▼ 星空観察


俺は、彼女についてほとんどなにも知らない。

「置いてくぞ」
「うん、今行く」

知っているのは、誰もが知ってるような本当にちょっとしたこと。

切り揃えられた前髪だとか、腰まであるまっすぐ伸びた黒髪とか。そんな程度。
後は前髪に見え隠れしてる眉は、適度に手入れされてるのか品のある形っぽいなーとか。遠目だからわからないけど、たぶん化粧はしてないだろうなとか。伏せられた目はきっと硝子玉みたいなんだろうなと思うくらい。

「なに見てたんだ」
「うーん…ずっと気になってる人かな?」

スカートは他の女の子と違って少し長めの校則通りで、膝の上で風に揺れてる。

「……お前にそんな奴いたのか」
「ちょっと岩ちゃん、それはさすがに失礼じゃない?」

すれ違うときに香ったのは、香水じゃなかったと思う。香水ほどきつくなくて主張もしなくて、そう。あれはきっとシャンプーだと思う。知らないけど。

「で?誰だ」
「え。言わなきゃダメ?」
「言いたそうにしてるくせになに言ってんだよボゲ」
「えー?聞きたい?しょーがないなぁー」
「殴る」
「ひど!女の子に乱暴するなんて岩ちゃんは男の風上にもおけないね!っていったあ!!」
「オメーのことだよ。つか、はぁ?そいつ女子なのか?」
「うん」

俺が知ってるのは、それくらい。
全部予想の範囲を出ない。

「はー…珍しいこともあるもんだな」
「ちょっと。俺はホモじゃないからね」
「うるせーな」
「岩ちゃん?!」

そんな彼女が表情を作るのを、1度も見たことがない。友人と呼ばれる人といるところも見たことがない。かといっていじめられているかと言うと、そうでもないように見える。

「で。誰だよ」
「言わなきゃダメ?」
「言っても言わなくても殴らせろ」
「なんで!?やだよ!」

感情を失くした。
そう表現するのが1番近いと思う。

「えーっと、たしか和泉加奈枝さんだったかな」
「は?和泉ってあの和泉か?」

でも、友人でも知り合いでもない俺には、なにもわからない。

「岩ちゃん知ってるの?」
「知ってるもなにもクラス一緒だし」
「ずるい!」

俺の知らないところで普通に笑うことがあるかもしれないし、実は友人が多いかもしれない。もしかしたら、いじめられているのかもしれない。

「そーか、和泉か…」
「うん」
「…本気か?」
「どうかな…ずっと見てるけどよくわかんないや」
「いつからだ」
「えー?うーん、そーだなぁ…1年の春?とか夏頃?」

でも、なにもわからない。
わからないまま時間だけが過ぎた。

「はぁ?!おま…」
「なに?岩ちゃん」
「…なんでもねぇ」

話したことなんて1度もない。たぶん、彼女は俺のことすら知らないかもしれない。もうずっと、俺が一方的に見てるだけ。
せめて俺の事を知っていてくれたらいいんだけど、噂とかも興味なさそうだしなぁ。

「オラ、テメー今日のサーブ1本でもミスったらぶっ飛ばす」
「理不尽!!」

できることなら彼女の視界に入りたい。彼女に俺を知ってほしい。そしてできることなら、もっと彼女の事を知りたい。

今はまだ、そう思ってるだけ。


  
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