▼ 俺がお前だったら
「見ないでください」
落ち着いた和泉さんはすっかりいつもの和泉さんに戻ってた。せっかくかわいかったのに、話し方も元に戻っちゃうなんてもったいない。
「なんで?」
「泣くとブサイクだって、言われたから」
「とーるくんに?」
必死に顔を隠しながらしゃくりあげる合間に頷くのを見ると、なんてバカなことを言ったんだろうと思った。嘘でも女の子にブサイクなんて言ったらダメでしょ。
てゆーか、それ言われたのって子供の時だよね?そんなに前のことなのに今も「とーるくん」の言ったことを信じてるってすごくない?
「大丈夫だよ、和泉さん」
逆にある程度成長してから言ってたならそいつの人格疑うけどね!女の子にそんなこと言っちゃダメでしょ。それと和泉さんはめっちゃかわいいから!及川さんが保証するよ!
「ほら、そんなに擦ったらもっと赤くなっちゃうよ?」
「や、めてください」
必死に隠そうとするけど、残念。
「和泉さん、さっき目があったよね?」
だから今更隠さなくてもいいよ。
「今すぐ記憶から抹消してください」
「和泉さんに関連することは忘れられないようにできてるからムリでーす」
本当に嫌らしい。完全に背中を向けて顔を隠してしまった。
困ったなぁ…
「かわいかったよ?」
「うそつき」
「ホントだよ!目があった時すっごい綺麗でびっくりしたもん」
いつそんなこと言われたのかわかんないけど、「とーるくん」も和泉さんのことが本気で好きだったんだろうね。そうじゃなきゃ結婚しようなんて出てこないだろうけど。
「和泉さん、本当に綺麗だよ。俺が見たどんな女の子よりも」
「おべっかはいらないです」
どうしたら信じてくれるかな…
「今言うとこじゃないんだろうけどさ、俺の知らないやつが俺の知らない和泉さんを捕まえて離さないのはムカつくよ。いつまでも和泉さんの中で息づいてるのもムカつく。そのうえ泣くのも笑うのも今ではそいつくらいしかさせてあげられないのもムカつく。あとついでに俺と同じ名前なこともムカつく。「とーるくん」が目の前にいたら間違いなく殴ってたね」
「絶対透くんが勝つ」
「それはわかんないよ?」
だって俺強いもん。
…本当に岩ちゃんみたいなのが相手だったら負けるかもしれないけど。
「ね、こっち見なくてもいいからさ、またお話ししよう」
でも絶対に負けたくない。
古本屋みたいな匂いがする薄暗くて狭い空間で、2人仲良く背中合わせに三角座り。
「「とーるくん」ってどう書くの?」
「透き通るって書いて、透」
「へえ!俺はね、徹夜とかの徹って書くの」
「そうですか」
「和泉さんの名前かわいいよね」
「それはどうも」
負けたくないのにさ、同じ「とおる」なのにこうも違う。
「おてんばだった和泉さん」
「なんですか?振られ続ける及川さん」
ちょっと、俺のことを振ってるのは和泉さんなんだけど?
「虫平気だったりする?」
「蛙とかバッタは大丈夫ですけど、蝉とか、足がいっぱいある飛んでくる系は苦手になりました」
「そうなんだ」
「お陰で害虫駆除ができなくて困ります」
「その時は及川さんが助けてあげるね」
「結構です」
「じゃあ怖い話は?ホラー物とか」
「ひとりで映画館に行けるくらいには平気です」
「そうなの?」
「あんなのは怖いと思うからいけないんです」
「…そっか、そうだよね」
きっと怖いと思えないんだろう。和泉さんの大好きな「透くん」はそっち側だから。
あーあ。和泉さんにそんな好かれてるなんて、ズルいなぁ。
「ねぇ」
「なんですか?」
「考えたんだけど、俺はやっぱり、好きな子には笑っててほしいな。できれば忘れてほしくないけど、それでいつまでも泣かれるくらいなら、俺のことなんて忘れられた方がいいよ」
泣いてももちろんかわいいんだけどさ、女の子は笑ってるときが1番かわいいんだよね。例えそれが俺以外の知らない奴の隣だったりしても、好きな人の隣で、好きな人を想って笑ってるのが1番かわいい。
「及川の意見は結構です」
「でも同じ「とーる」の意見だよ」
性格も何も知らないけど、少なくとも同じ男なんだから根本は一緒だろう。しかも同じ名前で、同じ人を好きになってる。俺が「透くん」でも同じ事をすると思う。和泉さんを守ることで死んでしまうと言われても、迷わずこの身を投げ出すだろう。
実際そうなったお前が、俺は間違いなく羨ましいよ。今もずっと、和泉さんに想われてるんだから。
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