▼ いつかは皆、
「センパイ、最近調子のってないですか?」
女の子2人の後ろに、1人隠れるように女の子がいる。
「なんのことを仰っているのかわかりかねます」
「及川さんに話しかけられてるからって調子のってるでしょって言ってるんです!」
最近すごく増えてきたこの手の呼び出し。
どこをどうしたらそう見えるのか、私にはまったくわからない。
「どうして及川さんに話しかけられることが調子に乗ることになるのでしょうか」
「すっとぼけないでよ!及川さんがセンパイに話しかけるのなんて物珍しいからなんですからね!」
「そのお考えには同意致します」
「じゃあどっか行ってください!」
声をかけてくるのはたった1人。後ろの子はただ様子を伺うばかりで、なにか言ったり動く様子はない。
いつもこのパターン、時間の無駄。
「何故私が動かないとならないのですか?」
「そんなのセンパイが及川さんの近くにいるからいけないんじゃないですか!わかんないんですか?」
ええ、わかりませんとも。
きっと私が動いてあげたところで、その子の未来はなにも変わらない。いままで私になにも言わず、他力本願だった彼女たちも。
「私はいつも自分の教室にいるだけです。及川さんが一方的に訪ねてくるので、仕方なく返答しているだけに過ぎません」
「言い訳はいいんです!センパイがいなくなればこの子が声をかけられるでしょ?!」
動機は明確。この子を含むいままでの子は、自分から動く勇気がない。抗議してくる子は偽善ぶったヒーロー。今回突っ立ってる子は、ただの野次馬ってところかな?
「私がいなくなったところで、状況はなにも変わりませんよ」
「なんでそんなことが言えるんですか」
「彼女が動かない限り、あなたがどんなに頑張っても彼女の状況はなにも変わりません。あなたは1度でもご自分から及川さんに話しかけたことがございますか?」
「そんなこと今はどうでもいいじゃないですか!」
「あなたにはお伺いしておりません。私は後ろの彼女にお話をお伺いしたいんです」
「あの、りっちゃん人見知りで」
あら、ただの野次馬かと思っていたのに初めて口を開いた。でもそんな答えは求めてない。
「それこそ関係ありません。りっちゃんさん、私はあなたから伺いたいんです。外野は口を挟まないでください」
それでも口を開かないとは、見た目よりもなかなかに強情。いや、見た目通りと言ったところか。
「では答えて頂かなくとも結構です。その代わりご清聴頂きます様お願い致します。なにか意見がございましたらりっちゃんさんのみ、挙手でお願い致します」
答えるための時間は与えた。しかも先に言ったんだから、これ以降の異論は認めない。
「ではご希望の通りここで私が及川さんを全力で避けるとしましょう。現状ではきっと、及川さんは私がどこに逃げようとも隠れようとも探しだそうとすることでしょう。将来的にどうなるかはわかりませんが、少なくとも今は」
「はあ?!」
「先に忠告致しました、外野は黙りなさい。最終的に興味が失せた及川さんは、私を訪ねると言ったことはしなくなるでしょう。ですが、その後は次の対象に興味が移るだけです。りっちゃんさんは次の興味の対象になれますか?なれませんよね。何故なら自分からは少しも動けやしないんですから。1度でもりっちゃんさんがご自身で及川さんにお声をかけたことがございますか?」
「いくらなんでも言い過ぎじゃないですか?」
「ご清聴下さいとお伝えしましたよね?意見は本人からしか受け取りません。これは脅迫でもなんでもない、私の考えにすぎないのですから」
これでも反論してこないとは…なにかしら答えてもらわないと私も終われないんだけどな。
「私を排除したとて、あなたが及川さんの意識に入ることはあり得ません。立っているだけで動きやしないのですから。そこで足踏みをしていたいのなら、どうぞいつまでも楽しくて退屈な足踏みをしていてください。毎回お友だちに助けて頂くのならそれも結構。ですが、何度お友だちが助けてくれたとしてもあなたは誰の意識にも残らないでしょう。残るのは私に意見してきた彼女だけです。彼女なら私の記憶にも多少残るでしょうが、あなたは間違いなく忘れます。口を利いていないのだからごく自然なことですよね?そう言うことです。なんなら明日にでもまた会いに来てください。それか自宅までつけて頂いて構いませんので後程お声かけください。あなたのことなど今日1日ですら覚えていられないでしょうから」
そろそろ帰らないと、時間が遅くなる。
「いままでに何度も様々な方々にお伝えしましたが、ご自身が動かなければ現状はなに1つ変わりません。及川さんに近付きたいなら回りを何とかするよりもまず自分が動きなさい。私よりもあなたの方が彼のことを知っていると思いますが、彼の記憶力は私よりも遥かに優れています。私を彼の意識から消す勢いで自己の主張をなさい。それができない人は誰にもなにも言う権利はありません。私からは以上です。りっちゃんさんからの意見がないようでしたらお暇させて頂きたく存じます」
「センパイ勝手すぎません?」
「外野の意見は必要ございません。ですが一言答えさせて頂くなら、私は勝手ではありません。自分で意見も言えないくせに他人の時間を無駄に奪うりっちゃんさんの方がよほど身勝手です」
「あの」
「はい、りっちゃんさんどうぞ」
やっとなにか言う気になった?
「綾瀬律佳です」
「では改めまして、りつかさんどうぞ」
ここまでが時間の無駄だと気づいてくれたかしら。
「和泉センパイは、いつから及川さんと知り合ったんですか?」
「先月17日、下校途中に声をかけられ練習試合を観に行った時です」
「え、センパイあれが初めてだったんですか?」
外野は黙れと言ったはずなのに、学習しないのね。まぁ本人が口を利くようになったから1度は多めにみましょうか。
「正直にお話しますと、フルネームも存じ上げません」
「センパイはなんで及川さんに話しかけてもらえたんですか?」
「生憎他人の思考は覗けませんので、是非ご本人にお伺いください」
きっかけ1つ。
「どうして及川さんはセンパイを知ってたんですか?」
「それもご本人へどうぞ」
そんなこと私が知るわけないじゃない。
「センパイは、及川さんをどう思ってますか?」
やっと私にぶつけてきた。
「あなた方の足元で踏みつけられてるムラサキカタバミと同じです」
「それは、及川さんが雑草ってことですか?」
「いいえ。うまく伝わるかはわかりませんが、名があっても雑草と言われるその花と同じ様に、私にとって及川さんはその他多数の他人に過ぎないと言うことです」
「どうでもいいってこと、ですか?」
「そう思って頂いて構いません」
クラスの人も及川さんも、そのあとに話しかけてくれた松川さんも総じて他人。どうなろうが、私には関係ない。
「どうすれば興味もってもらえますか?」
「まず話しかけてみたら如何ですか?お話はそれからですよ」
きっかけなら今の質問以外にもいくらでもあるはず。それらを手に話しかけたらいいだけ。
私が思うのは、どうせいつか皆いなくなるんだから、何故今求めるのかわからないと言うことくらい。いつかいなくなることがわかっているんだから、今いなくても問題ない。後からいなくなるくらいなら、初めから誰もいらない。
「ありがとうございました」
「りつ!それでいいの?!」
「うん、センパイが言いたいことわかるし、頑張ってみる。きょうちゃん、ありがとう」
「りつがいいならいいけど」
「それでは話が纏まったようなので、私はお先に失礼させて頂きます。ご相談は後程どうぞごゆるりとお願い致します」
「あ、はい」
どうせいなくなるのに、どうして皆欲しがるのか。
どう足掻いてもいつかいなくなるのなら、私は2度と求めたりなんかしない。
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