▽中学最後の大会
コートを見てると、審判がアウトを取った。
せっかくオレンジの子が打ったのに、ボールはラインの外で跳ねたらしい。
これで、ゲームセット…
「うわーっ最後のは惜しかったなーっ」
「あぁ…でも見てみろよ、北川第一の連中。大差で勝った奴らの顔じゃないよなあ」
総試合時間、約30分。北川第一のストレート勝ち。
負けた雪ヶ丘はともかくとして、たしかに間違いなく勝っている北川第一が浮かない顔をしているのは、取れないと思ったボールが返ってきた最後の1点が尾を引いているのか。
ああ、泉石と加持北の試合。すっかり忘れてた。まだやってはいるけれど、なんだろう。雪ヶ丘と北川第一で燃え尽きたって言うのかな。疲れちゃった。
「ふー…」
「大丈夫か?なんか疲れてるっぽいけど」
「変に緊張したみたいで」
「確かに手に汗握る試合だったよな!」
勝敗なんてはじめからわかってるくらいの実力差だったのに、本気で見てた。応援してた。きっと、蛍ちゃんと忠くんの応援よりもずっと緊張した。
どうしてだろう。
「飲み物はあるの?」
「まだ涼しいとはいえ、水分補給はしっかりな」
「あ、は…っ…」
「ないなら買ってきてやろうか?」
やばい。息、
「田中が女子に優しい」
「俺はいつでも優しいっスよ!ただ女子に逃げられるだけで…」
「田中顔怖いからなあ」
「スガさん!?」
深呼吸。
大丈夫。まだ発作じゃ…
「ひゅ…っ」
「どうかしたのか?気分でも悪くなったのか?」
「おい、なんか言わないと」
返事、しなきゃ
「ごほっけほっ」
「お、おい…」
私の口から出たのは、声じゃなくて咳。喉の奥、気管支がおかしいのがわかる。
どうしてこんなときに…
「だ、大地さん!」
「おいっ大丈夫か?!」
「俺誰か呼んでくるっ!」
「ひっ、げほっ」
周りが慌ててる気配がする。でもそんなことを気にかける余裕があるなら、この発作を何とかしないと。
鞄の中から吸入器を探す。蛍ちゃんと入ってるか確認したから、絶対にある。でも見つからない。
焦りと苦しさで体が思うように動かせない。咳き込みすぎて視界が滲む。こんなことじゃあまた怒られちゃう。だから1人で観るなんて無茶だったんだって、もう1人で観せられないって。
そうなったら応援なんて出来なくなる。お母さんももっと過保護になる。学校だって、無理言って蛍ちゃん達と同じところにしたのに、お母さんの望むところに変えられちゃうかもしれない。
そんなの、絶対にやだ。
「なんだ?お前なに探してんだ?!」
「ごほっポ、チ…っ」
「ちょっとごめんよ」
「大地さん!?」
誰だかわからないけど、ほとんどまともに探せてない私の代わりに鞄の中からいつものポーチを出してくれた。
「これのことかな?」
酸欠で頭がくらくらする。霞む視界で、必死に頷いて中から吸入器を出す。
ほんの数回で呼吸は落ち着く。きっと発作だってほんの数分かそれ以下なのに、この数回よりもずっと長くて苦しい時間。
「大地!田中!救護室の人に来てもらった!」
「スガさん!」
なんだか大事になってしまった。
それもそうか。発作起こして見知らぬ人に迷惑をかけて。試合が終わった直後と言うこともあってか、注目を集めてしまったのか周りも少し静かになってしまった。
これじゃあ強制送還かな。それは嫌なんだけどなぁ。でもそれだけですむならいいけど。
「君、大丈夫なのかい?」
「あの、すみません。ご迷惑お掛けして」
「いやいや、俺たちはなにもできなかったし。ありがとな、スガ」
「俺もなんにもできなくて」
「君、一応救護室に行こうか」
「はい」
このままここにいても、この人たちに迷惑をかけてしまう。なにより、試合の邪魔だ。
「もし戻ってこれるなら、戻っておいで」
「そうだ!まだ見てるからよっ」
「でもしんどかったらいいからな?」
ほんの数十分の間しかいなかったのに、知り合いでもなんでもない私を気にかけてくれて。
「ありがとうございます」
いい人達だ。きっとそんな先輩がいたら、学校も楽しくなる。そんな人に迷惑かけてばっかりな私のことなんて、嫌いだ。
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