鷲尾

「柏手鳴子です!よろしくお願いします!」

そうして入ってきた1年の新しいマネージャー。
白福たちはひどく可愛がってる。木兎は持ち前の性格からすぐに打ち解けていた。小見もいつの間にか一緒にふざけられるくらい距離を積めていた。木葉も器用な性格だから、特に問題なく仲良くなっていた。猿も人好きのする雰囲気だから、なつかれてる。尾長は同じ学年だからか、初めから一番距離感が近かった。赤葦は副主将だから話す機会が多いだろう。

簡潔に言うと、マネージャーに怖がられてる気がする。と言うより、怖がられてるらしい。

「あんた身長高いからじゃない?」
「あとー、ちょっと顔怖い?」

白福の言葉は刺さった。
別に怖がらせたくて背が伸びたわけでも顔が怖くなったわけでもない。いつの間にかこうなってただけだ。この間知らない子供に泣かれたのもそれが原因か?

「どうすれば怖がられないようになると思う?」
「え、鷲尾気にしてるの?」
「そりゃあ休憩の度に必死に距離を作ろうとしてるの見たら気にする」
「それもそうかー」

どうしたらいいか。
どうにもできない部分で怖がられてるから対処の仕方がわからない。

「笑ってみるのはー?」
「無理矢理笑っても怖くなりそう」
「そっかー」

おい。いや、想像はつくけど即否定するな。

「あ、じゃーお菓子あげるって言うのは?」
「うーん、確かにきっかけにはなるか…鷲尾なんかお菓子持ってる?」
「は?あー、たしか朝ばあちゃんにもらった塩飴なら」
「却下」
「なんでだよ」
「それ部活用っぽいしー、もらってもあんまり嬉しくないかなー?」

塩飴うまいのに、女子には不評なのか。

「これ、鳴子が最近ハマってるって言ってたからあげる」

ころりと掌に転がったのはピンクと白の飴が2つ。

「いいのか?」
「部内の平穏を守るのもマネージャーの仕事だからね」
「鳴子が鷲尾避けてるのすぐわかったしねー」
「それで頑張りなさいよ」
「ありがとな」

持つべきものは優秀なマネージャーだ。
俺は2つの飴を手に柏手と距離を縮めるため1歩踏み出した。

「柏手!」
「ひゃい!」

しまった、いきなり怖がらせた。

「いや、驚かせた」
「いえ…」
「あ、これ、柏手が好きだって聞いて」

あまり近付きすぎないように気を付けながら、掌の飴を見せる。
柏手はいつでも逃げられるようにしっかりと間合いをとって、その向こうからそろりと掌を覗き込む。それが猫みたいに見えたのは仕方ない。

飴を見つけると、疑うような視線が突き刺さるが、嘘ではないので負けじと目を合わせる。
あれ?猫って目を合わせるとダメとか言わないか?柏手は猫ではないが、目を合わせたりしたらそれこそ怖がらせるんじゃないか?
そう思っても後の祭り。暫し睨み合った(あとから木葉に言われた)後、そろりと飴をひとつとると素早く距離をとった。

「あり、ありがとうございます」
「これもやる」
「だだだ大丈夫です。おっきい人はお腹すくから食べた方がいいです」

いや、でも

「柏手の為の飴だから、もらってくれ」

そう言うと、渋々と言わんばかりにそっと飴をとって距離をとった後小さくお礼を言って走って白福達のところへ行ってしまった。

まともに会話なんてできなかったが、なにか偉業を成し遂げたような達成感がある。
明日、また飴をあげてみよう。

prev / next