだ。

「アリス?」

おかしいな?確かに買ったんだけど…どこにいったのかな…

『あった!はい、リナリー』
「これ…私に?」
『うん。今日はありがとう』
「ありがとう」

なんて事ないシルバーの髪飾りなんだけど、気に入ってくれたらいいなぁ。
ほら、シルバーは魔除けになるって聞いたことがあるから、ほんの少しでもリナリーのことをを守ってくれたらいいなと思ったんだ。

「私もあるの」
『え、嘘ぉ』
「さっき髪飾り買ってたから、もしかしたら要らないかもしれないけど」

渡された袋の中からは、蝶の飾りのついた髪留めが出てきた。

「最近いつも髪結んでなかったから、もしかしたら持ってないのかと思って」
『持ってない…と思う』

部屋には見当たらなかったから、多分そうだと思う。いつも練習の時とか困ってたんだよね。別に邪魔ではないけど、縛った方が視界が広くなると思ってたから。

『綺麗…』

光に翳すと、蝶の羽の部分が角度によって蒼から碧に変わって、不思議な色だけどすごく綺麗。

『ありがとうリナリー』
「お待たせ致しました」

紅茶とケーキを持ってきてくれた店員さんはさっきとは違って女の人。
美人さんだ…さっきのお兄さんといい教団の人といい、ここには美人しか存在してないのか?

『でもこんないい物…私がもらっていいの?』
「全然、それにアリスのために買ったんだから」
『ありがとーっ』

櫛もなにもないからあんまり綺麗にはできないけど、軽い編み込みを作って肩の上で留めてみた。

『どう?リナリー』
「すっごく似合うわ」

蝶が大きめだから、肩に蝶が止まってるみたい。虫苦手な人いたらごめん…って言うか、もしかしてアリスこれ使えないんじゃない?

「それにしてよかった」

じゃあ、リナリーは今日一日、アリスじゃなくて私に選んでくれてたってこと…?

『ありがとう』
「え!ちょっと泣かないで」
『ごめん、なんか勝手に』

最近の私は涙腺が緩んたらしく、簡単に涙が出るようになった。
あれかな、年取ったら緩くなるってやつ。私まだ10代なんだけどね。

「もう。アリスったら本当に泣き虫ね」
『私じゃないもん』
「じゃあ【アリス】ってことにしましょう」
『うん』
「ほら、ケーキ食べて戻りましょう」
『うん』

ほんの少しだけね、帰りたいなって思ってた。いつも思ってるんじゃなくてふとした時に。
ここは私の世界じゃないから。ここにいたらいけない存在だから。そう思ってたから、【私】が必要なものなんて揃える意味がないと思ってた。

「おいしいでしょ」
『うん』
「ここ、お気に入りでたまに来るの」

それなのに、リナリーは【私】に似合うと言ってあれこれ揃えてくれてた。

「また一緒に来ましょうね」

同じ名前じゃ、どっちのことかわかんないよ。

『うん』

少なくとも、私はリナリーのこと大事にしたい。私のこともアリスのことも、同じように考えてくれるんだもん。こんな優しい人、大事にしない訳にいかないじゃん。


△ ▼ △


「ただいま兄さん」
『ただいまー』
「二人ともおかえり」

私は荷物を部屋に置く前に科学班にきました。ちょっと用事があったからね。

『コムイさん、はいっお土産です』
「ありがとうアリスちゃん」

眼鏡はいつも綺麗にしなきゃだもんね。
だからって白衣で拭いたりなんかしたらダメなんだから!

あ!ジョニー発見!

『ジョニー!ジョニーにこれあげる!リーバー班長にはこれ!あとこれはねー…!』

いつもみんなに迷惑かけてるからさ、ちょっとでも感謝の気持ちを伝えたかったんだ。

「リナリー…」
「ずいぶん脈絡なく買うなとは思ってたの…全部これだったのね」

あれこれ考えるの大変だけどさ、結局のところ買い物って楽しいよね!
まぁ全部経費から落ちるんだけどさ。

コムイさん、ごめーんねっ