猿杙

とても困ったことになった。まさかこの歳になって迷子になるだなんて思わなかった。携帯で連絡とろうにも混雑してるから電波はないし、ものすごく背が高いわけじゃないから友達を探すのも難しい。
ひとまず人波からは外れられたけど、これからどうしよう。

「携帯振ってどうしたの?」

なんとか電波が入らないか携帯を手元で小さく振ってたら、急に声をかけられてびっくりした。

「驚かせてごめんね」
「え、猿杙?」

この間日直が一緒になった猿杙が目の前にいた。

「はぐれたの?」
「え?」
「浴衣なんて誰かと来ないと着ないでしょ?」

それもそうか。

「うん、中野達と来たんだけどはぐれた」
「人多いもんねぇ」
「猿杙は?」
「木兎が祭やってるから行きたいって言い出して、せっかくだしみんなで行こうかって」
「じゃあみんなと来てるの?」
「うん」

バレー部ホント仲良いよね。チーム競技だし自然とそうなるのかな。

「電波まだない?」
「え?あー、うん」

メッセージ飛ばしたいんだけど、ずっと再送を続けてる。心配してるかもしれないから早く連絡したいんだけど…

「それって俺が見ても大丈夫?」
「うん、中野達に場所教えるだけだし」
「ちょっと借りてもいい?」
「うん」

携帯を渡すと、猿杙は携帯を高く持ち上げた。そしてほんの少しの間をおいて電波が入ったことを教えてくれた。

「これ再送でいい?」
「うん!それで!」
「あ、メッセージ来てたみたいだよ」

猿杙から受け取った携帯には中野達からの心配するメッセージがたくさん来てた。
えっと、場所はさっき言ったから、大丈夫ってことだけ飛ばせばいいか。

「もう1回やる?」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

また携帯を高く持ち上げてメッセージを飛ばす。

「はい」
「ホントありがとう。助かった」
「携帯振っても電波はこないから、覚えておいた方がいいよ」
「わかった」

迎えに来てくれるらしいから、私はここにいよう。動くとすれ違っちゃうし。

「あ、中野達来てくれるから、猿杙は戻ってもいいよ」
「俺も一緒に待ってるよ」
「え、でも」
「木兎達のこと気にしてるなら、後で合流するから適当に見ててって言ってあるから大丈夫」

合流ってそんな簡単にできるの?実際私がこんな状態…だけど、バレー部はみんな背が高いから見つけやすいのかな。

「それならいいけど」
「それに、今日の柏手さんはかわいい格好してるんだから、1人でいたら危ないかなーって思って」
「…うん?」

目を合わせると猿杙はいつもと同じ顔をしてる。
あれか、浴衣がかわいいからだな、うん。不細工でも浴衣とか着とけばそれなりに見えなくはないってやつか。でもその程度の私に何かあるわけはないし…

「祭は気が大きくなる人もいるからね」
「そうだね」
「俺もテンションあがってるし」
「そうなんだ」
「偶然だけど、柏手さんに会えてよかったよ。浴衣も見れたしね」

ちょっと待って。勘違いしたらいけないってわかってるんだけど、そんなこと言われたらちょっと、その…

「猿杙、あの…」
「言ったでしょ?俺もテンションあがってるって」

これは、そう言うことなんだろうか。頑張って視線を合わせるけど、猿杙の真意は全然わからない。

「浴衣、似合ってるね」

どうやら中野達に報告しなければいけないことが増えたらしいことだけはわかった。

prev / next