▼ 君が苦しむのは、誰が悪いの?


あれから、和泉さんを見かけることはあっても話しかけることは正直減ってしまった。
触れたらいけないところに無理矢理触れてしまった自覚はある。だから和泉さんに申し訳ないと思ってるとか、そんなんじゃない。ただ、それがきっかけで和泉さんに嫌われてたらどうしようって思ってるだけ。
ホント、カッコ悪いし自分勝手な考えだ。

「及川ー」

呼ばれて振り返ると、松っつんがいた。

「最近突撃してないんだって?」
「べっつにー」

どうせ岩ちゃんだろう。なんて思ったけど、俺が部活で和泉さんのことを言わなくなったからわかったんだろう。

「あきた?」
「そんなんじゃないし!」

あきるとかなにそれ。全然意味わかんない。俺が簡単に和泉さんのこと諦められてたら、1年の時から今までズルズル引きずるわけないでしょ。

「そーかそーか」

やっぱり松っつんがなに考えてるのかわかんない。予想させてくれない感じ。予想できたとしてもそれはブラフで、外されることが多い。

「俺さ、和泉さん好きだわ」

それなのに、珍しく松っつんが一息に言い切った言葉を、俺はどこかでわかってた。
松っつんだったら大人っぽいし落ち着きもあるし、和泉さんと並んでもなんらおかしくない。むしろ長年連れ添ってきた夫婦みたいな雰囲気…考えたらへこんだ。

「でも和泉さんに干渉できるのは俺じゃねーなーって思ってる」
「は?」

松っつんの言ってることがよくわかんないんだけど。

「和泉さんから相談されるのって、だいたい及川が絡んだ後なんだよな」
「ちょっとまって相談されるってなにそれ詳しく聞かせて」
「あれ?お前じゃないの?死んだらどうとか好きな人がどうとか」
「いや…」
「和泉さんとまともに話してるのなんて俺か及川くらいだべ?」
「まぁ…」

心当たりが全くないわけじゃないけど、松っつんに相談してたとか初めて知った。めっちゃ仲いいっぽくてズルい。

「和泉さんの事を聞く機会なんてその2回くらいしかなかったけど、相談しないといけないくらい和泉さんの中でなにかあったってことだべ」
「そうだけど…」
「これって及川にしかできないことがあるってことなんじゃねぇの?」

そんな都合よくとらえていいのか迷うけど、松っつんはいたって真面目。

「本気なら向き合えよ。お前やたらモテるわりにヘタレだからなー」
「ヘタレじゃないし!」
「ならさっさといつものお前に戻れ」

どうやら松っつんは俺の背中を押してくれるらしい。
なんで俺の周りにいるやつらってこうイケメンばっかりなの?及川さんの輝きだけじゃ負けちゃうじゃない。

「お前がウザくねーと後輩が心配すんだろ」
「ちょっと松っつん言い方」
「間違ってねーべ」

和泉さんが動かないなら、俺が向かって行かなきゃいけないってわかってたのに、なんで俺は立ち止まっちゃったんだろう。

「…ありがと松っつん」

もうすぐ授業が始まるとかそんなことは気にならなかった。和泉さんと話さなきゃ。それしか頭にない。

「和泉さん!」

和泉はほとんど教室からでない。ましてや授業が始まる直前に教室にいないタイプじゃない。
案の定和泉さんは教室にいて、びっくりしてる和泉さんをそのまま連れ出す。岩ちゃんも含めたみんなもびっくりしてるみたいだった。

「ちょ、なんですかいきなり」
「話そう」
「は?」

2人で話せるなら場所はどこだっていい。チャイムを無視して辿り着いたのは、資料なんかが置かれた倉庫代わりになってる教室。

「なんなんですか?これじゃあ授業に遅刻するじゃないですか」
「1回くらいサボってもなんとかなるよ。この間もサボったし」
「そういう問題ではありません」
「ちょっと俺に付き合ってよ」
「嫌です」

そう言われることはなんとなくわかってたよ。でもそんなことじゃ今の俺はへこまない。

「俺のこと嫌い?」
「どうでもいいです」

じゃあまずは関心を持ってもらおう。

「3年6組、バレー部主将、背番号は1」
「は…」
「ポジションはセッター。身長184.3cm。ちなみにジャンプ最高到達点は335cm。うちのバレー部では現状1番だよ。誕生日は7月20日。好きな食べ物は牛乳パン。最近の悩みは‥うん、好きな子に興味を持ってもらえないことかな」
「いきなりどうしたんですか?とち狂ったんですか?」

和泉さんが怪訝な顔をしてるけど、それは俺になにか感じたからって思えばなんてことない。引かれてるとは考えない!

「いたって正常だよ。和泉さんに俺のこと知ってほしいなーって思ったんだ」
「別にいらない情報です」
「俺は和泉さんのこと結構知ってるからさ、不公平かなと思って」
「なんなんですかその理論」
「和泉さんは岩ちゃんと同じ3年5組で、1月30日生まれ。身長は160くらい?もうちょっと小さい?あ、去年はマッキーと、1年の時は松っつんと同じクラスだったんだってね。マジで羨ましい。趣味は読書。たしか読めるものならなんでも読むんだよね?あと好きな食べ物はやっこ。中学の時東京から引っ越してきて、中学は雪ヶ丘」

身長以外は間違えてないはずだけど、和泉さんの反応がない。むしろ白々しい雰囲気すらある。
え?なんか間違えた?

「なんなんですかその記憶力」
「和泉さんに関してのことはそう簡単に忘れないようにできてるの!」
「1度医者にかかった方がよろしいのでは?」
「ひどい!好きな子のことはどんな些細なことでも覚えておきたいでしょ!」

言葉を間違えたな。なんて、ほんの少しだけ思った。

「それには同意します」

これは和泉さんも同じだから。

「みんなが好き勝手に噂してるくせに、たぶん誰も和泉さんの事をちゃんとしらない。学校で俺だけが知ってる事もあると思うよ」
「そうですか」

ホント、どうしたら俺を見てくれるようになるかな。

「普段和泉さんは人と積極的に関わらないのに、話すときは相手の目を見るよね。見られてる方が怯むくらいまっすぐに」

だから、「とーるくん」を思い出して俺を通りすぎる視線もすぐにわかった。

「不快な思いをさせてすみません」
「謝らないで。お陰で和泉さんがすごく真面目でいい子なんだろうなってすぐにわかったから」
「そうですか」
「あとは…おとなしくてミステリアスな美人さんなのに、昔はかなりのおてんばだったってこととか?」
「そんなこと、他の誰かにも共通してますよ」
「それに、小さいときからずっと1人の事を好きでいる、一途で優しい女の子ってこともね」

よくチャラいとか軽そうとか、いい言われ方はあんまりしないけど、それでも俺には自信を持って言えることがあるんだ。

「とんだ検討違いですね」
「そうかな?」

俺の人を見る目はかなりいいつもりだよ。自意識過剰とかじゃなくね。

「で、それがなんなんですか?」
「一途で優しい和泉さんのことが、俺は好きなんだ」


  
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