懲りもせず、おれは再び病院を訪ねていた。
この間は、うっかりあんなことを…前のあいつなら容赦なく殴ってきてただろうけど…今の昊罹は忘れてんだろうな。
それはそれでいいんだけどよくないっつーか…まぁ忘れてくれた方がいいか。
「やだ!触んないで!」
廊下を歩いていると、昊罹の声が聞こえた。通りすぎる扉が締め切られている他の病室の中から、どこか落ち着かない雰囲気を嫌でも感じる。
それもそうだ。病室で騒ぐやつなんて子供でもそうそういない。なにやってんだよあのバカっ
「離してっ離してったら!」
病室には暴れる昊罹を押さえようとする看護師と、注射を持った医者がいた。
最後に見たときは綺麗に片付けられていた病室だったが、今では落ちて割れた花瓶と花が散らばってここは病室に間違いないのに明らかに普通の病室とは違う。
「なにやってんだよ!」
「…く…ししどくん…宍戸くん!」
今、名前…なんで…
「忘れたくない!あたし、もう忘れたくないの!!」
「落ち着いて螺々空さん!」
「私はっもうなにも忘れたくないだけの!そう思うことのなにが悪いのよ!!」
「でも寝なくちゃあなたの体が壊れるわっ」
「やだ!寝ない!だって寝たら全部忘れちゃうんでしょ!?ならもう寝ない!お母さんのあんな顔みたくないっ会う人の落胆した後の、取り繕うようなあんな顔、もうみたくないの!」
なにやってんだよ…お前も、俺達も。
お前は寝ないで、その日の事を忘れないで、そんなこと考えてたのかよ…俺達は、そんな顔してお前に会ってたのかよ…
「昊罹」
「宍戸くっ」
「あっ…ぶねえ…」
「宍戸くん、宍戸くん…」
押さえつける腕を振り切って!ベッドから滑り落ちるように飛びついてきた昊罹を抱えて気づいた。
入院してからだろうか、少し痩せた。この間はいっぱいいっぱいで気づかなかった…激ダサ。
「寝てないのか?」
「本、全部読めたんだよ…ここ2日のこともちゃんと覚えてる…」
「おま、俺達が来てから寝てないのかよ?!」
「だって!」
「なんで寝ないんだよ!」
って、忘れたくないんだったな。
「あの、その…最初はいろいろ考えちゃったから眠れなかったんだけど、その時、忘れてないことに気付いて」
ちょっと、待て。
忘れてないってことは、いろいろ考えてたってことは、まさか
「あの事か」
「…うん」
だよな。
ならこれは俺のせいか。
「…悪い」
「ううん、いいの。その…」
「なんだよ」
「言わない!」
「なら無理には聞かないけどよ」
「…あたし、忘れたくないだけなんだよ?」
「ああ」
「もう、手帳に名前書きたくないの」
そう言えば、こんな風に弱音を吐く昊罹を見るのは初めてだな。
「あたしのせいで、誰かが泣くのはみたくない…」
「そうだな」
「寝たら忘れるくせに、忘れたくないと思うことが悪いの?」
「いや、悪くねぇよ。昊罹はなにも悪くない」
やっとわかった。昊罹がいなくなってからずっとスッキリしなかった理由が。
俺、どんなお前も…