中学最後の大会

「ほら、初戦が始まるぞ」


黒い人の声でコートを見ると、確かに挨拶の直前だった。

うっかり反対ブロックに来てしまったからか、それともそれ以外のなにかがあったのか。勝ち進めばいづれうちと当たる泉石と加持北の試合よりも、雪ヶ丘と北川第一の試合の方が目を引いた。

まだ始まってもいないから表現としては少し違うけど、まず人数の差が目についた。

スタメンの他に控えも並ぶ北川第一と対照的に、バレーボールで必要な最小人数が並ぶ雪ヶ丘。しかも雪ヶ丘はオレンジ頭の子以外サポーターを着けてない。
試合慣れしているのかリラックスしている北川第一と、緊張でガチガチに固まっている雪ヶ丘。そんなチームに1人ずついる、本気の目。楽しみに歓喜する目と、不機嫌そうにも見える真剣な目。


「変な人達」
「ん?どうかした?」
「え、あ…」


変な人って、そんなことよく知らない人に言われたくないよね。


「なんか見つけたんだべ?」
「いえ、たいしたことじゃなくて」
「聞かせてくれないか?君の思ったこと」


もう一度コートを見ると、審判に背番号を見せていた。それすらも雪ヶ丘はもたついていて、もしかしたら素人なのかと思う。


「雪ヶ丘は、怪我できないなぁと…思って」
「ああ」
「そーいや今年初めて見る学校っスよね?」
「もしかしたら、部員が足りなくて今までは出られなかったのかも知れないな」
「それだけじゃないんだろ?」


やっぱり言わなきゃダメかな…


「緊張の、度合いが違うなぁと」


コートでは試合が始まっている。
訓練された北川第一と違い、雪ヶ丘は小さなミスがよく目立つ。


「初試合なら仕方ないだろうな」
「で?」


あ、私このグレーの人苦手だ。全然忠くんに似てない。どっちかと言うならうちのお母さんに似てる。


「まだなんかあるんだべ?」
「…2人だけ、目が違うなぁって」
「目?」
「どういうことか聞いてもいいか?」
「緊張でいっぱいいっぱいの雪ヶ丘で唯一楽しそうな人が1人。完全にリラックスしてる北川第一の中で本気で勝ちを狙ってる人が1人」


雪ヶ丘と北川第一の向こう側、泉石と加持北は本気で闘ってる様に見える。とは言っても、コートひとつ挟んでるからそれが本当かどうかはわからないけど。


「ほぅ…なかなか良いところに気付くな」
「まぁナメてるっちゃあナメてますよね、北川第一」


彼方側のブロックが普通で、此方側は少し異質なんだろうな。
なんだかちぐはぐで、パズルのピースを間違えて嵌めたまま気付かないふりをしてるような違和感。


「うおっ」


反対ブロックの試合は早々に諦めて、ぼんやり雪ヶ丘と北川第一の試合を見ていたらすごくびっくりした。

なに?今の。オレンジ頭の小さい子、すごい飛んだ気がしたんだけど。


「あチャー…捕まったか!」
「でも…凄え飛んだな」


やっぱり見間違いじゃなかった。少なくともこの高校生が驚くくらいには飛んだんだ。

見ていてわかったのは、どうやらまともに動けるのはオレンジ頭だけと言うこと。あとはセッターの色素薄いのと、黒い短髪がかろうじて動けてるくらいかな。

動き慣れてない、身長も足りない。初心者をかき集めて作ったような雪ヶ丘は、北川第一相手に点差が開くばかり。


「あいたーっまた捕まったーっ!!」
「でも、あの1番ギュンギュンよく動くなァ!!色々下手くそだけど!あれで身長があればなぁぁ!!」
「うん。後は…雪ヶ丘中にちゃんとしたセッターが居たら、あの1番ももっと活きるんだろうけどなあ」
「うん…でも初心者寄集めみたいなメンバーをよく1人で支えてるよ、あの1番。逆に─影山は周りの恵まれた面子をイマイチ活かしきれてないよな。影山個人の能力は申し分ないはずのに、まるで─独りで戦ってるみたいだ」


周りの歓声に紛れて、北川第一のセッターの声が聞こえる。


"王様"か。
個人で有する高い技術からそう呼ばれるのか。それとも、1人突出しすぎてしまう今の状況からそう呼ばれるのか。どちらも間違っていないようで間違っている気がする。
蛍ちゃんか忠くんなら知ってるかな。


「わ、」


セッターのミスったボールを、オレンジのが拾いに走ったけど結局とれなくて。転んだだけじゃ勢いが死ななくて、壁に思いっきり当たってる。痛そう。


「これで北川第一マッチポイント!!雪ヶ丘崖っぷちだ!!」


雪ヶ丘の点数は0のまま。後輩なのか同級生なのか、細っこい子となにか話してたけどすぐコートに戻ってきた。
試合を続けられるってことは大事ないんだろうけど、頭ぶつけてないのかな。TOを取る…なんて考えてないか。


「あ」
「ん?なんか見つけたのか?」


ああ、また声が出ちゃった。


「なんか、あの…北川第一のセッター、空気変わりました…?」
「そうかぁ?さっきからあんな感じだと思うけど」


まさか坊主の人が返事をくれるとは…見た目よりもいい人なのかもしれない。この感じだと運動部だろうし、本当はヤンキーじゃないのかも。

試合は相も変わらず一方的。なんとかサーブを繋いでも、次の瞬間には攻撃を防がれる。取ったのはさっきの1点だけ。レシーブがほとんど機能しないから、仕方がないのかも知れないけれど。そんな言葉で片付けるのは酷すぎる。


「わ、拾った」


黒い短髪の子が、何を思ったのか足でボールを掬い上げた。
反則とられないってことは、足って使ってもいいんだ…知らなかった。使う人なんて今まで見たことがなかったから。


「…確かに、雪中の1番は奮闘してるが、崖っぷちなのは変わらず…どうする雪ヶ丘…」


後がない、なんてものじゃない。6発中5発の弾が籠められた拳銃で、敗けが決まっているロシアンルーレットに挑むような。それでもそのたったひとつの空弾を諦めず、引き金に指をかけているような。
限りなく敗けに近いのに、まだ諦めてない。


「あ」


セッターはたぶん、そのまま良くも悪くもわかりやすいトスを上げるつもりだったんだと思う。オレンジの子も、そこで待ってた。
それなのにボールは全くの逆サイド、誰もいないところに跳ねた。

それなのに…


「マジか!!打ったよアイツ…!」


オレンジの子は、それに追い付いてネットの向こうに叩き込んだ。


「驚いたな…」
「あんなムチャブリトスを…」
「いや、あれは…」
「なんだ?」
「いえ、」


今のがミスかどうかなんて、本人でもないからわからないし…変なことは言わない方がいいよね。灰色の人にまた絡まれる。それはヤダ。


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