仮入部最後の日

「そのままの意味。じゃまたね」
「おい待てこらあ!結局お前ら、どこのどいつだ!」
「1年4組月島蛍」
「俺は山口忠」


私も言いたかったのに、蛍ちゃんに口を塞がれた。忠くんは、さりげなかったけど2人から確実に私を隠した。

私はお呼びじゃないと。部活の話なんだから女は口出しするなと、そう言うことですか。でも、もしも"王様"が私の知ってる"王様"なら、挨拶しておきたかったんだけどなぁ。
まぁいいか。同じ学校ならそのうち挨拶する機会もあるだろうし。


「今日からキミたちのチームメイトだよ。あ、今は敵か。"王様のトス"見れるの楽しみにしてるよ」
「じゃねー」
「え、わっ」


蛍ちゃんがいきなり手を引っ張るから転びそうになった。転んでないけど。

いつもは私を気遣ってか滅多に速く歩くことなんてないのに、今日は私を引きずるように、まるでここから逃げるように蛍ちゃんのコンパスで進んでいく。
振り返って忠くんを見ると、いつもと比べてちょっとだけ急いで着いてきてるみたい。


「ねっ蛍ちゃんっ」
「待ってツッキー、どうかしたの!?」


グラウンドから出ても、蛍ちゃんの歩く速さは変わらない。


「イライラすんだよ、無断にアツい奴って。"王様"も…さっきのチビも」


私はほんの少し小走りになっただけで乱された呼吸を治せないまま、蛍ちゃんを見上げた。

蛍ちゃんだって結構熱いと私は思う。
確かにさっきの2人と比べたらクールと言うか冷静と言うか…熱血って感じはしないけど、けしてどこまでも冷静なわけじゃない。そもそもクールならわざわざ突っかかっていかない。無視するね。
それなのに無視できなかったのは、あのせいなのかな。なんて、私は思うんだ。

少しだけ、似てる気がしたから。


「っ」


ああ、冷たい空気にむせる。
でも咳き込んだりしたら蛍ちゃんは自分を責めるかもしれない。そう思うと浅く息をついて誤魔化すしかできなかった。


「ツッキーストップ!」
「なに」
「ちぃがっ」


忠くんの声でようやく蛍ちゃんが視線を下げてくれた。


「…ごめん」


心配させたいワケじゃないんだけど、乱れた呼吸はすぐには戻らない。蛍ちゃんは気まずそうに足を止めてくれた。


「大丈夫?」
「うん。ちょっと追い付けなくなっちゃっただけだから…」


止まって声をかけてくれるのは、蛍ちゃんの優しさ。そっぽ向くのは気まずいとか恥ずかしいとか、そんな時。

たぶん忘れてるんだろう繋がれたままの手に、少しだけ力をいれてみる。びっくりしたのか、一瞬だけこっちを見てくれたのにまたそっぽ向いちゃった。
でも手は繋いだままだし、暗くてよく見えないけど赤くなってるのかもしれない。

忠くんと顔を見合わせて少しだけ笑った。


「ごめんね、帰ろう」


手を引っ張って大丈夫だと促せば、今度はゆっくりと歩き始めてくれた。


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