▼ ねぇ、君について教えてよ
「和泉さーん」
「如何なさいましたか?」
「時間があったから和泉さんとお話したいなーと思って」
俺は烏野と試合をしてから、時間があれば和泉さんを訪ねるようになった。
烏野の知り合いが誰かは今もわからない。
「次の見学はいつ来てくれるの?」
「時間に余裕ができましたらお伺いさせて頂きたいと思っています」
見学もあれ以来1回も来てくれない。
俺に興味持ってもらえるのが1番いいけど、せめて「烏野」じゃなくて「バレー」に興味を持ってもらわないと難しいのかな。
「あ、もしよかったら和英辞書借りてもいい?今日使うのに忘れちゃったんだー」
「ええ、構いません」
「昨日使って机の上に出しっぱなしにしちゃったんだよねぇ」
辞書なんてほんとうは岩ちゃんに借りればいい。岩ちゃんが今日辞書を使うことは今年になってからわかってる。なにせ同じ授業が同じ日にあるんだからね!
でもあえて岩ちゃんじゃなくて和泉さんに借りる。どんなに小さなきっかけでも和泉さんに話しかけることができるなら無駄なく使わないと!
「少々お待ち下さい」
そう言って和泉さんの鞄から出てきた辞書は、俺が思ってたものと違った。
「ありがとー」
電子辞書じゃなくて、マジの辞書だった。
うん、和泉さんが電子辞書使ってるよりも似合うかもしれないけど、重いじゃん?なんで電子辞書じゃないんだろう。
「和泉さん」
「なんでしょうか?」
「月曜日は部活休みなんだけど、どっか遊びいかない?」
「なぜですか?」
あと、話すようになって気付いたんだけど。
「俺が和泉さんと遊びたいから」
「日によりますが、概ね時間は作れるかと思います」
和泉さんは表情こそあるものの、言葉に感情が乗らない。しかも常に敬語だから、返事もどこか機械的に聞こえる。しかも本人はそれに気付いてない。
「どっか行きたいところとかある?」
「特にはございません」
せめて話し方が変わればもう少し印象も変わると思うんだけどなぁ。
え、まさか俺だからってことはないよね?そうだったら泣けるんだけど。
「じゃあ和泉さんが楽しめそうなところ考えてみるね!あんまり遠出しない方がいい?和泉さんち厳しそうだよね」
「事前報告をしておけばある程度の融通は利きますのでご安心ください」
…うん。これが俺だけだったらマジで泣く。
「ゆっくりめがいい?」
「…と言いますと?」
「遊園地とかより、その辺歩く方がいい?」
そうか、俺が普段話してる感覚で話しても伝わらないことがあるんだ。勝手なイメージだけど和泉さん、誰かと遊んだりしなさそうだもんね。
俺の提案に和泉さんがなにか考えてるから、おとなしく返答を待つ。
「そうですね。遊園地は長いこと行ってないのでいきなりは少し…」
あと、今の状態で行っても和泉さんに気を使わせてしまうだけかもしれない。
遊園地はもっとお近づきになってからかな。
「じゃあ再来週の月曜日にデートだね!」
「デートとは、親密な男女が逢瀬することではないのですか?」
なにそれ!
「でかけること全般のこと言うの!絶対楽しませてあげるから期待しててね!」
「はい」
辞書みたいなこと言わないでよ!
まぁ、元々はそうだったのかもしれないけど、今はおでかけすることをデートって言うの!女の子同士でも言ってたもん!
こうなったら絶対和泉さんのことを楽しませてみせる!
「そうだ!和泉さんのライン教えて?」
教えてもらえばいつでも連絡できるしお誘いもできるしねー。俺って頭いー!
「なんのラインですか?」
「もー、そんなこと言っちゃってー!メールの代わりに使ってるでしょ?」
「メールの代わりってなんですか?」
んん?
なんか話が噛み合ってない…?
「え?じゃあアドレス教えて」
「何故ですか?」
「連絡先知ってると待ち合わせの時とか便利でしょ?」
「それもそうですね」
意外なことに固そうで全然ゆるいガードにびっくりしたけど、和泉さんの携帯を見てもう1回びっくりした。
「どうぞ」
だって2つ折りの携帯が出てきたんだもん!今時の女子高生が2つ折りってすごくない!?しかもこれずいぶん使い込んでるよ?
「アドレスとかってどこで見るの?」
「これはすみません…こちらです」
「じゃあちょっと借りるね」
携帯に和泉さんの番号とアドレスが登録される。名前とか誕生日、住所まできっちり書いてるのはちょっとかわいい。
あと、勝手に白とか黒を使ってそうだなーと思ってたから、携帯がピンクなのもかわいい。これって確か外側のケース変えられるやつじゃなかったかな?
「ありがとう。今メールするね」
「はい」
電話番号と名前にちょっとしたメッセージを添えて送信。
メールなんてひっさしぶりに送った。
ほんの少しの時間のあと和泉さんの携帯のランプが光ったから、たぶんメールが届いたんだと思う。カチカチと、ほとんど聞かなくなった操作音がやけにはっきり聞こえる。
「届きました」
「登録しておいてね!」
「はい」
再来週はどこに行こうかな。その時は絶対に表情変えさせて、敬語もやめさせてみせるんだから!
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