いつも頭で考えてばかり


よく寝てよく食べることをモットーとしてる私は、教団のみんなより動き始めるのが少し遅い。
一般的な朝ではあるけど、ここのみんな朝が早すぎるんだよ。明け方が朝の勢いだよ。だから私が食堂に向かう頃はいつだってひどく混んでるわけではないけど、人波去った後の気配がする。

『おはようございますジェリーさん』
「あらん?どうしたの?今日はなんだか元気ないじゃない」

そんな食堂で基本的に1番初めに言葉を交わすのがジェリーさん。
スッキリしない気持ちのまま挨拶したら、あっさりジェリーさんに見抜かれた。

『昨日お風呂入りながら寝ちゃったんですけど』
「やだ、風邪ひいてない?大丈夫?」
『それは大丈夫でした。ありがとうございます』

いけない。余計な心配をさせちゃった。

「ならいいんだけど、なんかあったなら話くらい聞くわよ?」

なら、少しだけいいかな。
後ろに人いないし、誰か来たら注文の邪魔にならないように避ければいいかな?

『その時夢を見たんですよ。あ、今日はオムライスと苺のブランマンジェでお願いします』
「ハーイ。ちょっと待ってちょうだいね。それで、どんな夢だったの?」
『それがまったく覚えてないんですよ!すぐ寝たら続きが見れると思ってすぐ寝たんですけど、夢なんて見れなくて…』

できるだけ急いで寝たのに、お風呂で見た夢の続きどころかなんの夢も見ないほど熟睡したらしく、結局なんの夢だったのかわからないまま。

「わからず仕舞いなのね」
『はい。なんか変だけどすごく大切な気がしたんですよね…』

しかも珍しい事に起きてからもずっと気になってる。いままで1度もこんなことなかったのに、なにがそんなに気になってるんだろう?

「まぁ夢なんて相当なものでもないと起きたら忘れちゃうものよ。仕方ないわ」

うーん。そうなんだけど、わかってはいるんだけど、それでも気になるなぁ…なかったことにするか?よし、そうしよう。
10秒考えても思い出せないものは思い出せないから諦めろって、前に学校の先生に教わった。

「はい、オムライスと苺のブランマンジェ、おまちどーんっ」
『ありがとうございます』
「あんまり気にしすぎちゃダメよ」
『はい』

適当な席に座って早速オムライスを口に運ぶと、ふわふわ卵とケチャップの絶妙なバランスに顔が緩んだ。
今日も最高においしいですジェリーさん。マッチョなオカマさんなジェリーさんをこの食堂の誰よりも信頼してます。流行りの主夫ってやつですね。

「おはようアリス」
『あ、リナリー!おはようっ』

食事を終えたらしいリナリーに声をかけられて、考えるのを止めたことを除いてもテンションが上がったのを自覚した。
リナリーは私と違ってコムイさんのお手伝いやらなんやらしてるから、私と同じ時間に食堂に来ることは珍しいんだよね。だからテンション上がるのも仕方ないと思うの。

「今日は団服着てるのね」
『うん、昨日湯冷めしたからかなんとなく寒くて』
「大丈夫?風邪ひいてない?」
『うん。大丈夫』
「ならいいんだけど…」

また心配させちゃった。
発言する前に少し考えるようにしようかな。今みたいに思ったこと言ってたら、リナリーに心配かける事ばっかりになりそう。

「そうだ、兄さんがアリスの事を呼んでたわ」
『え。じゃあ急がなくちゃ』

なんだろう?私なんかしたかなぁ…なんて学生じゃないんだからそんなわけないか。
思ってもなかったコムイさんからの呼び出しに、おいしいご飯をゆっくり堪能なんてできず食べるペースを早くする。

「頑張ってね」
『うん。じゃあ後でね』

…あれ?頑張ってってことは、今日の特訓リナリーじゃないのかな?

じゃあまたラビかー。
文句なんてないけど、なんかこう、やりづらいんだよなぁ。いや、誰とでも対等以上に渡り合えるようにならなきゃダメなんだけど、ラビ手抜きすぎるんだもん。私が弱すぎるからそうせざるを得ないのもわかるんですけどね、そんなんじゃ私ずっと雑魚のままですから。ちゃんと死なない程度に本気を出してほしいんですよ。
無理を言ってることはわかってますよ。

『ご馳走様でしたっ』

オムライスを食べ終わると、気持ちだけは急いでコムイさんの下へ向かった。

デザートのブランマンジェは飲みました。

「あれ?アリスなんか用事?」
『なんかコムイさんが呼んでるって聞いてさー』
「へー」

よくわからないけど相変わらずなにか忙しそうな科学班。ジョニーもその例に漏れず、忙しそうに書類を運んでた。それに私は仕事の邪魔をしに来たわけではない。
会話もそこそこに、私は科学班室長室の扉を全力で開いた。

『コムイさーん。かわいいアリスが来ましたよー』

…ごめんなさい。これ1回やってみたかったんだけど、結構痛かったね。自滅だよ。だから科学班の皆さんそんな目で私を見ないでくださいお願いします。

書類の散らばる部屋を抜けてコムイさんの机に向かった。
部屋もだけど、机もいい加減に整頓しないとヤバいと思う。どれがなんの書類か絶対にわかんないよね。

「おはようアリスちゃん」

よく脱走してるコムイさんだけど、さすがに人を呼んでおいて脱走はしないらしい。

『おはようございます。ご用はなんですか?』

いつもより少し張り詰める空気の中、なにやら深刻そうな顔をしたコムイさんがいた。

「…アリスちゃん」

あーあ、それだけで何を言われるかわかっちゃった。我が儘を言わせてもらえるなら、もうちょっとだけ時間が欲しかったなぁ。
だってまだ自信ないんだよ。でもそんなことも言ってられないか。ここはいつだって人手が足りないんだもんね。

『任務ですね』
「ごめんね」

コムイさんが謝る必要はまったくない。謝るべきは未だに弱い私の方だ。

『いえ、なにもできない私を1年も教団においてくれたんですから、それだけで十分です』

アクマ、出るのかな?出ても仕方ないか。私はアクマを破壊する為の武器を持っていて、戦う術も多少身に付けた。今私がやらなくても、他のエクソシストがやらなくちゃいけない。それなら私がいつまでも逃げてるわけにいかない。

コムイさんが眉尻を下げて笑った時、扉の開く音と容赦なく散らばった書類を踏み締める音がした。
誰かが報告かなにかで来たんだろう。朝からご苦労様ですと思って振り返ると、そこには昨日教団に戻ったばかりの神田がいた。

「神田くんも悪いね」

まさか、神田と一緒?

『コ、コムイさん!』
「今度の任務はどこだ」
「ドイツだよ。アリスちゃんと2人でね」

やっぱり!リナリーこのこと知ってたから食堂であんなこと言ってたんだ!

「俺だけでいい」
「それがそうもいかなくなっちゃったんだよ」
『…ごめん』

うう、不安だ。不安しか見えない。

「アリスちゃんはなんにも悪くないんだからいいんだよ」

いや、やっぱり神田がものすごく怒ってる様に見えるから、なんとなく…同調値もまだ目標に達してないし。

「詳しい場所だけどね、ドイツ北部にある森林地帯のダンケルンという村で、最近その村に行った人が帰ってこないらしいんだ。【帰らずの森】という噂が立っていてね。イノセンスによる奇怪現象の可能性があるので、探索部隊を3人調査に向かわせた。2日前のことだ」

2日。この世界ではずいぶん早いと思うけど…連絡が取れなくなったとか?

「ダンケルン村は森の奥にあるんだが、探索部隊はその森の手前にある、ミッテルバルトという町から目的地に向かうという連絡が入ったのを最後に消息不明だ」

やっぱり。
探索部隊の人達大丈夫かな。無事だといいんだけど、まったく連絡が取れなくなったなら期待はしない方がいいかな。

「これが細部の地図になる。ドイツに着いたら、まずミッテルバルトに向かってくれ。森には一本道があり、谷に着くと古い石の橋がかかっている。橋を越えればダンケルン村だ。この森がどうにも引っかかるんだけどね。古来、森には不気味な伝説がつきものだから……」

え。ちょっとコムイさん、そんな情報今いらなかったです。

「まあ、そんなことはともかく、森を通るときには気をつけて。何かがいるかもしれない」

もっといらないその情報!やだやだ怖い!おばけ出るみたいに言わないでよ!

「不安だとは思うけど、今すぐドイツに向かって探索部隊の救出に当たってもらいたい」
『はい』

書類には今聞いた内容の詳細が記されてる。
探索部隊の人達も心配だけど、なにより私の身が心配です。ちゃんと生きて帰ってこれるかな?

「いくぞ」
『待って神田!』

身長差があるから先に歩き始めた神田に着いていくには走らないといけない。
この時点で体力的に不利だよ!

「急がないと夜になるぞ」
『それはやだ!』

でも夜に森に入るなんて絶対に嫌だからそんなことは言ってられない。
私は神田を追い越して走り出した。