赤葦
うちの素敵な副主将様は、たぶん二枚目だと思われる。
部活では先輩を差し置いてレギュラー決まってるし、先輩との仲は良好だし、バレーやってるのはかっこいいし、身長もそこらの男子よりずっと高いし、すごい優しいし、基本的には冷静だし、身内の贔屓目ですごく軽く見てかっこいい。
ちなみにこれはアイドルを見てる感覚に近い。
「柏手ー!!」
それに比べてうちの主将様ときたら…
「今の見てたか?!俺かっこよくねえ!?」
「そうですね。主将様が1番輝いてますよ」
「だよな!だよな!」
いつものように騒ぎながらかおり姉様の所にもいく主将様は、ネズミを捕ってきて誉めてもらいたい猫のようだ。見た目は完全にミミズクだけど。
姉様方は主将様の扱いも馴れたもので、さらりとかわして仕事に戻っていった。さすが姉様方。
「柏手」
「どうかなさいましたか?副主将様」
「…今度は時代物にハマってるの?」
「リアル時代物じゃなくてファンタジー系の時代物だよー」
「まぁなんでも良いけど、あんまり先輩たちのノリについていかないで」
赤葦の言ったことがよく分からない。
「どういうこと?」
「さっき「柏手に兄様って言われると萌えるよな」って木葉さんが小見さんに言ってた」
ああ、呼び方が思い付かなくて聞いたら呼んでほしいって言われたやつか。
「別によくあるからいいんじゃない?」
「よくない」
「えー?」
「帰り送っていくから待って」
「はぁーい」
いつものことなのにわざわざ言うなんて、几帳面だなぁ。最近は当たり前になってきてたからほとんど言われてなかったけど。
「ほら皆さん、終わりなんでさっさと片付けてください」
「あかーし!自主練付き合ってー!」
「今日は点検の日なんで無理ですよ」
「がーん!」
木兎さん、あれで年上なんだもんな。ちょっと急いで生まれすぎじゃない?きっと10年くらい間違えてるよね。
「鳴子ー、うちらも着替えるよー」
「今行きまーす」
女子の方が着替えが遅いからか、体育館の戸締まりは基本的に主将と副主将でしてる。だからマネの私たちは先に着替えに出てるわけだけど。
「今回は何にハマってたのー?」
「ファンタジー系時代物です。その中のメイドさんがこんな話し方だったんです」
「なんでメイド?」
「マネージャーだからですね」
サポートと世話役じゃあ全然違うけど、比較的近いかなーと思ったから。
「あー‥でもあいつらの面倒ずっと見るとか、絶対やだ」
「だけどさ、メイド服は着てみたいかもー?」
「あたしはいいや」
「同じくです」
「えー」
「雪絵姉様はメイド服よりも普通にドレスをお召しください」
「それは違うー」
「かおり姉様は和風創作ドレスでお願いします」
「なにそれ」
「着物っぽいドレス?」
こんな話をしていられるのもあと1年。来年こそ、みんなで春高優勝するんだ。
「今日も赤葦待ってるんでしょ?」
「あ、はい」
「じゃあ早く行ってあげないとねー」
「え?あ!すみません!」
時間を見たら、それなりの時間が経っていた。
部活のことや私のこと。先輩といろいろ話ながら着替えてると、いつの間にか時間は過ぎてしまう。
「では!お先に失礼します!」
「お疲れー」
「気を付けてねー」
更衣室を飛び出して向かうのは、いつも赤葦が待っていてくれる所。やはり話しすぎたのか、赤葦は携帯を片手に待っていてくれた。
「ごめん赤葦!お待たせ!」
「いいよ、大丈夫…帰ろうか」
「うん」
携帯をポケットに入れると、するりと右手がさらわれる。どれくらい待たせたのかわからないけど、珍しく私よりも手が冷たい。
「ごめんね。寒かった?」
「え?そうでもないよ」
「でもいつもより手が冷たい気がする」
「あー…ちょっと考えてたからかな」
赤葦はよくよくものを考える人だから、発言自体はなにもおかしくない。だけど、手が冷えるような考え事ってなに?
「今日さ、木葉さんたちに言ってたこと」
「ああ、兄様?」
「そう。俺は副主将様だったなって思って」
「だって赤葦は副主将でしょ?」
「そうなんだけどさ…いや、それはそうなんだけど、それ以前に俺は鳴子の彼氏でしょ?」
手をきゅっと握られて、目があって、ふいに名前を呼ばれて、心臓がおかしくなった。
「部に支障が出るのは嫌だって言うから苗字で我慢してたけど、あんなに愛想振り撒いてほいほい頭撫でられてたらさすがにムカつく」
あ、これ怒ってるやつだ。
「なんでそんなに隠したいの?」
「べ、別に隠したいわけじゃなくて」
「そもそもバレてるけどね」
「わかってるよ!」
「じゃあなんでいつまでも名前読んでくれないの」
「そ、れは…」
呼べたら、私も苦労してない。
赤葦モテるし、付き合ってるってみんなに言ったところで信じないだろうしそもそも隠してるから告白とかめっちゃされてるみたいだし、告白してる子はみんな女の子っぽくてかわいいし、勝てるところなんてどこにもない。
「いい加減名前で呼んでほしいんだけど」
「あ…ぅ…」
「鳴子」
こういう時の赤葦の手とか、目とか、苦手。なに考えてるかなんてわかんないけど、なんか、すごく恥ずかしくなる。
「ね、鳴子」
「あっ赤」
「呼んでくれなきゃキスするよ」
「ふぁっ?!」
今!外なんだけど!
「ほら、早く」
「あっけ、か!」
「ん?」
「けっ京治、くん…」
「なんですか?鳴子様」
「ひぇあ!?」
「ふ…かわいい」
あ!赤葦が変!壊れた!
「俺もね、せっかく呼ばれるなら副主将様より京治様の方がいいな」
「む!むりだよ!」
「これから頑張ろうね」
赤葦は楽しそうで、こんな赤葦から逃げ切るなんてできる自信がないし、簡単に逃がしてくれもしなさそう。
もう絶対ふざけて呼んだりしない!
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うちの素敵な副主将様は、たぶん二枚目だと思われる。
部活では先輩を差し置いてレギュラー決まってるし、先輩との仲は良好だし、バレーやってるのはかっこいいし、身長もそこらの男子よりずっと高いし、すごい優しいし、基本的には冷静だし、身内の贔屓目ですごく軽く見てかっこいい。
ちなみにこれはアイドルを見てる感覚に近い。
「柏手ー!!」
それに比べてうちの主将様ときたら…
「今の見てたか?!俺かっこよくねえ!?」
「そうですね。主将様が1番輝いてますよ」
「だよな!だよな!」
いつものように騒ぎながらかおり姉様の所にもいく主将様は、ネズミを捕ってきて誉めてもらいたい猫のようだ。見た目は完全にミミズクだけど。
姉様方は主将様の扱いも馴れたもので、さらりとかわして仕事に戻っていった。さすが姉様方。
「柏手」
「どうかなさいましたか?副主将様」
「…今度は時代物にハマってるの?」
「リアル時代物じゃなくてファンタジー系の時代物だよー」
「まぁなんでも良いけど、あんまり先輩たちのノリについていかないで」
赤葦の言ったことがよく分からない。
「どういうこと?」
「さっき「柏手に兄様って言われると萌えるよな」って木葉さんが小見さんに言ってた」
ああ、呼び方が思い付かなくて聞いたら呼んでほしいって言われたやつか。
「別によくあるからいいんじゃない?」
「よくない」
「えー?」
「帰り送っていくから待って」
「はぁーい」
いつものことなのにわざわざ言うなんて、几帳面だなぁ。最近は当たり前になってきてたからほとんど言われてなかったけど。
「ほら皆さん、終わりなんでさっさと片付けてください」
「あかーし!自主練付き合ってー!」
「今日は点検の日なんで無理ですよ」
「がーん!」
木兎さん、あれで年上なんだもんな。ちょっと急いで生まれすぎじゃない?きっと10年くらい間違えてるよね。
「鳴子ー、うちらも着替えるよー」
「今行きまーす」
女子の方が着替えが遅いからか、体育館の戸締まりは基本的に主将と副主将でしてる。だからマネの私たちは先に着替えに出てるわけだけど。
「今回は何にハマってたのー?」
「ファンタジー系時代物です。その中のメイドさんがこんな話し方だったんです」
「なんでメイド?」
「マネージャーだからですね」
サポートと世話役じゃあ全然違うけど、比較的近いかなーと思ったから。
「あー‥でもあいつらの面倒ずっと見るとか、絶対やだ」
「だけどさ、メイド服は着てみたいかもー?」
「あたしはいいや」
「同じくです」
「えー」
「雪絵姉様はメイド服よりも普通にドレスをお召しください」
「それは違うー」
「かおり姉様は和風創作ドレスでお願いします」
「なにそれ」
「着物っぽいドレス?」
こんな話をしていられるのもあと1年。来年こそ、みんなで春高優勝するんだ。
「今日も赤葦待ってるんでしょ?」
「あ、はい」
「じゃあ早く行ってあげないとねー」
「え?あ!すみません!」
時間を見たら、それなりの時間が経っていた。
部活のことや私のこと。先輩といろいろ話ながら着替えてると、いつの間にか時間は過ぎてしまう。
「では!お先に失礼します!」
「お疲れー」
「気を付けてねー」
更衣室を飛び出して向かうのは、いつも赤葦が待っていてくれる所。やはり話しすぎたのか、赤葦は携帯を片手に待っていてくれた。
「ごめん赤葦!お待たせ!」
「いいよ、大丈夫…帰ろうか」
「うん」
携帯をポケットに入れると、するりと右手がさらわれる。どれくらい待たせたのかわからないけど、珍しく私よりも手が冷たい。
「ごめんね。寒かった?」
「え?そうでもないよ」
「でもいつもより手が冷たい気がする」
「あー…ちょっと考えてたからかな」
赤葦はよくよくものを考える人だから、発言自体はなにもおかしくない。だけど、手が冷えるような考え事ってなに?
「今日さ、木葉さんたちに言ってたこと」
「ああ、兄様?」
「そう。俺は副主将様だったなって思って」
「だって赤葦は副主将でしょ?」
「そうなんだけどさ…いや、それはそうなんだけど、それ以前に俺は鳴子の彼氏でしょ?」
手をきゅっと握られて、目があって、ふいに名前を呼ばれて、心臓がおかしくなった。
「部に支障が出るのは嫌だって言うから苗字で我慢してたけど、あんなに愛想振り撒いてほいほい頭撫でられてたらさすがにムカつく」
あ、これ怒ってるやつだ。
「なんでそんなに隠したいの?」
「べ、別に隠したいわけじゃなくて」
「そもそもバレてるけどね」
「わかってるよ!」
「じゃあなんでいつまでも名前読んでくれないの」
「そ、れは…」
呼べたら、私も苦労してない。
赤葦モテるし、付き合ってるってみんなに言ったところで信じないだろうしそもそも隠してるから告白とかめっちゃされてるみたいだし、告白してる子はみんな女の子っぽくてかわいいし、勝てるところなんてどこにもない。
「いい加減名前で呼んでほしいんだけど」
「あ…ぅ…」
「鳴子」
こういう時の赤葦の手とか、目とか、苦手。なに考えてるかなんてわかんないけど、なんか、すごく恥ずかしくなる。
「ね、鳴子」
「あっ赤」
「呼んでくれなきゃキスするよ」
「ふぁっ?!」
今!外なんだけど!
「ほら、早く」
「あっけ、か!」
「ん?」
「けっ京治、くん…」
「なんですか?鳴子様」
「ひぇあ!?」
「ふ…かわいい」
あ!赤葦が変!壊れた!
「俺もね、せっかく呼ばれるなら副主将様より京治様の方がいいな」
「む!むりだよ!」
「これから頑張ろうね」
赤葦は楽しそうで、こんな赤葦から逃げ切るなんてできる自信がないし、簡単に逃がしてくれもしなさそう。
もう絶対ふざけて呼んだりしない!