弧爪
なんとなく、嫌な予感がしてこっそり体育館を出た。
「あれ?研磨どこ行きました?」
「は?あれ、さっきまでここにいたんだけど…」
それはハズレてなかったらしく、体育館からは柏手の声がする。
別に柏手の事が嫌いな訳じゃない、たぶん。たまに見学と称して遊びにくるのが、いつからかマネージャー紛いな事をするようになった。それも別に構わない。実際助かってるし。
でも、苦手。
「あ、いた!」
短い休憩だから離れるのがめんどくさくて、入り口の階段横にしゃがんでたのがダメだった。本気で逃げようとも思ってなかったけど、こんなに早く見つかるのか。
「あのさ、テーピング練習」
「やだ」
「せめて最後まで聞いてよ!」
「テーピングの練習したいんでしょ?」
「うんっ」
「やだ」
柏手のことは嫌いじゃないと思う。でも最近はこれがあるから困る。
「なんでー」
「だって柏手ヘタ」
「だっ!だから練習しようと思って!」
別にマネージャーでもないんだから、テーピングなんて覚える必要ないのに。
「順番くらいは覚えた?」
「覚えたよ」
「じゃあ1回だけね」
「ありがと!」
粘着スプレーとテープを取り出して、やたらと気合いが入ってる。
ベタつくから余計なとこにスプレーかけないようにしてほしい。おれのそんな心配を他所に、柏手はスプレーをしてテープをくるくる巻いていく。
初めてやらせたときはただぐるぐる巻きにするだけでなにをしたいのか全然わからなかった。固定もされないし、本当に意味がわからなかったからついうっかり「テープの無駄」なんて言ってから、なぜかおれを練習台にするようになった。
本当に、うっかりでものを言うのはやめようと思った。間違ってなくても言っていいことといけないことがある。去年の最初にこれで嫌な目にあったのに、同じこと繰り返すとかそれこそ無駄。
「どう?あってる?」
「あってる。でも突き指してないからすぐ剥がすよ」
「厳しい!」
おれの無駄発言が気になったらしく、それから何回か練習台になったけど、ちゃんとうまくなっていく。
「あのさ」
「んー?」
「マネージャーはやらないの?」
テープを剥がしながら、ずっと思ってた事を聞いた。
おれが入部した少し後からたまに見に来るようになって、秋くらいからマネージャーみたいな事をするようになった。逆になんで入部しないのかわからない。
「マネージャーなんて柄じゃないよ」
「そう?案外向いてると思うけど」
「え、ホントに?」
「ちゃんとテーピング覚えたし、実際柏手がいた日は助かってるし」
去年の前半は、タオルとかドリンクの準備とか、ワイピンとかで練習なんてあんまりできなかったし。まぁ、あれはおれが口出ししちゃったから仕方ないんだけど。
「でもお手伝いくらいでいいよ。ほら、私がいると山本大変なことになっちゃうし」
「あー…うん、そうかも」
マネージャーほしいって言ってたけど、山本女の子苦手だもんな。苦手なのにマネージャーほしいって、なんでだろ。
「それにやらなきゃいけないって感じよりも、やってあげたいって感じの方が向いてるんだよね」
「なにそれ」
「宿題しなさいって言われるとやる気なくす感じ」
「ふーん…」
よくわかんないけど、それって天の邪鬼ってこと?
「あ、そろそろ中入んないと」
「うん」
「でもそうかぁ、マネージャーかぁ」
柏手がぼんやりこぼす言葉には、まるでそんなこと考えたことがないって気持ちが含まれているのがわかった。
考えたことなかったくせに、よく半年近くマネージャーみたいなことしてたよね。
「ねぇ」
「なに?」
別にマネージャーがいなくても困らない。今までもそうだし、きっとこれからマネージャーがいなくても自分達でなんとかできる。
それでもふと思った。
「おれは、柏手がマネージャーだったらいいなって思うよ」
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なんとなく、嫌な予感がしてこっそり体育館を出た。
「あれ?研磨どこ行きました?」
「は?あれ、さっきまでここにいたんだけど…」
それはハズレてなかったらしく、体育館からは柏手の声がする。
別に柏手の事が嫌いな訳じゃない、たぶん。たまに見学と称して遊びにくるのが、いつからかマネージャー紛いな事をするようになった。それも別に構わない。実際助かってるし。
でも、苦手。
「あ、いた!」
短い休憩だから離れるのがめんどくさくて、入り口の階段横にしゃがんでたのがダメだった。本気で逃げようとも思ってなかったけど、こんなに早く見つかるのか。
「あのさ、テーピング練習」
「やだ」
「せめて最後まで聞いてよ!」
「テーピングの練習したいんでしょ?」
「うんっ」
「やだ」
柏手のことは嫌いじゃないと思う。でも最近はこれがあるから困る。
「なんでー」
「だって柏手ヘタ」
「だっ!だから練習しようと思って!」
別にマネージャーでもないんだから、テーピングなんて覚える必要ないのに。
「順番くらいは覚えた?」
「覚えたよ」
「じゃあ1回だけね」
「ありがと!」
粘着スプレーとテープを取り出して、やたらと気合いが入ってる。
ベタつくから余計なとこにスプレーかけないようにしてほしい。おれのそんな心配を他所に、柏手はスプレーをしてテープをくるくる巻いていく。
初めてやらせたときはただぐるぐる巻きにするだけでなにをしたいのか全然わからなかった。固定もされないし、本当に意味がわからなかったからついうっかり「テープの無駄」なんて言ってから、なぜかおれを練習台にするようになった。
本当に、うっかりでものを言うのはやめようと思った。間違ってなくても言っていいことといけないことがある。去年の最初にこれで嫌な目にあったのに、同じこと繰り返すとかそれこそ無駄。
「どう?あってる?」
「あってる。でも突き指してないからすぐ剥がすよ」
「厳しい!」
おれの無駄発言が気になったらしく、それから何回か練習台になったけど、ちゃんとうまくなっていく。
「あのさ」
「んー?」
「マネージャーはやらないの?」
テープを剥がしながら、ずっと思ってた事を聞いた。
おれが入部した少し後からたまに見に来るようになって、秋くらいからマネージャーみたいな事をするようになった。逆になんで入部しないのかわからない。
「マネージャーなんて柄じゃないよ」
「そう?案外向いてると思うけど」
「え、ホントに?」
「ちゃんとテーピング覚えたし、実際柏手がいた日は助かってるし」
去年の前半は、タオルとかドリンクの準備とか、ワイピンとかで練習なんてあんまりできなかったし。まぁ、あれはおれが口出ししちゃったから仕方ないんだけど。
「でもお手伝いくらいでいいよ。ほら、私がいると山本大変なことになっちゃうし」
「あー…うん、そうかも」
マネージャーほしいって言ってたけど、山本女の子苦手だもんな。苦手なのにマネージャーほしいって、なんでだろ。
「それにやらなきゃいけないって感じよりも、やってあげたいって感じの方が向いてるんだよね」
「なにそれ」
「宿題しなさいって言われるとやる気なくす感じ」
「ふーん…」
よくわかんないけど、それって天の邪鬼ってこと?
「あ、そろそろ中入んないと」
「うん」
「でもそうかぁ、マネージャーかぁ」
柏手がぼんやりこぼす言葉には、まるでそんなこと考えたことがないって気持ちが含まれているのがわかった。
考えたことなかったくせに、よく半年近くマネージャーみたいなことしてたよね。
「ねぇ」
「なに?」
別にマネージャーがいなくても困らない。今までもそうだし、きっとこれからマネージャーがいなくても自分達でなんとかできる。
それでもふと思った。
「おれは、柏手がマネージャーだったらいいなって思うよ」