中学最後の大会

シューズと床が擦れる音。ボールを打つ音。味方にかける声。そして、重みを増して跳ねるボールの音。


「いくら座って見てるだけとは言っても、無理はしないでよね」
「今日は1人なんだから、もし体調が悪くなったらすぐに近くの大人に言うんだよ?」
「もう、蛍ちゃんも忠くんも心配しすぎだよ」


私には、どうあっても辿り着けない場所。


「今まで散々隣で倒れられたら、嫌でも心配になるデショ」
「じゃあ俺達行くけど、本当に無理しないでね?」
「うん、ありがとう。応援してるね」
「あ、あと知らない人についてっちゃダメだからね!あ、待ってよツッキー!」


羨ましいなんて今更思わないけど、いつも誰かの背中しか見えないのは少し寂しいなぁ。なんて。

2人とは体育館の入り口で別れて、1人でギャラリーに向かう。
どこかベンチあいてないかな。ずっと立ってるのは…できなくないと思うけど、たぶんすごく怒られそう。蛍ちゃんはもちろん、忠くんも怒ると怖いんだもん。心配してくれてるのはすごくわかるんだけどね。


「どっかベンチ…」


ギャラリーはすでに各学校の応援の人が見やすい場所をある程度確保しているので、1番前のベンチの端に腰を下ろした。
ここなら正面の壁を言い訳に立って見てても怒られないし、疲れたらすぐ座れる。心配してくれるのはありがたいんだろうけど、もうすぐ高校生になるんだからもう少し安心してほしい。と、思うのはわがままなのかな。

…って、あれ?雪ヶ丘って…北川第一って…
こっち側って、もしかしてうちと反対ブロックだった?


「おっ丁度始まりますよ!大地さん!スガさん!」
「おう」
「おー。元気なの居るな」


私のすぐとなり。正面の壁に飛び付くようにコートを覗きこんだのは、たぶん高校生かな?
真っ黒いジャージに白い学校名の印刷。鳥じゃなくて…烏野…明くんが行ってたところ?


「お、1人なのか?」
「え」
「中学生か?お父さんかお母さんは?」


え、なにこの人。いきなり話しかけられても…悪い人ではなさそうだけど、こういうときってどうしたらいいんだろう?


「大地、いきなり話しかけたらその子もビビるべ」
「あー、それもそうか。怖がらせたならごめんな。女の子が1人でいるのは珍しかったから」
「いえ…」
「迷子か?」


怖い。と言うか全体的に黒い。
やたら話しかけてくる人は髪も黒いからまるでカラスみたい。


「幼馴染みが出るので、その応援に」
「そうか。その幼馴染みと一緒に来たのか?」
「はい」


灰色の人はなんとなく優しそう。
忠くんにどことなく似てる気がする。


「じゃあ帰りもその幼馴染みってやつを待つのか?」
「…ソウデスネ」


坊主は…きっとヤンキーだ。だってなんか目付き悪いもん。
蛍ちゃんが言ってた。危なそうな人とは喋っちゃダメって。


「なんで俺だけ嫌そうなんだよ」
「田中の顔が恐いんだべ」
「恐くねーっスよ!」
「君、今までに試合を見たことは?」
「毎回じゃないですけど、たまにこうして応援に行きます」
「そっか。じゃあ君の幼馴染みくんが勝てるように応援しないとね」
「はいっ」


うん。いい人だ。


「なんでスガさんにはなついてんだよー」
「まぁ、スガだからな」


で、この人たちは誰なんでしょうか。


「そーいや、何で中坊の試合なんか見に来たんスか?」
「"王様"を見に来たんだよ。"コート上の王様"」
「王様?」


王様ってことは、偉いひと?


「ホラ、北川第一の2番…セッターの影山だよ。鋭いトス回しに加えてブロックやサーブでもガンガン点を稼ぎ、抜群の身体能力とバレーセンスでコートに君臨する"王様"!来年戦うことになるかもだろ?」
「へーっなんか感じ悪っ」
「まぁただの噂だし、"王様"の名前の由来もよく知らないしね」
「…それにしても…"王様"の相手はどこだァ!?高校生対小学生みたいな身長差だなァ」


たしかに、みればみるほど平均身長に差がある。蛍ちゃんも忠くんも、きっと雪ヶ丘の人たちと並んだら大人と子供みたいになるんだろうな。

ぐるりと体育館を見回したけど、2人はどこにも見つけられなかった。


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