ジョニー達と談話室で遊んでてうっかり遅くなった私は、早く部屋に戻ろうと1人で教団内を歩いてる。
一応灯りがあるから真っ暗ではないんだけど、薄暗い灯がちらちら揺れて影を作るから、今にも角からなんか出てきそうでヘタに真っ暗よりよっぽど怖い。
早く帰ろう。そう思って足を早めた瞬間、何かが肩を叩いた気がした。
『ふわわわわあ!』
気がしたんじゃなくて何か乗ってる!
びっくりして跳びあがって振り返ると、リーバー班長が私よりもびっくりした顔をしてた。
「わ、悪い。驚かせたか?」
『り、リーバー班長ー…』
勘違いでもおばけでもなくてリーバー班長だった。よかった。本当によかった。
おばけなんてここにはきっといないし、教団内で私が思ってるような怖いことなんて起きないだろうけど、ここそこらのおばけ屋敷よりもずっと怖いんだよ。もしもいるとしたら、人体改造が趣味のキテレツロボくらいなもんだろう。
「確か、アリス暗い所ダメだったろ?だから気になって声かけたんだけど…今は違ったか?」
そう言えばアリスも暗いのダメだったっけ。
『いえ、今も変わらずです』
「なら途中までいいか?」
『もちろんです。ありがとうございます』
リーバー班長の申し出に甘えて2人並んで歩く。揺れる影の長さがまったく違くて、ほんの少し兄貴を思い出した。
滅多に並ぶことなんてないけど、班長の隣ってやけに落ち着くんだよね。お兄ちゃんにほしい。もし本当にお兄ちゃんだったら、私の兄貴と違って優しくて面倒見もいい最高のお兄ちゃんなんだろうなぁ。
「あれからイノセンスの調子はどうだ?」
『まぁまぁですかね』
同調値はすっかり安定してしまったのか上がりもしなければ下がりもしない。これが巷で言う倦怠期ってやつなのかな。
「重さも相変わらずか?」
『まだ重いですね。それなりに筋肉はついてきてるはずなんですけど』
「調節しなくていいのか?」
『はい。【私】のイノセンスなんで、このまま使いたいんです』
それに、アリスのイノセンスを私なんかの為に勝手に弄るのは良くない。これは然るべき日にアリスに返すんだから。
「そうか」
『リーバー班長はまた徹夜になりそうですか?』
イノセンスのありそうなところを探して噂を集めたり、ゴーレムみたいな機材を作ったり、イノセンスの研究をしたり。
科学班はそれこそ山のように仕事を抱えてる。
「あー、まぁ仕方ないさ」
『体壊さないでくださいね』
よくみんな倒れないなって感心するけど、どうやら倒れる人も少なくないらしい。たまにマザーが「このワーカーホリックが」って怒ってるのが聞こえる。
「エクソシストは命かけてるからな。それに比べたら、俺達なんて安全なもんだよ」
『それでも出来るだけ寝てくださいよ。倒れちゃ元も子もないです』
「室長が仕事してくれたらな」
またサボってるのか。
コムリン開発の為にサボってるのなら、私はその作りかけを壊すために奔走するのもやぶさかではない。
『なら殴ってでもさせましょう』
「ははっ頼もしいな」
だってあれホント迷惑だもん。私のこと雑魚とか言うし、なんで「強くする=マッチョ」の法則が確固として存在してるのかわからない。あと、神田を坊主にしても強くはならないと思う。ある意味強くはなるか。
「なんだかんだで今も前も変わらないんだな」
『そうですか?』
みんなたまにそれ言うんだよね。「記憶がなくなってちょっと変わったのに、アリスは【アリス】のままなんだな」って。私とアリスは違う人間なのに、どうしてみんなそう言うんだろう。
リナリー達から聞くと確かによく似てるけど、好みなんかはもちろん多少の差が出てる。でも昔と変わらないってどういうこと?これじゃあ本当にただの記憶喪失と変わらない。
「アリス?」
本当にもしかしたらって言う、推測と呼ぶのも恥ずかしいような考えなんだけど、もしかして私とアリスって同じ人間なのかな?
暗いのが怖いは、きっとお互い違う理由がある。私が赤を好む理由があるように、赤を嫌う理由がアリスにはある。似通った大部分を考えると、こんなのは誤差の範囲だ。
なんだろう。もし私とアリスが同じ人間だったらと考えると、少し怖い。
「どうかしたか?」
班長なら、なにかわかるかな…
『あの、』
「なんだ?」
『ちょっと考え付いちゃった事があるんですけど、相談してもいいですか?』
「おお、なにを考え付いたんだ」
廊下は静かで、鼠の歩く音もしない。
『今、リーバー班長が根本は変わらないって言いましたよね』
「ああ」
『ジョニーとか、他の人にも同じようなことを言われるんです。アリスは【アリス】のままなんだなって』
私とアリスの共通点はそれこそたくさんあるけれど、たった今までまったくの別人だと思ってた。
「そりゃあ記憶がなくなっただけなら…って、そうか」
『私はアリスじゃないんです』
だけどみんなが言うように根本的な部分が同じだから、結果として共通点が多くなったんじゃないかと思った。まったく別の人間なのに、根本が同じって言うのがおかしいんだ。
『そこで思ったんです。もしかしたら、私とアリスは同じ人間なのかもしれない』
「…どういうことだ?」
『さっき班長が「記憶がなくなっただけなら」って言ったように、きっとアリスと私は同一人物なんです』
根本的に変わらない。ただ記憶がないだけと同じ。それじゃあ私とアリスの違いを証明することができない。
そもそも中身だけ変わってるんだから証明のしようがないんだけど。
『私と【アリス】は体こそ違う世界に在るけど、同じ魂を共有している1つの固体なんじゃないかと思います』
うっ…優しい班長がこいつなに言ってんだ?って顔してるぅ!くそ真面目に自分でもよくわかってないことを語ったからか!慣れないことはするもんじゃないぜ!
『えっと、だからですね、私とアリスは平行世界に別々に存在している同じ人間と言うか、世界線を越えたドッペルゲンガーと言うか、次元を越えた双子と言うか、私はアリスでアリスは私だったと言うか』
あ、もう本当によくわかんなくなってきた。これじゃなにが言いたいんだかリーバー班長も絶対わかんないって。しかもなんか言葉選びがオタクくさい。
なんだ、今1番いい言葉はどれだ?!ボキャブラリーの少ないこの頭が今は憎い!
「なんとなくアリスの言いたいことはわかった」
『ほ、本当ですか?!』
「なんとなくだけどな」
なんとなくでも全然いいです!わかってくれてありがとうございます!私でもわかんなくなってきてたことがよくわかりましたね、さすが班長です!
「要するに、オレがオレに会うことがないように、【アリス】とアリスもまた、本来出会うはずのない同じ人間ってことなんだよな」
『そうです!』
「だから俺とアリスもこうして会うはずがなかった」
『…はい』
だから、私はいつか必ずこの世界と別れることになる。ここはアリスがいるべき世界なんだから、私がここにいつまでもいていいはずがない。
私だってできるなら帰りたいよ。でも、帰ったらここのみんなとは2度と会えなくなる。
『同じ人間であって同じ人間ではない。世界からしたらそれはすごく些細な違いかも知れないんですけど、それはすごく重大な違いなんじゃないかな…って』
こうして知り合ってしまったんだから、今更全部忘れるなんて簡単にできないよ。ここは既に私にとって創造された世界じゃなくて、現実になってるんだから。
「こんな事例、今までになかったから俺にもなんとも言えないが…」
こんなこと過去に何度も起きてたら困るけど、今回が初めてだって言う証明もまたできない。前例があったとしても、ただの記憶喪失とかで片付けられた可能性もあるからね。
「まぁそんな深刻になるなって。いますぐどうこうなるわけじゃないんだし、気楽に構えとけよ」
私そんなに深刻そうな顔だったかな?そんなつもりなかったけど…
「変わらないって言ったけど、アリスは随分変わったよ。わかりやすくなった」
変わんないけど変わった?わかりやすくなったって、それは私が単純とか、顔に出てるってこと?
「【アリス】は表情も抑揚も抑え込んでたし口数も多くなかったから、ほとんどなにを考えてなにを思ってるのかわからなかったからな」
だから私は子供っぽいって言われるのか。そんなアリスと比べられたら、そりゃあ子供っぽくも見えるか。
そう言えばリナリーもあんまり感情的にはならないよね。表情が乏しい訳じゃなくて、ちゃんとコントロールしてる感じ。私ももう少し意識してみようかな。
…あれ?ちょっと待って。それってものすごく簡単に言うと冷たいってことじゃない?
『アリス、口も態度も悪かったんですよね?』
「お?あー、多少な」
こっちでは実力があれば生きていけるからそれでよかったけど、私の世界じゃそうはいかないんだよ。適当に周りに合わせて目立たずのらりくらりと波に乗っていかないといけないんだよ。協調性ってやつが大事なんだよ。
あと!私の友達にテンションがラビみたいな子いるんだけど大丈夫かな。変なところで繊細なところがあるから、いきなり睨んだら可哀想だからやめてあげて。
どうしよう、めっちゃ心配になってきた。
一応灯りがあるから真っ暗ではないんだけど、薄暗い灯がちらちら揺れて影を作るから、今にも角からなんか出てきそうでヘタに真っ暗よりよっぽど怖い。
早く帰ろう。そう思って足を早めた瞬間、何かが肩を叩いた気がした。
『ふわわわわあ!』
気がしたんじゃなくて何か乗ってる!
びっくりして跳びあがって振り返ると、リーバー班長が私よりもびっくりした顔をしてた。
「わ、悪い。驚かせたか?」
『り、リーバー班長ー…』
勘違いでもおばけでもなくてリーバー班長だった。よかった。本当によかった。
おばけなんてここにはきっといないし、教団内で私が思ってるような怖いことなんて起きないだろうけど、ここそこらのおばけ屋敷よりもずっと怖いんだよ。もしもいるとしたら、人体改造が趣味のキテレツロボくらいなもんだろう。
「確か、アリス暗い所ダメだったろ?だから気になって声かけたんだけど…今は違ったか?」
そう言えばアリスも暗いのダメだったっけ。
『いえ、今も変わらずです』
「なら途中までいいか?」
『もちろんです。ありがとうございます』
リーバー班長の申し出に甘えて2人並んで歩く。揺れる影の長さがまったく違くて、ほんの少し兄貴を思い出した。
滅多に並ぶことなんてないけど、班長の隣ってやけに落ち着くんだよね。お兄ちゃんにほしい。もし本当にお兄ちゃんだったら、私の兄貴と違って優しくて面倒見もいい最高のお兄ちゃんなんだろうなぁ。
「あれからイノセンスの調子はどうだ?」
『まぁまぁですかね』
同調値はすっかり安定してしまったのか上がりもしなければ下がりもしない。これが巷で言う倦怠期ってやつなのかな。
「重さも相変わらずか?」
『まだ重いですね。それなりに筋肉はついてきてるはずなんですけど』
「調節しなくていいのか?」
『はい。【私】のイノセンスなんで、このまま使いたいんです』
それに、アリスのイノセンスを私なんかの為に勝手に弄るのは良くない。これは然るべき日にアリスに返すんだから。
「そうか」
『リーバー班長はまた徹夜になりそうですか?』
イノセンスのありそうなところを探して噂を集めたり、ゴーレムみたいな機材を作ったり、イノセンスの研究をしたり。
科学班はそれこそ山のように仕事を抱えてる。
「あー、まぁ仕方ないさ」
『体壊さないでくださいね』
よくみんな倒れないなって感心するけど、どうやら倒れる人も少なくないらしい。たまにマザーが「このワーカーホリックが」って怒ってるのが聞こえる。
「エクソシストは命かけてるからな。それに比べたら、俺達なんて安全なもんだよ」
『それでも出来るだけ寝てくださいよ。倒れちゃ元も子もないです』
「室長が仕事してくれたらな」
またサボってるのか。
コムリン開発の為にサボってるのなら、私はその作りかけを壊すために奔走するのもやぶさかではない。
『なら殴ってでもさせましょう』
「ははっ頼もしいな」
だってあれホント迷惑だもん。私のこと雑魚とか言うし、なんで「強くする=マッチョ」の法則が確固として存在してるのかわからない。あと、神田を坊主にしても強くはならないと思う。ある意味強くはなるか。
「なんだかんだで今も前も変わらないんだな」
『そうですか?』
みんなたまにそれ言うんだよね。「記憶がなくなってちょっと変わったのに、アリスは【アリス】のままなんだな」って。私とアリスは違う人間なのに、どうしてみんなそう言うんだろう。
リナリー達から聞くと確かによく似てるけど、好みなんかはもちろん多少の差が出てる。でも昔と変わらないってどういうこと?これじゃあ本当にただの記憶喪失と変わらない。
「アリス?」
本当にもしかしたらって言う、推測と呼ぶのも恥ずかしいような考えなんだけど、もしかして私とアリスって同じ人間なのかな?
暗いのが怖いは、きっとお互い違う理由がある。私が赤を好む理由があるように、赤を嫌う理由がアリスにはある。似通った大部分を考えると、こんなのは誤差の範囲だ。
なんだろう。もし私とアリスが同じ人間だったらと考えると、少し怖い。
「どうかしたか?」
班長なら、なにかわかるかな…
『あの、』
「なんだ?」
『ちょっと考え付いちゃった事があるんですけど、相談してもいいですか?』
「おお、なにを考え付いたんだ」
廊下は静かで、鼠の歩く音もしない。
『今、リーバー班長が根本は変わらないって言いましたよね』
「ああ」
『ジョニーとか、他の人にも同じようなことを言われるんです。アリスは【アリス】のままなんだなって』
私とアリスの共通点はそれこそたくさんあるけれど、たった今までまったくの別人だと思ってた。
「そりゃあ記憶がなくなっただけなら…って、そうか」
『私はアリスじゃないんです』
だけどみんなが言うように根本的な部分が同じだから、結果として共通点が多くなったんじゃないかと思った。まったく別の人間なのに、根本が同じって言うのがおかしいんだ。
『そこで思ったんです。もしかしたら、私とアリスは同じ人間なのかもしれない』
「…どういうことだ?」
『さっき班長が「記憶がなくなっただけなら」って言ったように、きっとアリスと私は同一人物なんです』
根本的に変わらない。ただ記憶がないだけと同じ。それじゃあ私とアリスの違いを証明することができない。
そもそも中身だけ変わってるんだから証明のしようがないんだけど。
『私と【アリス】は体こそ違う世界に在るけど、同じ魂を共有している1つの固体なんじゃないかと思います』
うっ…優しい班長がこいつなに言ってんだ?って顔してるぅ!くそ真面目に自分でもよくわかってないことを語ったからか!慣れないことはするもんじゃないぜ!
『えっと、だからですね、私とアリスは平行世界に別々に存在している同じ人間と言うか、世界線を越えたドッペルゲンガーと言うか、次元を越えた双子と言うか、私はアリスでアリスは私だったと言うか』
あ、もう本当によくわかんなくなってきた。これじゃなにが言いたいんだかリーバー班長も絶対わかんないって。しかもなんか言葉選びがオタクくさい。
なんだ、今1番いい言葉はどれだ?!ボキャブラリーの少ないこの頭が今は憎い!
「なんとなくアリスの言いたいことはわかった」
『ほ、本当ですか?!』
「なんとなくだけどな」
なんとなくでも全然いいです!わかってくれてありがとうございます!私でもわかんなくなってきてたことがよくわかりましたね、さすが班長です!
「要するに、オレがオレに会うことがないように、【アリス】とアリスもまた、本来出会うはずのない同じ人間ってことなんだよな」
『そうです!』
「だから俺とアリスもこうして会うはずがなかった」
『…はい』
だから、私はいつか必ずこの世界と別れることになる。ここはアリスがいるべき世界なんだから、私がここにいつまでもいていいはずがない。
私だってできるなら帰りたいよ。でも、帰ったらここのみんなとは2度と会えなくなる。
『同じ人間であって同じ人間ではない。世界からしたらそれはすごく些細な違いかも知れないんですけど、それはすごく重大な違いなんじゃないかな…って』
こうして知り合ってしまったんだから、今更全部忘れるなんて簡単にできないよ。ここは既に私にとって創造された世界じゃなくて、現実になってるんだから。
「こんな事例、今までになかったから俺にもなんとも言えないが…」
こんなこと過去に何度も起きてたら困るけど、今回が初めてだって言う証明もまたできない。前例があったとしても、ただの記憶喪失とかで片付けられた可能性もあるからね。
「まぁそんな深刻になるなって。いますぐどうこうなるわけじゃないんだし、気楽に構えとけよ」
私そんなに深刻そうな顔だったかな?そんなつもりなかったけど…
「変わらないって言ったけど、アリスは随分変わったよ。わかりやすくなった」
変わんないけど変わった?わかりやすくなったって、それは私が単純とか、顔に出てるってこと?
「【アリス】は表情も抑揚も抑え込んでたし口数も多くなかったから、ほとんどなにを考えてなにを思ってるのかわからなかったからな」
だから私は子供っぽいって言われるのか。そんなアリスと比べられたら、そりゃあ子供っぽくも見えるか。
そう言えばリナリーもあんまり感情的にはならないよね。表情が乏しい訳じゃなくて、ちゃんとコントロールしてる感じ。私ももう少し意識してみようかな。
…あれ?ちょっと待って。それってものすごく簡単に言うと冷たいってことじゃない?
『アリス、口も態度も悪かったんですよね?』
「お?あー、多少な」
こっちでは実力があれば生きていけるからそれでよかったけど、私の世界じゃそうはいかないんだよ。適当に周りに合わせて目立たずのらりくらりと波に乗っていかないといけないんだよ。協調性ってやつが大事なんだよ。
あと!私の友達にテンションがラビみたいな子いるんだけど大丈夫かな。変なところで繊細なところがあるから、いきなり睨んだら可哀想だからやめてあげて。
どうしよう、めっちゃ心配になってきた。