▼ ねぇ君は、


「和泉さーん!」

あれから、俺は相変わらずほとんどの時間を教室で過ごす和泉さんに話しかけに行ってる。
みんなが思ってるよりも及川さんは一途なんだよ?健気でかわいいって言ってくれてもいいよ?

「なんですか」

俺よりも和泉さんの方が100倍かわいいけどね!

最近は少しだけ砕けた話し方になってきて、余計かわいさが増してきてちょっと後悔してる。あんまりかわいいところ周りに見せたくないでしょ?

「今日はなに読んでるの?」
「小説です」
「そうじゃなくて!どんなの?」

…和泉さん、今絶対にめんどくさいって思った。
それなのに読んでる途中の本を閉じて俺と話す姿勢を作ってくれるところとか、ホント好き。

「「私」が殺してしまった「彼」に殺された「私」が「彼」を助けるお話です」

…んん?

「どういうこと?」
「詳しくは自分で読んでください」

めんどくささを隠しもしないで話してくれた小説の内容は、聞いてもよくわかんなかった。
和泉さんが読んでるのは難しいものから簡単なものまで幅広いから、今読んでるのが読みやすいのかもわからない。
たぶん、俺には難しい。

「及川なら寄生虫の方がいいかもですね」
「なにそれ?」
「文字通り、頭に虫が沸いて盲目になります」

うん、なにそれ。全然わかんない。

「今読んでるものと同じ作者が書いた、ひねくれた恋のお話ですよ」

和泉さんの言い方がひねくれてると思う。
それってよく聞く「恋は盲目」って言葉から出てきた説明だよね?恋愛小説ならそうっていってくれればいいのに、なんでそんな屈折した言い方するの?和泉さんが何を読んでても俺は驚いたりしないのに。

「それって読みやすい?」
「それは人によるので一概に言えませんが、なんとなく読むのなら難しくないんじゃないですか?」

暇な時間に少しずつ読んで終わるかな。

「もしよかったらお貸ししましょうか?」
「え、いいの?」
「そんな頻繁に読むものでもないので、興味があるなら」
「読みたい!」
「では明日にでも持ってきます」

食い気味で返事しちゃったけど、和泉さんは気にしなかったらしい。さっそく貸してくれるって返事でそれがわかる。

最近気付いたけど、和泉さんの読む本はみんなが読むものと読まない物の差がとてつもなく激しい。こんなところにまで習性が出てるんだから面白いよね。

「それって日本語?」
「日本人が書いてるので」
「よかった」

快く貸し出しをしてくれるんだから日本語で書いてないわけもないだろうけど、和泉さんはたまに何語か読めないのを読んでるから気を付けないといけないんだよね。

「他には面白そうなのある?」
「マンガのノベライズでも読んでたらどうですか?」
「急に対応が雑になったね?」
「後は…絵本?」
「ねぇちょっと!急に雑!」
「だって、及川って雑誌しか読まなさそうに見えるので。しかも写真だけ見て文字は読まないタイプ」
「読んでるよ!」

月バリだけど!

「その「意外です」って顔やめて!」
「事実なので」
「及川さんだって本くらい読みますー」
「なに読みますか?」
「え……っと、漱石、とか…」
「教科書にありますからね」

バレてる!

「本なんて無理に読むものでもないんだから、好きなものだけ読んでたらいいんですよ」
「和泉さんが好きなものが読みたいの」

その逆で、俺の好きなものも和泉さんに好きになってもらえたらいいけど。
まずは興味をもってもらうことかな!

「とりあえず教科書に乗ってる「こゝろ」を全部読んでみることをオススメします」
「好きなの?」
「…そこまでは」

なんであんまり好きじゃないものオススメするのさ。俺は和泉さんが好きなものを読みたいのに。

「明日持ってくるので、それまでは教科書でも読んでてください」
「…俺の扱い、ホント雑になってない?」

別にそんなことはこれっぽっちも気にしてないから、そう言ってるだけ。及川さんは心が広いからね!
そもそも、雑になったってことは馴れてきてるってことでしょう?岩ちゃんみたいなのはちょっと困るけど、俺との距離感が縮まるならそれもいいかな。


  
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