知ってる事と知らない事


『ふあぁ…おはよー』

今日も元気に起こしてくれたレムを一撫でして、ベッドから降りるた…けど床が冷たくてまたベッドに逆戻り。
もう起きないといけないのはわかってる。でも眠い。ここから出たら寒い。できることならここから出たくない。ずっとベッドでぬくぬくしていたい…

『あだっ!』

いきなり頭に衝撃を受けて何事かと思ったら、どうやろレムが頭に衝突してきたらしい。
なにすんのこの子!頭が割れたらどうすんのさ?!

『ひぎゃん!』

布団にくるまったまま見上げてたらまた頭突かれた!

『起きろって言いたいのね!わかった。わかったからもう頭突きはやめて』

あんた金属なんだから全力で衝突して来ないでよ。あと怖いから正面から来ないで!めっちゃ頭痛いんだけど、まさか本当に割れてないよね?…うん、割れてない。

『コムイさーん、起きましたよー』
「おはようアリスちゃん」

着替えて髪を結びながらレムに声をかけると、科学班の通信機に繋がる。基本的にコムイさんが出るけど、たまに班長だったり他の誰かだったりするんだよね。
ちょっとバイオレンスではあるけど、これが私の日課。

今はレムがいるからいいけど、最初の頃は朝の連絡の為の通信用ゴーレムがずっと部屋にいたんだよね。起きたら必ず科学斑に連絡することをリナリーに義務付けられました。理由は…たぶん私がなかなか起きないのが原因なんだろうけど、詳しくはわかんないまま。

『今からご飯してきます』
「うん。よろしくね」
『はぁい』

なにをよろしくされるのかわかんないけど、とりあえずの返事。なんだろう、なんかやらかしたかな?

相変わらず真ん中に結べない髪のことは早々に諦めて、食堂へ。

私にしては少し早く起きたから、食堂は朝食をとる人でごった返してる。
これから任務の人も、これからおやすみの人も、みんな1度ここに集まるからね。衛生管理班?とか言うんだっけ?ジェリーさん達のこと。1日1回も顔出さないと、ご飯はちゃんと食べなさいって怒られるんだよね。主にジェリーさんに。まるで教団のお母さんだね。

今日はなに食べようかなぁ…鮭?あ、刺身もいいなぁ。でもここって生魚を食べる習慣ないよね?なんでもいいけど、お米がいいなぁ。

「アラん!?新入りさん?んまー、これはまたカワイイ子が入ったわねー!何でも作っちゃうわよアタシ!!」

ジェリーさんのハイテンションな声で昨日の事を思い出した。
昨日はアレンが来たんだった。寝起き機嫌悪いとか思われたらちょっと困るから、3割増しで元気にいきましょう!

『アッレーン、ジェリーさーん!おはようございまーす』
「おはようございます」
「おはようアリス、今日は何食べる?」

アレンいいこ!神田なんて基本無視だもん。しつこく言ってやっと返事が帰ってくるくらい。ちょっとはアレンを見習えばいいのに…や、すみません。そんな神田いや。気持ち悪い。今のままでいてください。

『アレン、頼んでいいよ』
「それじゃあ…グラタンとポテトとドライカレーとマーボードーフとビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンとチキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤムクンとライス、あとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本。量全部多めで」
「あんたそんなに食べんの!?すごーい」

よくその体に入るな…私はほら、アレンの注文が多いのわかってたけどこう…実際に言われると違うよね、半分くらいなに言ってるのかわかんなかった。恐ろしい子。

『あ、私も麻婆豆腐とライスで。あと杏仁豆腐!』

ジェリーさんは全部聞き取れたのか嬉しそう。料理人の腕が鳴りますね。

あれ?どうしてみたらし団子なんて知ってるんだろう?アレン日本人じゃないよね?誰かに教えてもらったとか?

『アレン、みたらしなんてどうして知ってるの?』
「マナ…僕を育ててくれた人が昔食べさせてくれたんです。それが忘れられなくて…」
『そっか、みたらしおいしいもんねぇ』
「わかります?!」
『もっちろん、私はずんだも好きだなぁ』
「ずんだ?」
『えーっと、枝豆かな?緑の豆をペースト状にして砂糖と混ぜてお団子とかと食べるの』
「へぇ、緑ですか」
『うん、あとは胡麻ダレとかあんことか…すあまもおいしいなぁ…』
「ジェリーさんに言ったら作ってくれますかね?」
『だいたいは作ってくれるけどこればっかりはなぁ…』

蕎麦とうどんがあるから作ってくれそうだけど、わかんないなぁ。

「ですよね」
『だって』
「何だとコラァ!!」
『にぃっ!…っくりしたぁー』
「何でしょうか」
『さぁ…』

アレンと声の方向を見ると、どうやら探索部隊とエクソシストが揉めてるみたい。

余談。このシーン、見覚えがありすぎる。

「もういっぺん言ってみやがれ!ああっ!?」
「おい。やめろバズ」
「うるせーな。メシ喰ってる時に後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ、味がまずくなんだよ」

あーあーそんな言い方しちゃってもー。
蕎麦の違いなんてね、蕎麦ばっか食べてる神田にしかわかんないよ。
そうじゃないって?

「テメェ…それが殉職した同士に言うセリフか!!俺達探索部隊はお前らエクソシストの下で命がけでサポートしてやってるのに…それを…それを…っメシがマズくなるだとー!?」

ここのみんな知ってるとは思うんだけど、神田の導火線は非常に短い。だからあっと言う間に探索部隊の人は掴みあげられた。
神田は周りから距離を取られがちだけど、探索部隊からは特に畏れられてる。そのせいか神田がこうして締め上げても他の人はなにも言わない。絞められてる人の同僚さんも青い顔をしてるけど、手を出そうともしない。
私は仲間としてそれもどうかと思うけど。

「【サポートしてやってる】だ?違げーだろ、サポートしかできねェんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ」

ちょっと神田さん、探索部隊の顔ヤバいんだけど。私もやったことあるけどさ、それ窒息してるんじゃない?誰かが止めなかったらそのまま絞め殺すつもりじゃないでしょうね?
いくらなんでも食堂でそんなことはさせないからね。

『ジェリーさん、ちょっと行ってくる』

私とアレンは示し合わせたように神田に向かって行った。

「死ぬのがイヤなら出てけよ。お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる」
『神田ストーップ。気持ちはわからなくもないけどそいつ離してやんな』
「関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」

アレンが私が掴むのを諦めた神田の手首を掴んでた。でも神田の方が背高いし、毎朝鍛えてるから一般的よりも随分力はあると思う。アレンも頑張ってるんだろうけど…ほら、そいつの首は今も絞まったままだよ。

『あんた達も場所考えなよ。ここはみんなが食事をする場所で、追悼する場所じゃあない。それに、追悼するのにふさわしい場所が教団にはちゃんとあるだろ?それがどこかわかんないことはないよな?わかったらさっさと場所変えな』

なくなった同僚と一緒にご飯を食べたかったのかもしれないけど、周りを巻き込むもんじゃない。然るべき場所で過ごせばいい。そう思う私は間違ってない。なんかみんな怖いけど私は合ってるよね?!なんか不安になってきたけど頑張って私!

『神田もすぐに手ぇ出さない。言い方も考えて』
「………放せよモヤシ」

シカト?!

「…アレンです」
「はっ1ヶ月で死ななかったら覚えてやるよ。ここじゃパタパタ死んでく奴が多いからな、こいつらみたいに」

うーわ。マジスルーじゃん。

「だからそういう言い方はないでしょ」
「早死にするぜお前…キラいなタイプだ」
「そりゃどうも」

なんなのこの2人。昨日今日ですっかり仲悪くなっちゃったの?相性はそれほど悪くないと思うんだけど…そうでもないか。

「神田!アレン!」
『あ、リーバー班長とリナリーだ』

手を振れば2人は手が物理的に塞がれていない限り、かならず返してくれる。きっと2人の半分はなにかの薬と同じく、優しさでできてるに違いない。

「10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」

あら、早速任務とは。アレンは教団から期待されてるのかしら?

『だってアレン』
「すぐ任務が来るんですね」
『エクソシスト少ないから…あ、こら神田!』

神田は私を完全にいないものとしてどこかに行った。たぶんコムイさんの所だと思う。
あんなことした後に蕎麦食べられないのもわかるけどさぁ、もう。