▼ 長い長い夜が始まる


大切な人がある日突然居なくなってしまったら、あなたはどうしますか。



△ ▽ △



「加奈枝ちゃん…」

頭の中が真っ白で状況はよくわからなかったけど、たくさんの人が泣いていることだけはわかった。

「ごめんね、透と一緒にいたばっかりに、辛い思いさせちゃって」

よく、わからない。

「すみません、加奈枝がいなければ…」
「そんなこと言わないでください、加奈枝ちゃんが無事だっただけでも…」

わからない。

「加奈枝。加奈枝…?」

「お前ブサイクなんだからなくなよ」って、笑う透くんの声が聞こえる。

「あんたね、透くんが亡くなったって言うのに…」

透くんはね、「お前みたいなブサイクによめのもらい手なんてねーよ」って言うの。それで、「そんときはしかたねーからおれがもらってやる!」って。
私は「そんなことない」って、「うそつきはいけないんだよ」って言うの。そうするとね、透くんは「うそじゃーねーし。ぜってーだし!」って、言うの。

「やくそく、したの」
「誰と」
「透くんと」

こんなに聞こえるのに。

「…どんな約束したのか、おばちゃん聞いてもいい?」
「透くんがね、なくなって、カナはブサイクだからって。なくならおれの前でだけって」
「…まったく、いったいいつの間にそんなこと言うようになってたんだか」
「カナはどーせよめにもいけねーだろうから、おれがもらってやるって」
「ほんっと、失礼な子でごめんね」
「ぜったいだよって、言ったの。だからね、カナ、なかないの。透くんのおよめさんになるって、やくそくしたから、だからね」
「加奈枝ちゃん」

もう、きこえない。

「透ならまだそこにいるから、泣いても大丈夫だよ」

絶対って、言ったのに…

「なかない。カナまでやくそくやぶったら、ダメだから」
「加奈枝」

お嫁さんになれない。

「すみません、うちの子頑固で」
「いえ…うちのバカ息子との約束を頑なに守ろうとしてくれてるんですから、」

どこにもいなくなっちゃった。



△ ▽ △



絶対なんてどこにもない。信じるだけ無駄。
私は7歳の夏、うだるように暑い雨の日にそれを知った。


  
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