知ってる事と知らない事


「ちょっとアリスーできたわよー」
『忘れてた!』
「もうできたんですね」

いつどのタイミングで任務が入るかわからないから、ジェリーさん達の調理スピードは誰もが驚く速さです。いつもすごく助かってます。

『あ』
「なんですか?」
『みたらしが作れるんだから、ずんだもできるかもね』
「…そうですね」

そうだよ、料理人なジェリーさんに不可能はない!後で聞いてみよーっと。

「任務もらったんでしょう?頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」

あ!私刺身食べたかったんだった!アレンの注文量に気をとられてうっかり中華にしちゃってたよ!まぁいいか。

『いただきまーす』

麻婆うまー!ピリ辛ウマ辛!山椒の良い香りー!これが本場の味ってやつですね!美味しいです!

「…あの」
『ん?』

声をかけられてアレンを見ると、スプーンが止まってた。食事は恐ろしい早さで減ってるけど。どんな早さで食べたらそんなに減るんだよ。

「失礼とは思いますが、神田とはどんな関係なんですか?」
『神田?』
「はい」

うーん?そんなことあんまり考えたことないぞ?
アリスと仲が良かったらしいから私のこと嫌いそうだけど、なまじ見た目が変わらないからあんまり邪険にできないって感じだもん。そもそもアリスと神田っていつからの知り合いなの?

「あの…?」
『あれ?なんだっけ、関係?』
「はい」

関係か…それならこれしかないな。

『味方で仲間のパッツン』
「え」

今のアレン、顔がすごいことになってるけど大丈夫?私そんな変なこと言ったかな?私が言ったことは何ひとつとして間違ってないはずだけど…あ。

『口と態度は悪いんだけどね、本当は優しいんだよ』

ってこと?なんか違う?
アレンはイマイチ納得いかなかったみたいだけど時間もないし、急いで食事を終えてコムイさんの所に向かって行った。
手を振って見送ると、お礼と今まで教団にはなかった爽やかな笑顔を残していった。イケメンか。

『もーちょっとなぁ…』

こんなこと言ったら神田には怒られるだろうけど、私はできるだけみんなと仲良くやりたいんだよね。神田には甘いって言われそう。あいつの評価は麻婆よりも辛いからな。

「あの…あの、アリスさん」
『はい?』

黙々と神田みんなとお友達計画について考えてたら、自意識過剰じゃなければ誰かに呼ばれた。麻婆を口に入れる前だったからそのまま振り返ると、褐色の肌にウェーブした黒髪の美人さんがいました。
うっかりスプーン落としかけたよ。

「わたし、シャテル・リーズ=ポズウェルと申します」
『はぁ』

どっかで聞いたようなそうでないような…?どなたか存じ上げないから、少なくとも私の知り合いではないだろう。

「その…よかったら…わたしと友達になってください!」

………ああ!スプーン落ちた。ちょっと待って。

『今、なんて?』
「友達に、なって欲しくて…やっぱり、わたしみたいな探索部隊じゃ無理ですよね…」
『そんなことない!私もずっと友達が欲しかったの!です!』
「本当に?」
『はい!』

前のめりな勢いで返事をしたら、とんでもなく綺麗な笑顔が返ってきた。
あとでラビに自慢してやろう、とんでもなく美人でかわいらしい人と友達になったと。

「よかった…」
『シャテルリーズさんで?』
「あ、シェリーって呼んでください」
『じゃあ私はアリスで。友達だから敬語もなしね』
「ええ」

おお、本当に美人だ。私こそシェリーと友達になってもいいのだろうか…不安になってきた。

「噂で、記憶を失くしてしまったと聞いたんだけど」
『あ。うん、そうなの。だから不便も結構あるんだけどね。あ!もしかして私が忘れてるだけで本当は友達だった、とか?』
「ううん、今日初めて話しかけるわ」

よかった。元知り合いですとか言われたら申し訳なさすぎて土下座するわ。

「前はなんとなく近寄りがたい雰囲気だったから、話しかけづらくて」
『あー、ごめん』
「謝らないで」

アリスって本当に神田といい勝負だったんじゃないか?あれだな、一匹狼ってやつ…封印した黒歴史を思い出すぜ…

「記憶を失くして大変なことばかりでしょうに、そんなこと少しも感じさせないから、話してみたかったの」

私は記憶失くしてないから、そう感じなくても正解なんです、とは言えない。

「記憶を失くす前からだけど、アリスはやっぱり素敵だなって思って」

さすがアリス!素敵ですって!アリスは女の子にモテるタイプの女の子だったんですね!

『うれしいけど、今の私はたいして強くないよ?たぶん教団で1番弱いと思うし』
「あの神田さんにも物怖じしないなんて並じゃないわ」

それは褒められてるんだろうか…そうだと思っておこう。

『私後先考えずに言いたいこと言っちゃうんだよね。言わないと気がすまないし、もしかしたらなにか変わるかもしれないから』
「変わらないとしても…?」

そう言ったシェリーの目には諦めと怯えが見えた。
これは男尊女卑的なあれか?あいつもそうだったけどさ、そう言うのやめた方がいいのにね。糞の役にも立たないプライドなんて、犬にでも与えてしまえばいいんだよ。

『そうだなぁ…例えば、引っ込んでろって言われるでしょ?』
「うん」
『それは優しさからきてるんだと思えばいいよ』
「優しさ?」
『うん。私は少なくても、男は女を守るべきだと思うの。そういう風に造られてるんだから。だから、守りたくて下がってろって言ってると思うことにするの』

どうせ捨てられないプライドなら、ちゃんと正しく振りかざせば良い。

まぁそんなこと言われても私は戦えるからおとなしくしないけどな!シェリーは探索部隊なんだから、探索部隊からはともかくとして、エクソシストからは守られるべきだよ。

『悪い方にばっかり考えないで、多少無理があってもいい方に考える。そうすればきっとうまくいくはずだよ?』

毎日がいいことばっかりじゃないけど、悪いことばっかりでもない。
諦めても足掻いても現状がいますぐ変わる訳でもないし、それなら全力で楽しむって私は決めたんだ。

「…そうね、そうしてみるわ。なんだか大丈夫な気がする」
『ならよかった』
「このあと、苦手な人と任務だったの」
『え?どれくらい?』

苦手ってあいつかな。
つーかあいつまだ教団にいるの?本当にまったく見かけないからわかんないや。

「イノセンスの捜索だから、どれくらいかかるかわからないけど…今回はなんだかうまくできそうな気がする」
『ちゃんと帰ってきてね?』
「もちろん。確認できたらアリスのこと呼ぶから」
『戻ったら、お茶でもしよう』
「ええ。出発前にアリスと話せてよかった。ありがとう。行ってきます」
『いってらっしゃい』

シェリーはどうして教団にいるんだろうとか、苦手な人ってそんなに口悪いのかとか聞きたいことはたくさんあった。だけど、なにひとつ聞けないまま私はシェリーの後ろ姿を見送った。

結果的に聞かなくてよかったんだろうけどね。ここにいる人はそれぞれに何かを抱えてここにいるわけだし。

『あ。アレン見送らなきゃ』

そう思い立って急いで食べてて思った。

コムイさん、なんでもっと早く連絡しないんだろう?早く知らせてればアレンも早食いなんてしないですんだのに…情報の都合もあるか。

『ご馳走様でしたっ』

そもそもまだいるかな?間に合えばいいんだけど。階段を3段飛ばしで駆け降りる。前はこんなこと危なくてできなかったけど、特訓の賜物だね。

「これ着なきゃいけないんですか?」
「エクソシストの証みたいなものでね。戦闘用に造ってあるからかなり丈夫だよ。あと左手の防具はボク的に改良してみました」

やたっまだいた!

『アレン!神田!』
「おや、アリスちゃん。お見送りかい?」
『はいっアレンの初任務ですからね』
「ありがとうございます、ってティムキャンピー!どこ行ってたんだお前」
「ティムキャンピーには映像記録機能があってね。キミの過去を少し見せてもらったよ」
『え、コムイさんたらアレンの私生活見たかったの?』
「違うよ」
『リナリーだけじゃなくついにアレンのストーカーまで?!』
「違うからね!?リナリーにもそんなことしてないからね?!」
『してたら刈り取ります。2人共、行ってらっしゃい』
「…行ってらっしゃい」
「行ってきます」

2人を乗せた船はすぐに見えなくなった。なんだろう、いい予感がしない。

「……どうか、みんな無事で」
『コムイさん、アレンと神田、どこまで行くんですか?』
「南イタリアだよ」

神田は強いし、なんだかんだ言っても優しいから大丈夫ってわかってるけど、ちょっと不安になる。
このまま帰ってこなかったら。返ってきたときに誰かがいなくなってたら。そう思ったら立ち止まりたくなる。

「珍しいね…不安かい?」
『はい』
「でもボクたちが信じなくてどうするの」
『そう…ですね』

信じるって難しい。それくらい心は曖昧なものだもん。

「戻ろうか」
『はい』

さっきは探索部隊の人達にあんなこと言ったけど、わからなくもない。私は優しくないから、知らない人が死んでもその時どんなに悲しくてもすぐに忘れちゃう。だけどもしも知り合いが死んだら、私もああなっちゃうかもしれない。
だって、ここには思い出がありすぎるから。