「リナリー、食堂に行ってごらん」
簡単な探索任務を終えて報告した時、食堂に向かうように兄さんからすすめられた。
少しお腹もすいてるし、なにかお腹にいれてから休もうと考えていた時。
『お隣しっつれーい』
ここ暫く聞くことのできなかった声が聞こえてきて、食堂を見回すことになった。
『神田いつ帰ってきたの?今?ロシアめっちゃ寒かったよ!雪すっごいの!極寒の地ってやつだったね!』
私のいるところ場所からは程遠い所からアリスの声が聞こえてくる。距離と人の多さから姿は見えないけど、きっと神田の隣にいるんでしょうね。神田の周りはいつも席が空いてるから。
「うぜぇ」
『神田も元気そうで何よりだよ!』
アリスったら、いつの間に帰ってきてたのかしら?
だから兄さんは「食堂に行ってごらん」なんて言ってたのね。ひどいわ、もっと分かりやすく教えてくれてもいいじゃない。私がどれだけアリスの帰りを待ってたか兄さんだって知ってるはずなのに。
『神田また蕎麦?』
「お前に関係ないだろ」
それにしても、本当に仲が良いわね。話しかけて無視される事も少なくないあの神田が、こんなに喋るなんて滅多にないもの。
『まぁそうだけどさー…蕎麦ばっかりとか体に悪そう』
「んなわけあるか」
『これもお食べよ』
「んなもん蕎麦に乗せんな!」
『だからって返すことないじゃん!』
【アリス】の時はアジア支部から一緒だった事と、性格的に似てるところがあったから仲が良かったのも納得できた。2人が一緒にいるときの雰囲気は、他の人といる時には絶対にない特別なものだった。
だからこそ【アリス】じゃなくなった時、誰よりもアリスのことを否定してたのに、いつの間にこんな仲良くなってたのかしら?
『おいしいのに…モンブラン』
「蕎麦と一緒に食うもんじゃねぇだろ」
『うー』
…それは神田に同意するわ。
アリスってたまに味覚がおかしいのよね。味覚音痴って訳ではないと思うんだけど、甘味の方が少し鈍いような感じ。これも偏食なのかしら。
「それより、大丈夫か?」
『ああ、大丈夫だよ。すぐよくなるって』
「きちんと治せよ。関節はくせになる」
アリス怪我したの?と言うか神田が他人の心配?そんなの今までに1度も聞いたことなかったわ。
『うん、マザーも言ってた。しばらくは特訓禁止って』
もしかしたら私が知らないだけで【アリス】には昔からそうだったのかもしれない。やっぱり、神田にとってアリスは特別なのかしら。
『また予定より遅れちゃうよぉ』
「自業自得だな」
予定ってなんのこと?
兄さんが任務に慣れてもらうためにも徐々に難易度をあげていくって言ってたけど、その事?
『まだこれから頑張ればなんとかなるし!』
「どうだか」
『でも参ったね、まさか利き手やっちゃうなんてツイてないよ』
よくわからないけど、なんだか神田の方がアリスと仲良さそうでちょっともやっとするんだけど。
「いい加減慣れろ」
『恐いものは恐いんですぅー』
「そんなことだと死ぬぞ」
アリスの恐いものってなにかしら。【アリス】は普段苦手とするものでも任務になればその意識がなくなってたみたいだけど、アリスはそうじゃないのかしら?
『わかってる』
「じゃあな」
『もう行くの?』
「次の任務があるんだよ」
『神田今戻ってきたばっかりって言ってたじゃん』
「知るか」
『うー…そうですねー』
正直私のご飯なんてどうでも良いところまできてしまってる。それほどお腹がすいてる訳じゃないし、もうアリスと話すだけでいいわ。
『神田も気をつけて』
「んなヘマしねぇよ」
『一応だよ!』
なんだか表情もいつもと違うのよね。本当に昔から、初めて神田に会ったあの時から、神田は【アリス】にだけ違ってた。ラビだって「あの神田が」って言ってたもの。
それは【アリス】にも言えたこと。今のアリスも分かりづらいけど、神田には少し違う感じがする。
『いってらっしゃーい』
そこで私は一つの可能性に行き着いた。
とても信じられないけど、なんだかそれが1番しっくりくるのよね。ただの可能性だけど、それが絶対にないとも言い切れない。むしろそうでないとおかしい所が多いのよ。
神田はいなくなったことだし、話しかけちゃいましょ。直接聞くのが1番早いもの。
「お帰りなさい、アリス」
『リナリーっただいま!』
アリスの正面に腰を下ろすと、満面の笑みで返事をくれるんだからかわいくてしかたがない。
花が咲くようなってこの事を言うのね。
『今ね、神田もいたんだよ?また蕎麦食べてた!』
「見てたわ」
『え、見てたの?』
厳密には小柄なアリスの姿は見えてなかったけど、身長を気にしてたアリスにそんな事は言えないわ。
「ええ。ねぇ、いくつか聞いてもいい?」
『うん。いいよー』
「アリスは神田の事をどう思ってるの?」
『へ?神田?』
神田の事を聞かれると思ってなかったのか、モンブランがお皿の上に音をたてて落ちた。
『どうしてそうなったの?』
「だって、アリスったら神田と仲が良いんだもの」
こんな言い方、ただ拗ねてるだけみたい。
そんなことないのよ?ただあんなに楽しそうに話しかけられてる神田がちょっと羨ましいと思っただけで。
『そうかな?』
「そうよ!普段はそんなに話さないでしょう?」
『まぁ…神田は任務ばっかりだしね』
それでいつの間に仲良くなったの?神田と話すタイミングなんて今までにあったのかしら?
【アリス】は少しだけだったけど、アリスは神田と同じ日本人だから?
『別に神田と仲良しなつもりはまったくないんだけどなぁ…いきなりどうしたの?』
「少し気になっただけよ、気にしないで。それと怪我は大丈夫?」
『うん…って、私リナリーに言ったっけ?』
「いいえ。さっきたまたま聞こえたの」
『そっか…リナリーに心配かけたくなかったんだけど』
「なにも知らない方が心配するわ。【アリス】はいつもなにも言わなかったから」
思い返せば、【アリス】はいつだって色々なことを隠してしまってた。怪我も病気も、例えどんなに嫌なことがあったとしても嘘はつかず、誰にも気付かれないように上手に隠してしまう。私が気付くのはいつだって全てが終わってから。【アリス】はそんな人だった。
『ごめんね』
「いいのよ。アリスになにもないならそれで」
それは紛れもない【アリス】の強さだったけど、逆に弱さでもあった。
あの日【アリス】が酷い怪我をしたのも、きっとこれが原因だと思ってる。
「あ、もう一つ聞いてもいい?」
だから、今は絶対に隠したりなんかさせない。
『うん』
ボロボロになって帰ってきた【アリス】を見て後悔したわ。どうして無理にでも話を聞かなかったのかと。
何度病室に向かっても【アリス】は眠ったまま。怪我が良くなって包帯がとれても、意識が戻る気配はなかった。
生きてはいるけどいつ目覚めるのかわからない、もしかしたら眠ったまま2度と目を覚まさないのかもしれないとも思った。
「アリスの恐いものってなに?」
『へ?』
誰も私を責めたりしないけど、任務に赴く直前に言葉を交わした私が【アリス】の異変に気付くべきだったわ。もし私が気付けていれば、あんなことにはならなかったかもしれないと今でも思う。
どれもこれもただの可能性の話だけど、もうあんな気持ちになるのは嫌なのよ。
『もしかしてさっきのほとんど聞いてたの?!』
「なんだか楽しそうに話してたから声かけづらくて」
『いや、話しかけてくれても全然よかったんだけど…』
「けど?」
『なんか恥ずかしいなぁ』
「なにが?」
驚いたり照れたり笑ったり、今まで【アリス】の表情がこんなにくるくる変わるのは見たことがない。別に比べてるつもりはないんだけど、やっぱりアリスは【アリス】じゃないんだと実感する。
ねぇ、恥ずかしいのは怖いものがあるから?それとも2人で楽しそうに話してたところを見られたから?
『私ね、細いものが恐いの』
「細いもの?」
『ペン先とか箸とか、向けられると恐くて』
「それがどうして任務に関係あるの?」
『神田のイノセンスって日本刀じゃん?そうでなくても武器って尖ってるのに、切っ先を向けられるとどうにも怖くて』
「確かに、それは慣れないと危ないわね」
そもそもアリスは戦うことに消極的なのよね。イノセンスを発動した時も、なんだか複雑そうな顔をしてたもの。
『でしょ?この間見てもらった時もちょっと引いちゃって…だから神田に怒られたの』
もしあして今回の任務でアクマが出たのかしら。
アクマがいる確率は低いって聞いてたけど、そんなうまくいくわけないわよね。いくらアリスがイノセンスに不慣れで戦うことに消極的だと言っても、私達は戦うためにあるんだから。
でも、
「急がなくていいじゃない。アリスのペースでゆっくり慣れていきましょう?」
『…リナリー大好きっ』
「私もよ」
聞きたいことはあまり聞けなかったけど、アリスが幸せそうならそれでいいわ。
簡単な探索任務を終えて報告した時、食堂に向かうように兄さんからすすめられた。
少しお腹もすいてるし、なにかお腹にいれてから休もうと考えていた時。
『お隣しっつれーい』
ここ暫く聞くことのできなかった声が聞こえてきて、食堂を見回すことになった。
『神田いつ帰ってきたの?今?ロシアめっちゃ寒かったよ!雪すっごいの!極寒の地ってやつだったね!』
私のいるところ場所からは程遠い所からアリスの声が聞こえてくる。距離と人の多さから姿は見えないけど、きっと神田の隣にいるんでしょうね。神田の周りはいつも席が空いてるから。
「うぜぇ」
『神田も元気そうで何よりだよ!』
アリスったら、いつの間に帰ってきてたのかしら?
だから兄さんは「食堂に行ってごらん」なんて言ってたのね。ひどいわ、もっと分かりやすく教えてくれてもいいじゃない。私がどれだけアリスの帰りを待ってたか兄さんだって知ってるはずなのに。
『神田また蕎麦?』
「お前に関係ないだろ」
それにしても、本当に仲が良いわね。話しかけて無視される事も少なくないあの神田が、こんなに喋るなんて滅多にないもの。
『まぁそうだけどさー…蕎麦ばっかりとか体に悪そう』
「んなわけあるか」
『これもお食べよ』
「んなもん蕎麦に乗せんな!」
『だからって返すことないじゃん!』
【アリス】の時はアジア支部から一緒だった事と、性格的に似てるところがあったから仲が良かったのも納得できた。2人が一緒にいるときの雰囲気は、他の人といる時には絶対にない特別なものだった。
だからこそ【アリス】じゃなくなった時、誰よりもアリスのことを否定してたのに、いつの間にこんな仲良くなってたのかしら?
『おいしいのに…モンブラン』
「蕎麦と一緒に食うもんじゃねぇだろ」
『うー』
…それは神田に同意するわ。
アリスってたまに味覚がおかしいのよね。味覚音痴って訳ではないと思うんだけど、甘味の方が少し鈍いような感じ。これも偏食なのかしら。
「それより、大丈夫か?」
『ああ、大丈夫だよ。すぐよくなるって』
「きちんと治せよ。関節はくせになる」
アリス怪我したの?と言うか神田が他人の心配?そんなの今までに1度も聞いたことなかったわ。
『うん、マザーも言ってた。しばらくは特訓禁止って』
もしかしたら私が知らないだけで【アリス】には昔からそうだったのかもしれない。やっぱり、神田にとってアリスは特別なのかしら。
『また予定より遅れちゃうよぉ』
「自業自得だな」
予定ってなんのこと?
兄さんが任務に慣れてもらうためにも徐々に難易度をあげていくって言ってたけど、その事?
『まだこれから頑張ればなんとかなるし!』
「どうだか」
『でも参ったね、まさか利き手やっちゃうなんてツイてないよ』
よくわからないけど、なんだか神田の方がアリスと仲良さそうでちょっともやっとするんだけど。
「いい加減慣れろ」
『恐いものは恐いんですぅー』
「そんなことだと死ぬぞ」
アリスの恐いものってなにかしら。【アリス】は普段苦手とするものでも任務になればその意識がなくなってたみたいだけど、アリスはそうじゃないのかしら?
『わかってる』
「じゃあな」
『もう行くの?』
「次の任務があるんだよ」
『神田今戻ってきたばっかりって言ってたじゃん』
「知るか」
『うー…そうですねー』
正直私のご飯なんてどうでも良いところまできてしまってる。それほどお腹がすいてる訳じゃないし、もうアリスと話すだけでいいわ。
『神田も気をつけて』
「んなヘマしねぇよ」
『一応だよ!』
なんだか表情もいつもと違うのよね。本当に昔から、初めて神田に会ったあの時から、神田は【アリス】にだけ違ってた。ラビだって「あの神田が」って言ってたもの。
それは【アリス】にも言えたこと。今のアリスも分かりづらいけど、神田には少し違う感じがする。
『いってらっしゃーい』
そこで私は一つの可能性に行き着いた。
とても信じられないけど、なんだかそれが1番しっくりくるのよね。ただの可能性だけど、それが絶対にないとも言い切れない。むしろそうでないとおかしい所が多いのよ。
神田はいなくなったことだし、話しかけちゃいましょ。直接聞くのが1番早いもの。
「お帰りなさい、アリス」
『リナリーっただいま!』
アリスの正面に腰を下ろすと、満面の笑みで返事をくれるんだからかわいくてしかたがない。
花が咲くようなってこの事を言うのね。
『今ね、神田もいたんだよ?また蕎麦食べてた!』
「見てたわ」
『え、見てたの?』
厳密には小柄なアリスの姿は見えてなかったけど、身長を気にしてたアリスにそんな事は言えないわ。
「ええ。ねぇ、いくつか聞いてもいい?」
『うん。いいよー』
「アリスは神田の事をどう思ってるの?」
『へ?神田?』
神田の事を聞かれると思ってなかったのか、モンブランがお皿の上に音をたてて落ちた。
『どうしてそうなったの?』
「だって、アリスったら神田と仲が良いんだもの」
こんな言い方、ただ拗ねてるだけみたい。
そんなことないのよ?ただあんなに楽しそうに話しかけられてる神田がちょっと羨ましいと思っただけで。
『そうかな?』
「そうよ!普段はそんなに話さないでしょう?」
『まぁ…神田は任務ばっかりだしね』
それでいつの間に仲良くなったの?神田と話すタイミングなんて今までにあったのかしら?
【アリス】は少しだけだったけど、アリスは神田と同じ日本人だから?
『別に神田と仲良しなつもりはまったくないんだけどなぁ…いきなりどうしたの?』
「少し気になっただけよ、気にしないで。それと怪我は大丈夫?」
『うん…って、私リナリーに言ったっけ?』
「いいえ。さっきたまたま聞こえたの」
『そっか…リナリーに心配かけたくなかったんだけど』
「なにも知らない方が心配するわ。【アリス】はいつもなにも言わなかったから」
思い返せば、【アリス】はいつだって色々なことを隠してしまってた。怪我も病気も、例えどんなに嫌なことがあったとしても嘘はつかず、誰にも気付かれないように上手に隠してしまう。私が気付くのはいつだって全てが終わってから。【アリス】はそんな人だった。
『ごめんね』
「いいのよ。アリスになにもないならそれで」
それは紛れもない【アリス】の強さだったけど、逆に弱さでもあった。
あの日【アリス】が酷い怪我をしたのも、きっとこれが原因だと思ってる。
「あ、もう一つ聞いてもいい?」
だから、今は絶対に隠したりなんかさせない。
『うん』
ボロボロになって帰ってきた【アリス】を見て後悔したわ。どうして無理にでも話を聞かなかったのかと。
何度病室に向かっても【アリス】は眠ったまま。怪我が良くなって包帯がとれても、意識が戻る気配はなかった。
生きてはいるけどいつ目覚めるのかわからない、もしかしたら眠ったまま2度と目を覚まさないのかもしれないとも思った。
「アリスの恐いものってなに?」
『へ?』
誰も私を責めたりしないけど、任務に赴く直前に言葉を交わした私が【アリス】の異変に気付くべきだったわ。もし私が気付けていれば、あんなことにはならなかったかもしれないと今でも思う。
どれもこれもただの可能性の話だけど、もうあんな気持ちになるのは嫌なのよ。
『もしかしてさっきのほとんど聞いてたの?!』
「なんだか楽しそうに話してたから声かけづらくて」
『いや、話しかけてくれても全然よかったんだけど…』
「けど?」
『なんか恥ずかしいなぁ』
「なにが?」
驚いたり照れたり笑ったり、今まで【アリス】の表情がこんなにくるくる変わるのは見たことがない。別に比べてるつもりはないんだけど、やっぱりアリスは【アリス】じゃないんだと実感する。
ねぇ、恥ずかしいのは怖いものがあるから?それとも2人で楽しそうに話してたところを見られたから?
『私ね、細いものが恐いの』
「細いもの?」
『ペン先とか箸とか、向けられると恐くて』
「それがどうして任務に関係あるの?」
『神田のイノセンスって日本刀じゃん?そうでなくても武器って尖ってるのに、切っ先を向けられるとどうにも怖くて』
「確かに、それは慣れないと危ないわね」
そもそもアリスは戦うことに消極的なのよね。イノセンスを発動した時も、なんだか複雑そうな顔をしてたもの。
『でしょ?この間見てもらった時もちょっと引いちゃって…だから神田に怒られたの』
もしあして今回の任務でアクマが出たのかしら。
アクマがいる確率は低いって聞いてたけど、そんなうまくいくわけないわよね。いくらアリスがイノセンスに不慣れで戦うことに消極的だと言っても、私達は戦うためにあるんだから。
でも、
「急がなくていいじゃない。アリスのペースでゆっくり慣れていきましょう?」
『…リナリー大好きっ』
「私もよ」
聞きたいことはあまり聞けなかったけど、アリスが幸せそうならそれでいいわ。