▼ 静止した時


「あ」

移動教室の合間に見掛けたのは、最近バレー部で噂のあの人。
長すぎる髪。校則ギリギリの所で羽目を外す周りと違い、規定通りなんだろう周りより少し長いスカート。浮いてるから嫌でも目につく。

「なに見てんだ?」
「ほら、あの人」

金田一に聞かれて、そのまま指差せばすぐにわかったらしい。

「ああ、及川さんの」

そう。及川さんの想い人。
そんな話が出てきたのはここ最近のこと。聞きたくて聞いた訳じゃない。3年の先輩が騒いでたから偶然聞こえただけ。そもそも別に及川さんが誰を好きになろうが関係ない。

「及川さんモテるのに、なんであの人なんだろうな」

金田一の言うこともわからなくなかった。
女子に囲まれてきゃーきゃー言われてる及川さんは、悪く言えば選び放題。及川さんのファンは可愛い系から綺麗系まで幅広い。彼女がほしいだけなら、好きじゃなくてもとりあえず1番好みのタイプと付き合えばいい。
それなのに、どうしてあの人なのか。それは金田一も思ったことのようで、珍しいことにそんなことを言い出す始末。

「あの人もどちらかといったら綺麗なタイプではあるし、並んでもそれなりに見えるんじゃない?」

たぶんだけど、髪まとめたりとかなんかいろいろしたら変わるんじゃない?
知らないけど。

「え。あの人なんか怖くねぇ?」
「は?どの辺が?」
「なんかよくわかんないとことか?」
「話したことないんだから、わかんなくて当たり前じゃない?」
「そうなんだけど、なんか変な感じするって言うか」

女子は誰かと一緒にいるのが当たり前だと思ってたが、あの人は例外らしい。個人的には、ひとりで行動してるところは好感が持てる。きっとそれが金田一の違和感の原因になってるんだろう。まぁ、1番はあの人の無表情さが原因なんだろうけど。

「変わった人ではあるのかもな」

異質な存在とまでは言わないけど、高校なんて小さい箱の中では、あの人は十分異質に見える。きっと大学とか就職したら、そんなことはまったくなくなるんだろう。

「だよな」
「でも怖くはない」
「え!」
「不思議な人だとは思うけど、別に」
「…それ、国見が言うか?」
「金田一に言われたくない」
「おい、それどういうことだよ」

放課後には、及川さんのテンションが落ち着いてればいいのに。
俺が今思うのはそれだけ。

「金田一だったらどうする?」
「は?なにが?」
「及川さんに好かれたら」
「え、気持ち悪」
「及川さんに言ってやろー」
「ば!やめ!だって男に好かれても嬉しくねーだろ?!」
「じゃあ、あの人だったら?」

あの人は、俺たちの視界にはもういない。それでも金田一は及川さんの時よりも少し真面目に考えてた。

「よく知らないし、先輩だし、困る」
「先輩じゃないと仮定して」
「それでも困る」
「お友達から始めようとか言われたら?」

これには結構困ったらしい。
どうせ仮定の話で実際にはあり得ないことなんだから適当に答えておけばいいものを、金田一はいちいち真面目に考える。だからこそからかいがいがある。

「友達なら、いいかな」

ほら、お前はいいやつだよ。

「だから友達止まりなんだよ」
「は?なにが?」
「なんでもない」
「あ、国見!」

金田一を置いてさっさと歩くと、後から金田一もついてくる。

「国見はどうなんだよ」
「なにが?」

そして聞かれた。

「あの人に友達からって言われたら」

俺が聞いたこととまったく同じこと。まぁ好かれたらって言うのは聞かれなかったけど、俺がそれを含んだ問い掛けをしたんだからそうとしか思えない。

そして、その問い掛けの答えなんて考えるまでもない。

「即断る」

俺とあの人じゃお互いダメになると思う。それは金田一も同じ。
だからあの人とどうにかなることだけは、たとえ死んで生まれ変わったとしてもありえない。


  
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