▼ キャンディロンリー


「和泉さん」
「…どこかでお会いしましたか?」

声をかけたのは、気まぐれだった。

「1年の時同じクラスで、この間体育館でも見かけたかな」

及川が猛アタックかけてるって聞いたから、少し気になっただけ。

「申し訳ございません、人を覚えるのは不得手でして」
「いや、気にしてないよ。1年の時はあんまり話したことなかったからね」

和泉さんは人を覚える事が苦手なんじゃなくて、人を認識できてるかどうかも怪しいと思ってしまう。先生を間違えたりしないからそんなこと無いとわかってるけど。

「松川一静です」
「これはご丁寧にありがとうございます。和泉加奈枝と申します」

知り合って3年目で自己紹介ってのも変な感じだな。まぁ俺は一方的に和泉さんのこと知ってたけど。

「最近及川が迷惑かけてるみたいだけど、大丈夫?」
「迷惑などとんでもない。よくお声をかけて頂き申し訳ないかぎりです」

こうしてちゃんと見ると、和泉さんはすごく華奢に見える。
初めてあったときに比べて俺がでかくなったことも大きいだろうけど、それを除いて考えてもどことなく線が細いように感じる。

「ならいいんだけど。なにか及川が迷惑かけたら、俺か同じクラスの岩泉に教えてね」
「お心遣い頂きありがとうございます」

こうして話していても表情がまったく変わらないのはすごいもんだ。

「和泉さんは帰宅部?」
「はい。部活に入るとどうしても門限に間に合わなくなりますので無所属です」
「エ。門限あるの?」
「はい。暗くなると危ないので、18時までに帰るようにと言われております」

和泉さんは何かあっても抵抗とかできなさそうだから、親御さんが心配するのもわかるけど。高3で門限って…

「門限あると大変じゃない?遊ぶときとか」
「帰る時間を明確に伝えておけば大丈夫です」

かといってメチャクチャ固いわけでもないのか。

「ところで、この間体育館にいらっしゃったと言うことは、バレーボール部に所属されておられるのかと存じますが」
「うん」
「ここで油を売っていてよろしいのですか?」
「今日は日直だったから職員室まで提出にいくの。だから少しくらい大丈夫」
「足を止めさせてしまって申し訳ありません」
「イエイエ、声かけたのは俺なので」

あ、つられた。
まぁたまにはいいか。

「途中まで和泉さんとご一緒させていただいてよろしいですか?」
「はい」

あんまり詳しく知らないけど、お嬢様だったりするのかね。その辺は及川にでも聞けばわかるか。

「あ、和泉さんは進学組?」
「進学した方が選択肢は増えますので」
「だよね」

大卒持ってないと就職も危ういって聞くし、行った方がいいんだろうけどどこに行くかってのも重要だし…

「松川さんも進学をお考えですか?」
「大学行きながらなにやりたいかゆっくり考えようかなーと思ってるんだけど、なかなか決まらなくて」

和泉さんは俺と違って、ちゃんと目的もって大学選ぶんだろうな。

「参考までに聞きたいんだけど、和泉さんは進学先とか学部とか考えてる?」
「進学先は通学の利便性や学費、偏差値などから総合的に考えていきます。あと学部ですが、専門職は考えていないので経済学部などを考えてます」
「そっか」

そうか。学校の場所によっては家から通うかどうするかも変わるのか。
せめてそこだけでも決めた方がいいよな。

「私のような者の考えが参考になるかはわかりませんが、進路でお悩みでしたらこのような考えもあるのだと思って頂けたらと存じます」
「いや、充分参考になったよ。ありがとう」

でも今から考えるなら家から通える距離だよな。一人暮らしするにも貯金とか全然ねぇし。

「なんか付き合わせたみたいになってごめんね」
「いえ、こちらこそなんの話題もなくお時間ばかり取らせてしまい申し訳ありません」
「そんなことないよ。和泉さんと話せてよかった」
「その様に仰って頂きありがとうございます」
「じゃあ気を付けてね」
「はい、さようなら」

他の女子と比べると少し長めのスカートが揺れるのを見送って、俺は日誌を提出するために職員室へ向かう。

ほんの気まぐれで声をかけてみたけど、少し変わってるけど和泉さんもただの女子高生だった。度合いはわからないけど、どうやら進路も考えてるみたいだったし。

まぁ、それを知ったからなんだって話なんだけど。


  
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