[おまけ:アリスが寝た車内での事]
俺が座ったのを確認すると、アリスさんはすぐに目を閉じて動かなくなってしまった。
「…アリスさん、寝ちゃいました?」
「知らん」
「座ってすぐだなんて、相当疲れていらしたんですね」
「こいつは体力がなさすぎるだけだ」
列車に乗るまでもふらふらして危なかったし、もしかしたら極限状態だったのかもしれない。
「聞いた話ですけど、アリスさんは復帰後初めての本格的な戦闘だったんじゃないですか?」
「こいつがエクソシストであるかぎり、そんなもの言い訳にもならん」
「そうですね」
探索部隊と違って、エクソシストはイノセンスに選ばれる必要がある。彼らはイノセンスに選ばれた神の使途。イノセンスを武器として、アクマと戦うことが義務付けられてる。
「なんか、アリスさん寝づらそうですね」
「そんなことまで世話してられるか」
ものすごく頭グラグラしてますけど、押さえたりしなくて大丈夫かな。結構揺れるからどこかにぶつけなければいいんだけど…
『うー…ぐっ…ぅ…』
やっぱりぶつけた。結構な音が聞こえたけど、それでも寝てるって事は、本当にギリギリのところで起きてたんだろう。
エクソシストとしてはそんなに熟睡されると不安だけど、ちょっと可哀想になるな。
「あ」
また頭をぶつける。
そう思った時、神田さんの手がアリスさんの頭を捕まえて窓にぶつける前に引き寄せた。
『んう…』
めんどくさいと言わんばかりの顔だけど、なんだかんだでアリスさんの事を気遣ってるのはわかる。
「そう言えば、アリスさんは以前の戦闘で負った怪我が元で、記憶をなくされてるんですよね」
「ああ」
とても怖い人だとか仲間を見捨てる冷酷な人だとか、それはもういろいろな話を聞いた。本当に怖い人は怖い噂しか流れないのに、不思議なことにアリスさんはまったく逆の話も聞いていた。
「その為、性格がすっかり変わってしまわれたとか」
「…そうだな」
俺はアリスさんと同じ任務につくことがなかったから、どれも噂でしか知らなくて、どの話を信じたらいいのかわからなかった。
でも、噂は噂。
「前のアリスさんも噂でしか知らないんですが、今のアリスさんも噂以上に可愛らしい方でびっくりしました」
「は?」
実際に見ると、聞いていたよりもずっと人間味があって可愛らしかった。
「小さくてちょこまかしてて、小動物みたいで可愛いじゃないですか」
今も落ち着くところを探してるのか、寝づらそうにたまに動いてる。
「…そうか?」
「俺は今日初めてアリスさんにお会いしましたが、こんな何処にでもいそうな人が本当にアクマを破壊せるのかと疑ってしまいました」
正直なところ、背が低いところもあってこんな子どもに戦闘を任せていいのかと気が引けたけど、そんな心配は必要なかった。探索部隊の俺と違って、アリスさんはエクソシストとしての仕事をしっかりこなしてた。
「実際、こいつはなんの役にも立たなかった」
「そんなことないですよ」
『んー』
結局落ち着くところが見つからなかったのか、列車の揺れに合わせて神田さんの膝の上に転がることで漸く落ち着いたらしい。
どんなにエクソシストとして戦闘を繰り広げても、こうして疲れて寝てるところはまだまだ子ども。精一杯背伸びして大人になろうとしてるんだろうと思うと、助けてあげたくなる。
きっと神田さんもそうなんだろう。
「こうしてお2人を見てると、まるで兄妹みたいですね」
神田さんはアリスさんと違って冷たい人だという噂しか聞かなかったけど、本当に冷たい人なら戦闘の時にアリスさんを後ろに下げたり、気を使ったりしないだろう。
「言っておくが、こいつと俺は同い年だぞ」
「じゃあ双子ですね。そこまで外見がそっくりってわけではないですけど、長い黒髪で自分勝手で乱暴な物言いなところまでよく似てますし」
「おい」
そう、お2人はとてもよく似てる。
戦闘において、とても冷静に判断を下すから冷たい人だとみんなに思われてしまうんだ。冷静であることと冷酷なことはイコールにはならない。冷静な判断の裏で、俺にはわからない葛藤があったのかもしれない。
「俺、ずっと神田さんは冷たい人だと思ってました。でも勝手なことを言った俺を見捨てずにいてくれました」
見捨てることができたのに、そうしなかったのは神田さんの優しさだ。
「くだらん」
「実際に血を流し、アクマを倒したのはあなた方だ。ただ見ていることしかできなかった俺が、あんな偉そうに情けを語る資格なんてなかったのに」
隊を全滅させない為に、冷静な判断力も必要不可欠。俺にはまだ、お2人のように冷静な判断は下せそうにない。
「…そうだな。だが、戦闘において、もとから探索部隊の人間に何も期待していない」
期待なんてされなくて当たり前だ。闘う為の武器を持てない探索部隊は、戦力に数えられることはない。よくて盾になれるくらいだろう。
「そうですよね」
俺はこの人達の役に立てるときがくるんだろうか。そう考えると、それは途方もないことのように感じて、情けなくなる。
『…うに…』
そんな時、アリスさんが何か呟いた。
『いくら…まぐろ…』
ぼんやりした声だから、たぶん寝言。
俺にはアリスさんがなにを言ってるのか理解できないけど、神田さんはわかるらしい。
『たまも…』
もしかしたら日本語なのかもしれない。それなら俺が理解できないのも納得。
『…まだち…』
なにか嫌な夢でも見てるんじゃなかろうか。もしそうなら起こしてあげた方がいいかもしれない。
「アリスさん、なに言ってるのかわかりますか?」
「しらねぇ」
「神田さんならきっとわかりますよ。教えてくださいって」
でも、神田さんが呆れた顔をしてるから嫌な夢を見てるわけではないんだろう。
「うるせぇ。こいつが起きる」
起きるって…アリスさんをこのまま寝かせてあげたいと思ってるんだ。
村でアリスさんが体調を崩した時も、もしかして起きなかったんじゃなくて起こさなかったんじゃないのか?
「なんだ」
「いえ、ずっとただの噂だと思ってたので意外で…」
「は?」
「神田さん、アリスさんには本当に優しいんですね」
「んなことねぇよ。起きたら喧しいからこのままにしてるだけだ」
「やたら窓に頭をぶつけるから肩を貸したものの、背が違いすぎて寝づらそうだったから膝を貸したんでしょう?」
「勝手に落ちてきたんだよ」
「…そうでしたね」
でも嫌だったら起こすなり落とすなり何かしてるはず。噂で聞いた神田さんはそういう人だ。
「いい加減静かにしてろ」
「あ、神田さんもお疲れなのにすいません」
「そうじゃねぇ」
『んに…』
確かにそろそろ静かにした方がいいかもしれない。神田さんが休めないのもあるけど、あまり話しているとアリスさんも起こしてしまうかもしれない。
「本当、アリスさんって仔猫みたいですね」
「そうか?」
「探索部隊の中では結構言ってますよ?ふらっとじゃれてきて、すぐに何処か行ってしまう感じが仔猫っぽいって」
「こいつはどちらかと言うなら犬だろ」
「そうですか?」
見たことがないけど、なついた人にはとことんじゃれつくんだろうか?
「バカみたいにいちいち近付いてきてはどうでもいいことを話して無理矢理訳のわからんものを食わせようとしてきていつもヘラヘラしてるかと思えば小さいことですぐに落ち込んでひとりでジメジメしやがってうぜえ」
すごい一気に喋ったな、この人。
「毎回まとわりつかれるのもうぜえ」
でも、突き放したりはしないんですね。
噂を聞いてもこうして実際に会って話しても、お2人の関係性がいまいちわからない。
同僚と言うには近すぎるし、兄妹と言うにはどこかずれている。
『うー』
「つつくな。起きる」
「でもすごく柔らかいですよ?」
「やめろめんどくせえ」
『うーっ』
「おい」
「…はい」
俺が座ったのを確認すると、アリスさんはすぐに目を閉じて動かなくなってしまった。
「…アリスさん、寝ちゃいました?」
「知らん」
「座ってすぐだなんて、相当疲れていらしたんですね」
「こいつは体力がなさすぎるだけだ」
列車に乗るまでもふらふらして危なかったし、もしかしたら極限状態だったのかもしれない。
「聞いた話ですけど、アリスさんは復帰後初めての本格的な戦闘だったんじゃないですか?」
「こいつがエクソシストであるかぎり、そんなもの言い訳にもならん」
「そうですね」
探索部隊と違って、エクソシストはイノセンスに選ばれる必要がある。彼らはイノセンスに選ばれた神の使途。イノセンスを武器として、アクマと戦うことが義務付けられてる。
「なんか、アリスさん寝づらそうですね」
「そんなことまで世話してられるか」
ものすごく頭グラグラしてますけど、押さえたりしなくて大丈夫かな。結構揺れるからどこかにぶつけなければいいんだけど…
『うー…ぐっ…ぅ…』
やっぱりぶつけた。結構な音が聞こえたけど、それでも寝てるって事は、本当にギリギリのところで起きてたんだろう。
エクソシストとしてはそんなに熟睡されると不安だけど、ちょっと可哀想になるな。
「あ」
また頭をぶつける。
そう思った時、神田さんの手がアリスさんの頭を捕まえて窓にぶつける前に引き寄せた。
『んう…』
めんどくさいと言わんばかりの顔だけど、なんだかんだでアリスさんの事を気遣ってるのはわかる。
「そう言えば、アリスさんは以前の戦闘で負った怪我が元で、記憶をなくされてるんですよね」
「ああ」
とても怖い人だとか仲間を見捨てる冷酷な人だとか、それはもういろいろな話を聞いた。本当に怖い人は怖い噂しか流れないのに、不思議なことにアリスさんはまったく逆の話も聞いていた。
「その為、性格がすっかり変わってしまわれたとか」
「…そうだな」
俺はアリスさんと同じ任務につくことがなかったから、どれも噂でしか知らなくて、どの話を信じたらいいのかわからなかった。
でも、噂は噂。
「前のアリスさんも噂でしか知らないんですが、今のアリスさんも噂以上に可愛らしい方でびっくりしました」
「は?」
実際に見ると、聞いていたよりもずっと人間味があって可愛らしかった。
「小さくてちょこまかしてて、小動物みたいで可愛いじゃないですか」
今も落ち着くところを探してるのか、寝づらそうにたまに動いてる。
「…そうか?」
「俺は今日初めてアリスさんにお会いしましたが、こんな何処にでもいそうな人が本当にアクマを破壊せるのかと疑ってしまいました」
正直なところ、背が低いところもあってこんな子どもに戦闘を任せていいのかと気が引けたけど、そんな心配は必要なかった。探索部隊の俺と違って、アリスさんはエクソシストとしての仕事をしっかりこなしてた。
「実際、こいつはなんの役にも立たなかった」
「そんなことないですよ」
『んー』
結局落ち着くところが見つからなかったのか、列車の揺れに合わせて神田さんの膝の上に転がることで漸く落ち着いたらしい。
どんなにエクソシストとして戦闘を繰り広げても、こうして疲れて寝てるところはまだまだ子ども。精一杯背伸びして大人になろうとしてるんだろうと思うと、助けてあげたくなる。
きっと神田さんもそうなんだろう。
「こうしてお2人を見てると、まるで兄妹みたいですね」
神田さんはアリスさんと違って冷たい人だという噂しか聞かなかったけど、本当に冷たい人なら戦闘の時にアリスさんを後ろに下げたり、気を使ったりしないだろう。
「言っておくが、こいつと俺は同い年だぞ」
「じゃあ双子ですね。そこまで外見がそっくりってわけではないですけど、長い黒髪で自分勝手で乱暴な物言いなところまでよく似てますし」
「おい」
そう、お2人はとてもよく似てる。
戦闘において、とても冷静に判断を下すから冷たい人だとみんなに思われてしまうんだ。冷静であることと冷酷なことはイコールにはならない。冷静な判断の裏で、俺にはわからない葛藤があったのかもしれない。
「俺、ずっと神田さんは冷たい人だと思ってました。でも勝手なことを言った俺を見捨てずにいてくれました」
見捨てることができたのに、そうしなかったのは神田さんの優しさだ。
「くだらん」
「実際に血を流し、アクマを倒したのはあなた方だ。ただ見ていることしかできなかった俺が、あんな偉そうに情けを語る資格なんてなかったのに」
隊を全滅させない為に、冷静な判断力も必要不可欠。俺にはまだ、お2人のように冷静な判断は下せそうにない。
「…そうだな。だが、戦闘において、もとから探索部隊の人間に何も期待していない」
期待なんてされなくて当たり前だ。闘う為の武器を持てない探索部隊は、戦力に数えられることはない。よくて盾になれるくらいだろう。
「そうですよね」
俺はこの人達の役に立てるときがくるんだろうか。そう考えると、それは途方もないことのように感じて、情けなくなる。
『…うに…』
そんな時、アリスさんが何か呟いた。
『いくら…まぐろ…』
ぼんやりした声だから、たぶん寝言。
俺にはアリスさんがなにを言ってるのか理解できないけど、神田さんはわかるらしい。
『たまも…』
もしかしたら日本語なのかもしれない。それなら俺が理解できないのも納得。
『…まだち…』
なにか嫌な夢でも見てるんじゃなかろうか。もしそうなら起こしてあげた方がいいかもしれない。
「アリスさん、なに言ってるのかわかりますか?」
「しらねぇ」
「神田さんならきっとわかりますよ。教えてくださいって」
でも、神田さんが呆れた顔をしてるから嫌な夢を見てるわけではないんだろう。
「うるせぇ。こいつが起きる」
起きるって…アリスさんをこのまま寝かせてあげたいと思ってるんだ。
村でアリスさんが体調を崩した時も、もしかして起きなかったんじゃなくて起こさなかったんじゃないのか?
「なんだ」
「いえ、ずっとただの噂だと思ってたので意外で…」
「は?」
「神田さん、アリスさんには本当に優しいんですね」
「んなことねぇよ。起きたら喧しいからこのままにしてるだけだ」
「やたら窓に頭をぶつけるから肩を貸したものの、背が違いすぎて寝づらそうだったから膝を貸したんでしょう?」
「勝手に落ちてきたんだよ」
「…そうでしたね」
でも嫌だったら起こすなり落とすなり何かしてるはず。噂で聞いた神田さんはそういう人だ。
「いい加減静かにしてろ」
「あ、神田さんもお疲れなのにすいません」
「そうじゃねぇ」
『んに…』
確かにそろそろ静かにした方がいいかもしれない。神田さんが休めないのもあるけど、あまり話しているとアリスさんも起こしてしまうかもしれない。
「本当、アリスさんって仔猫みたいですね」
「そうか?」
「探索部隊の中では結構言ってますよ?ふらっとじゃれてきて、すぐに何処か行ってしまう感じが仔猫っぽいって」
「こいつはどちらかと言うなら犬だろ」
「そうですか?」
見たことがないけど、なついた人にはとことんじゃれつくんだろうか?
「バカみたいにいちいち近付いてきてはどうでもいいことを話して無理矢理訳のわからんものを食わせようとしてきていつもヘラヘラしてるかと思えば小さいことですぐに落ち込んでひとりでジメジメしやがってうぜえ」
すごい一気に喋ったな、この人。
「毎回まとわりつかれるのもうぜえ」
でも、突き放したりはしないんですね。
噂を聞いてもこうして実際に会って話しても、お2人の関係性がいまいちわからない。
同僚と言うには近すぎるし、兄妹と言うにはどこかずれている。
『うー』
「つつくな。起きる」
「でもすごく柔らかいですよ?」
「やめろめんどくせえ」
『うーっ』
「おい」
「…はい」