▽仮入部最後の日
いつも私のペースに合わせて歩いてくれる2人に、いつだったか「こんなにゆっくり歩いて疲れない?」って聞いたことがある。
2人はなんてことない顔をして、それぞれ返事を返してくれた。言葉は違うのに全く同じ意味の言葉を。
「ねぇツッキー」
「なに、山口」
歩き始めた蛍ちゃんに忠くんが声をかけると、どことなく角がとれたような返事が帰ってくる。
少しは機嫌直ったのかな。
「あの影山だって大したことないんじゃん?ツッキーになんにも言い返せなかったし」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー」
私を挟んで歩く2人の、いつもの言葉が頭の上で交わされる。
よかった。いつもの2人だ。
「ま、"王様"のお手並み拝見かな。あとあのチビの」
あ!そうだ。
「ねぇ蛍ちゃん、それって私もチビってこと?」
「あ、わかった?」
「もー!」
繋がれたままの腕を叩いても、蛍ちゃんはものともしない。
「俺はそれくらいでちょうど良いと思うよ!」
どうして蛍ちゃんは優しくできないのか。優しくないわけじゃないけど、もう少し分かりやすくてもいいと思うの!
そう思って今度はちょっと本気でひっぱたいた。
「別に、ちぃが悪いとか言ってないし」
そしたら痛かったみたい。
少しだけ肩が跳ねた。
「雪中1番がチビなら私もチビでしょ?」
「別に男子じゃないんだから、ちぃは気にしなくていいと俺は思うけど」
「でも雪中1番と身長ほとんど変わらない」
「それは男子が気にする方だと思う」
「その前に、なに?その呼び方」
蛍ちゃんに投げられた質問の意味がわからない。首をかしげても蛍ちゃんは黙って答えを待ってる。忠くんを見ても、蛍ちゃんと同じく答えを待ってるのか首をかしげる。
そこで思い出した。
2人とはあの試合を観てないってことを。
「あの子、王様と初戦で当たって30分で負けた中学の1番だったから」
いつも一緒にいるからあの時も一緒に観てたと思ってた。そんなはずないのに。
「ああ、あの試合か」
「そんなに早く終わったの?」
「うん。最後の攻撃にびっくりしたからよく覚えてる。それに全体的に小さくて初心者みたいなチームで頑張ってたから」
「へぇ」
「で、そのあと倒れたんだよね」
「もーっ」
そう言えば、あの時お世話になった人達はまだ学校に在籍してるのだろうか。
確か、烏野の黒いジャージだったはず。あんまり覚えてないけど、中学バレーの大会を見に来たくらいだから卒業はしてないと思うんだけど。
会えたらちゃんとお礼をしなくちゃ。名前もなにも知らないから、部活を見に行くしかないかな。
「…もう倒れないでよね、ホントに」
あの時はどれだけ心配をかけたかわからない。
蛍ちゃんがいつもそばにいてくれるのは、自分の知らないところで私が発作を起こすのをよく思わないからだとか。
「うん」
だからと言っていつも一緒にいるわけでもない。蛍ちゃんは男子で、部活をしている。私は女子で、帰宅部。時間が合わないなんて当然のこと。
「無理しないでね?いじめられたらすぐ教えてね!」
いつまでも心配ばかりかけてるのも、申し訳なさすぎる。それも私が逃げ腰だったからかもしれない。
「忠くんもね」
やっぱり、まずは部活に入ることから始めよう。
←/→