入学式のこと

東北の春は寒い。
クラス分けが張り出された掲示板は既に人だかりができていて、とてもじゃないけどここから自分の名前を探すことは難しい。

友達と受けた人もいるのだろう。ちらほら「一緒だね」やら「別れちゃった」とか聞こえてくる。生憎そんな会話をするほど仲の良い友達がいないので、私には無縁な会話でもある。


「くそぅ…見えない…」
「なにやってるの」


頭上から聞こえた声に上を向くと、真上より少し後ろに蛍ちゃんの顔が見えた。


「アホ面」
「ひど」


そりゃあ上向いたら口も開いちゃうし逆さまだしで不細工だろうけど、もう少しデリカシーと言うものを身に付けてもいいと思うんだよね。


「おはよう」
「おはよう忠くん、蛍ちゃん」


2人は中学を卒業してから、また少し背が伸びたみたい。いつからか、その身長に追い付こうなんて思わなくなってたなぁ。


「いくよ」
「え、でも私まだ」
「山口も一緒」
「え?」
「全部言わなきゃわかんないの?」


いやわかんないよ。断片的過ぎるでしょ。


「いいからいくよ」


でもね、なんとなくわかっちゃうんだ。
小さいときみたいに手を引いてはくれなくなったけど、いつだって私を引っ張ってくれるのは蛍ちゃんだったから。


「一緒かぁ。なんか懐かしいね」


中学1年の時、1度だけ同じクラスになったきり、そのあとはかすりもしなかった。

あの頃は色々あったなぁ…


「あの時のこと?しばらく立ち直れなかった癖によく言うよ」
「あんな理不尽なことにショック受けないわけがないでしょう?」
「それもそうか」
「あの時は本当に心配したんだから」
「ごめんね」
「ツッキーだって」
「山口」
「ごめんツッキー」


…なんか、2人だけの秘密があるらしい。

あの時のことはあんまり覚えてないんだよね。ショックが強すぎてその前後が凄く曖昧。あのあとお母さんが迎えに来てくれて帰ったことはわかる。何があったかは蛍ちゃんと忠くんが説明してくれたって聞いた。

あの時、2人がいなかったら私はどうなってたんだろうか。


「寒いし行くよ」
「うん」


本当、迷惑ばっかりかけてる。


「そういえばさ」
「なぁに?」
「髪、すっかり戻ったね」


私の両サイドで揺れるみつあみは、一時期なくなっていたことがある。


「あの時よりも少し短いけどね」
「いい加減みつあみもやめたら?そんなに厳しくないんだし」


確かに校則はそれほどきつくない。それでもみつあみをやめようと思わない。


「でもこれが1番落ち着くから」
「…まぁいいけど」


長年この髪型だからどうすればいいかわからないし、癖があるから他の髪型なんてうまくできないって言うのもある。


「またあんなことにならないでよ」
「うん」


それに、みつあみってあんまり邪魔にならないから結構気に入ってるんだよね。


「少なくとも同じことは繰り返させないけどね」
「?」
「そうだね、ツッキー」
「よくわかんないけど、心配しなくても大丈夫だよ?」


そう言っても2人は納得できないみたい。
実際なんともなかったから、大丈夫だと思うんだけどなぁ…


「ダメだ。ちぃが間抜けすぎる」
「俺も同意するよ…」


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