▼ 探しても見つからない


及川と話をした数日後、バレー部が負けたことを聞いた。

あの日、あまりにも私が前に暮らしていた時のことを聞いてくるものだからその場凌ぎに適当なことを言ったけれど、裏目に出たのかもしれない。
とは言え、バレー部はすぐにまた次の大会があるらしい。及川は前と変わらずなテンションで話しかけてくるのだから、関係ない私がなにか考えることこそ無駄なことなんだろう。

「あ…」
「お久し振りです」

松川さんとは、廊下などで会えば少し話すようにはなった。

「なかなか会わないよね」
「ほとんど教室から出ないもので」
「そっか」

松川さんは及川と違って物静かな人なので、変に気構えなくていいと言うのは大きいのかもしれない。

「相変わらず及川が押しかけてるみたいだけど、大丈夫?」
「はい。毎回私の様な者に話しかけて頂いて申し訳ないです」
「なんで?」
「テレビはあまり見ないので、周りがしているような普通の話は不得手なので」
「それなりに頑張ってるみたいだね」

頑張ってるとはなんのことか。
話をすぐに終わらせる私に話しかけること?ほとんど会話として成り立ってないのに話し続けるその心意気?それなら頑張ってると形容するけど。

そう言うなら、私も頑張らないといけないのでは?少なくとも、こうして話しかけてくれる松川さんには。

「あの、」
「ん?」
「聞きました。部活」
「ああ…及川?」
「いえ、クラスで話題になっておりましたので」
「それもそうか」
「でも、及川からはまだ次があるからいつまでも凹んでいられないと言われました」
「うん」
「だか、ら次は勝ってください」

私の持ってる話題なんて、受験のことか部活のことくらい。及川が言っていたことが正しいなら、問題はない。

「和泉さんに応援されたら、頑張るしかないでしょ」
「そうなんですか?」
「そーなんです」

男子の考えはよく分からない。

「それよりさ、聞いていい?」
「はい」
「及川って呼んでるんだね」

やはり意外だと思ったらしい。

「ええ、その方がいいと申されましたので」

私だって好きで呼んでる訳じゃない。

「じゃあさ、俺もそうしてよ」
「そうとは…?」
「名前。そんなよそよそしくなくていいからさ、もっと気安く呼んでよ」
「気安く…」

及川もそうだけど、どうしてそんなことを言われなきゃいけないのかわからない。

「話し方まで言わないけどさ、せめて呼び捨てくらいにはしてちょうだいよ」

及川と言い松川さんと言い、妙なことを言うものだ。

「と、申されますと…」
「松川さんなんてほとんど呼ばれたことないからいずいんだよね。だからせめて呼び捨てにしてもらいたいって言うか」
「ご友人にも松川と呼ばれていらっしゃるのですか?」
「うん」

松川、松川…

「呼びづらいです」
「ありゃ。じゃあ好きに呼んで?」

なら今まで通りでいいじゃん。

「なんと呼ばれますか?」
「松とか‥一静とか」
「いっせい?」
「一等静かって書いて、一静。俺の名前」
「松川さんにとてもよくお似合いのお名前ですね」
「それは初めて言われる」
「そうですか」

名前を知ってから松川さんを見れば、高校生とは思えない落ち着きがあって、名は体を現すと言う言葉をこれでもかと言わんばかりに体現しているとしか思えない。

「では一静さんにします」
「うん」

ああ。でも、及川と同様によそよそしいのは嫌だなんて思う辺り、一静さんもちゃんと高校生なんだろう。
きっと大人になったらそんなことは思わなくなる。大人ってやつはよそよそしくするのが当たり前で、他人の事に無関心を装って干渉せずにはいられない。矛盾しか存在しないのに、それに気付いてない。そんな生き物だから。

「俺も冬の大会は出るし、和泉さんも応援来てくれる?」
「行った方がいいですか?」
「来てくれたら嬉しい」
「ですが、バレーボールに関する知識があまりないのに出向いては、周りの方にご迷惑をおかけしてしまいますので」
「別に詳しくない奴も来るから、そんなに気にしなくていいよ」
「そうですか」

そんな気軽に行っていいの?スポーツ好きな人って、あんまり詳しくない人が見てるとイライラするんじゃないの?

「難しく考えないで、俺のこと応援に来て」
「わかりました」

そもそも黙って観てたら問題ないか。

「じゃあ日取りとか連絡するからアドレス教えて」
「あ、それは及川がしつこく送ってくるので大丈夫です」
「そうなの?」
「最近のものですと、近々選抜メンバーでの試合があるらしいです」

応援来てとか言われたけど断った。バレーなんて落としたら負けって事くらいしかわかんないし、別に好きなわけでもないから。

「ふーん…」
「如何なさいましたか?」
「なんでもない」

何を思ったんだろう。一静さんが何を思ったところで私には関係ないけど…時間は関係あった。
及川は時間をちゃんと見て勝手に話を切り上げてくれてる。その時もけして時間を忘れてる訳ではないんだけど、一静さんといるとつい時間を見るのを忘れる。

「すみません、そろそろ時間になりますので」
「いや、俺も引き止めてごめん」
「ではまた、さようなら」

また、とは言ったけど。本当に次があるかはわからない。
別れの言葉を伝える時間があるないって事を除けば、別れの言葉はいつだってその人と交わす最後の言葉なんだから。


  
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