言質を取ります

そう意気込んだのはいいけど、席が近いわけでもない私が、自分から蛍ちゃんに声をかけるタイミングは全くなかった。


「ちぃ、帰るよ」


そのせいか、こうして蛍ちゃんから声をかけられるのがなんだか久しぶりな感じがする。帰る時はずっと忠くんが声をかけてくれてたから。そうでなくても、今日1日蛍ちゃんと目が合うことすらなかった。だから余計久しぶりに感じるんだろう。


「うん」


よかった、蛍ちゃんの機嫌直ったみたい。機嫌が悪かったのかもよくわかんないけど、いつも通りに戻ってくれてよかった。

蛍ちゃんと一緒に忠くんがいるのは、私にとって当たり前の光景。だけど、そこに私が入ることは違和感があるらしい。ずっと一緒にいるからなにも変なことじゃないんだけど、なんでそう思われるのかな。

工藤くんは同じ部活の人と一緒に部活に行ったから、私は前だけをみて鞄を持ち上げた。それを合図に2人は教室を出ていくから、その後を追いかける。
いつだって追い付けるペースで歩いてくれるから、こうして追いかけるのも嫌いじゃない。ちょっと困るときもあるけど。


「…部活入るんでしょ」
「うん」
「やめたら?」
「ツッキー…」


その困るときがこれ。
蛍ちゃんの心配性はちょっとすごい。全部私が原因だから仕方ないんだけど、もう大丈夫って言っても全然聞いてくれないのは困る。


「やめない」
「なんで?」
「蛍ちゃんに言わなきゃいけないこと?」
「別にそう言うんじゃないけど」
「じゃあなに?」


私だって普通に部活したい。友達作って帰りに寄り道…するところがあんまりないから、教室で時間を忘れて話したり、恋バナしたり、部活で先輩後輩とかしてみたい。


「中途半端にやるなら迷惑にしかならないんだからってこと」
「そんなことしないもん」
「どうだか」
「ちょっとツッキー」
「なに、山口」


普通にしたいって思うのは、迷惑なの?
たしかに今回も数値も低かったし、今まで何回も迷惑かけちゃうことがあったけど、私だってもう子どもじゃない。


「蛍ちゃん」
「なに?」


ちょっとだけ頭に血が上った自覚はある。
私が何を言っても蛍ちゃんの意見は変わらない。それは昔から変わらない。


「工藤くんに聞いたんだけどね、マネージャー欲しいんだって」
「…だからなに?まさかマネージャーやるなんて言わないよね?」
「言わないけど、もしも私がやりたいって言ったら、困る?」
「迷惑かけるからやめな」
「そうじゃなくて、蛍ちゃんは?困る?」


だからこんなこと聞いても、意味ないって知ってるんだ。


「文化部ならともかく、マネージャーなんてされたら迷惑だから絶対にやめて」
「ツッキー!」


わかってたよ。蛍ちゃんの返事は最初からわかってた。


「だから文化部に入るね」
「は?」
「え?」


蛍ちゃんが言ったんだもん。たった今言質は取ったからね。


「ちっ」


蛍ちゃんも気付いたみたい。悔しそうにしながらも何も言わなかった。
歩く早さはちょっと早くなったけど。


「え、ちぃ?」
「蛍ちゃん、忠くん」
「なに」


心配かけてばっかりでごめんね。


「大丈夫、私ちゃんとやれるよ」
「絶対に倒れたりなんかしないでよ」
「うん」
「なんかあったら連絡してね」
「ありがとう」


少し困るくらいの心配性だけど、最終的に幸せ者だなって思っちゃうんだからしょうがない。


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