▼ 弾けてキャンディ


そう言えば、和泉と岩泉って同じクラスだったな。

忘れた世界史の教科書を借りに行く途中思い出したのはそんなこと。
及川が和泉に惚れてるって話を聞いてから、部内でやたらと和泉の話題が上がるのは不愉快極まりない。ただでさえよく耳にはいる名前なのになんで部活の時にまで聞かなきゃなんねぇんだよ。

5組を覗けば、岩泉がクラスの奴と話してた。妙な違和感を感じたところを見ると、去年と同様、ひとりで本を開いてる和泉がいた。
…見なきゃよかった。

ひとまず和泉は見なかったことにして、岩泉に声をかけた。

「岩泉ー」
「どうした」
「世界史の教科書貸してくんねえ?」
「ちょっと待ってろ」

岩泉が席を立って出てくるのをドアのところで待つ。

「珍しいな、持って帰ったのか?」
「間違えて持って帰ってそのまま忘れてた」

1回持って帰ると、次持ってくんの忘れんだよな。

「ほらよ」
「サンキュー」

無事教科書を借りた時、反対のドアから及川が5組に迷わず入っていった。

「あ?岩泉ここにいんのに」
「最近はあれでいいんだ」

岩泉の言葉に疑問符しか出なかった。

「まぁ見てろ」

言われた通り見てると、及川が向かった先は和泉の席。アホみたいなハイテンションで声をかけてる。
和泉は相変わらずの無表情ではあるが、一応対応してるらしい。もしくは、1年の時みたいに1言で返してるのにも関わらず及川がしつこく声をかけてるかのどっちか…後半しか考えられないか。

「なぁ岩泉、あれっていつものことなの?」
「俺が和泉と同じクラスだって知ってからはそうだな」
「マジかよ…」

部活の時「今日は和泉さんにあれ借りた」とか「なに話した」とか言ってて、毎回妄想乙とか思ったり言ったりしてたけど、あれマジだったのか。

「おかけで及川があれ貸せこれ貸せってうるさくなくていい」

だから最近は岩泉から教科書借りられるのか。

「じゃーこのクラスの奴らはアレに慣れたわけだ」
「まぁな」
「体育館に連れてきて以来全然来ねーから、とっくに終わったもんだと思ってた」
「あれから2日くらいは大人しかったが、それ以降はずっとこれだな」

うへ。すっげーな、マジで。「マジ」以外言葉でねぇわ。

「じゃあ再来週の月曜日にデートだね!」

そんなことを考えてたときに聞こえた及川の発言に、正直驚いた。

教室なんてある程度のでかさの声なら、ほとんどの場合筒抜けだと思っていい。しかも今回発言したのは及川。あいつの高めの声は腹が立つくらいよく通る。そうなれば今の及川の声は、少なくともクラスの奴ら全員に聞こえただろう。

クラスで分かりやすくデートに誘うのは初めて見たっつーか、及川が誘ってるのを初めて見る。

「え、あれもいつものこと?」
「あれは初めてだな」

さすがにデートに誘うのは初めてらしい。

「和泉が迷惑だと言ってきたらどうにかするつもりだが、今んとこそれもなさそうなんだよな」
「和泉がなんか意見してる所なんていままで見たことねぇけど」
「まぁ本気でウザかったらなんか言うだろ」

女子からデートに誘われたことは腐るほどあるだろうけど、及川から誘った事なんてねぇはず。その及川がデートに誘うってことは、本気で和泉に惚れてるってこと?じゃなきゃあんなガツガツいかねぇよな。
いや、俺は本気でもあんなガツガツいかねぇけど。

「つーか俺来てるのに気付いてなくね?」
「気付かれたかったのか?」
「めんどくせぇからいいけど、いつもウザいくらい絡んできたくせにいきなり来なくなると違和感っつーか」
「女かよ」
「ちげーし」

主将でセッターなら周りの状況わかんねーとだろ?それがこんな前後不覚になってるとか。

「マジかぁー」
「残念ながらマジだ」

最初に聞いたときは、たかが噂だと思った。本人から聞いたときは疑った。練習試合に連れてきたときは吃驚した。こうして目の当たりにすると、もう気まぐれとかそんなんじゃないって信じるしかなかった。

「なんつーか、皆さんお疲れ様です」
「ホントにな。ほら、お前戻んねぇと間に合わねえぞ」
「え、うわやべ。じゃー借りてくわ」
「おう」

この際俺が和泉をどう思ってるかは置いておこう。及川がマジなら外野がなに言っても意味ねぇし。

でも及川ばっかりうまくいくのはやっぱりムカつくから、俺は及川がぜってーうまくいかない呪いをひっそりかけた。


  
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