▼ 不自然な自然


青城には、誰もが知ってる噂の先輩がいる。その人は及川さんと同学年で、俺が入学してすぐにその人の話は耳に入ってきた。それに、何度か見かける機会もあった。そりゃあ同じ校舎にいるんだから当たり前だけど、遭遇率はそんなに高くない。だから、よく知ってるわけじゃねぇけど、それでもあの人は噂通りの人だった。

あの人のことを1言で言うなら、美人。
たぶん染めたことなんてなさそうな長い黒髪は、美人なだけじゃなく清楚さも感じる。スカートが短すぎないのも好感度高い。私服でたまに短いスカートとか着てるのを想像するだけでテンションあがる。
ついでに学年でも常に成績上位をキープする成績優秀者。そりゃ噂にもなるよな。

「渡は知ってるか?」
「何を?」
「和泉さん」
「ああ、うん。噂くらいなら」
「だよなー。美人だもんなー」

こんなところじゃなくて東京にでもいたら、スカウトされたりしてモデルかアイドルにでもなってたんじゃねえかな。

「俺は及川さん関連で聞いたかな」
「及川さん?」
「うん。及川さんの好きな人が和泉先輩って話」

なんだそれ。

「あれ?矢巾知らなかった?」
「いや、知らなかったっつーか、聞いてなかったっつーか」
「知らなかったんだ」

でもまぁ、おかしくはねぇか。和泉さん美人だからな。

「及川さんの好きな人かぁ」
「噂だから、本当かどうかわからないよ?」
「それでも及川さんに勝てるとは思わねえよ」
「もしかしたら勝てるかもよ?」

そう言った渡は、冗談でもなく何気無しに言ったらしい。
確かに和泉さんが及川さんを好きになるかなんてわからない。可能性は低いけど、もしかしたら及川さんは和泉さんの趣味じゃないかもしれない。

例えそうだったとしても、俺の答えは変わんねぇけど。

「いや、別に付き合いたいかどうかって言われたらそーでもねえし」
「アイドル見てる感じ?」
「あー、それよりはもう少し近いけど、大体そんな感じだな」

美人だなー、話したいなーとは思うけど、それだけ。同じクラスだったり同じ学年だったなら、もしかしたら付き合いたいと思うこともあったかもしれない。でも実際問題和泉さんは先輩で、同じクラスになることは確実にないし、関わりを持つこともほぼない。

「なんにせよ、和泉さんは今の状態が1番和泉さんの魅力を引き出してると俺は思うね!」
「高嶺の花的な?」
「そーそー」

同じ学校でたまにすれ違う。それくらいで充分。

「実際不思議な人だよね」
「そーなんだよ。まぁあれだけ美人ならそういう部分も自然と出てくるのかもしんねえけど?」

どこかミステリアスで美人な先輩。近いようで絶対に手が届かない。あの人はそれくらいでちょうどいい。

「…渡?」
「え?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」

渡もなにかしら思うところがあるんだろう。

「なんだよ、なんかあったんだろ?」
「でもこれも噂だし」
「和泉さんの?」
「うん」
「気になる」
「根も葉もないただの嘘なんだろうけど、和泉先輩は人を殺してこっちに逃げてきたって噂があったなーと思って」
「は?なんだそれ」

いくら噂にしても、していいもんといけないもんがあんだろ。

「よくわかんないけど元々こっちにいた訳じゃなくて、どっかから引っ越してきたらしいよ。それでいろんな憶測が飛び交って最終的に、って感じ?」
「でもたかが噂だし、根拠ねぇんだろ」
「まぁね」

なんか腹立つ。だからと言って本人に聞くのも失礼だからしねえけど。

「つーかドラマかなんかの設定かよってな」
「確かに」
「そんな噂すら和泉さんは魅力に変えてるけどな」
「矢巾ならそう言うと思ったよ」

ま、知らなくてもなんの問題もない。
そもそも和泉さんとお近づきになる予定もねぇしな。


  
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