※ちょっとメタいかも?
ボーダー遠征部隊が日本を発ってから、何日が過ぎたっけ。眠れない夜に空を見上げたところで彼らが見えるはずもなく、具体的な遠征スケジュールを知らないから、どこにいるのか見当もつかない。
遊真は、元気にしているだろうか。いや、誰とでも打ち解ける遊真のことだし、遠征艇の中でもさぞ賑やかにしていることだろう。こちらと同じ時刻を過ごしているのかな。だとしたら、今はもう寝静まっていて、眠れない遊真は一人で暇を潰しているのかもしれない。
「……さみしいなぁ」
せめてもの独り言で抵抗してみるが、当然、返事はない。いつもだったら遊真は、なんて相槌を打ってくれるんだろうか。
いや、こんなことを遊真に言うわけがないだろう。だって遊真がいれば、さみしくないのだから。
「……はぁ、もう、やんなっちゃう」
私は身近にあった特大の白いテディベアを手繰り寄せて頬を擦り寄せる。ふわふわの肌ざわりに、つやつやと輝く赤い瞳。胸元のリボンは遊真の隊服を思わせるターコイズブルー。
そのまま、端末を手繰り寄せて保存してある画像の一覧をスワイプ。選んだのは、広報の仕事が入ったと言って撮影された時の一枚だ。今の私が持っているのと同じテディベアを抱えて、どうだと言わんばかりに笑う遊真が映っている。
「…………遊真」
いつもだったら、なんだ? って返事があるのにな。今はただ、動かない遊真の顔を見つめては、記憶を手繰り寄せて遊真の声を思い出すだけ。それでも寂しさは拭えず、もう一度目の前のテディベアに肌を擦り寄せる。
§
「ほら、これ。もらってきた」
あの日の遊真はそう言って、特大のテディベアを抱えて家にやってきた。遊真の頭より大きな頭、太い手足にずっしりとしたお腹。気軽に飾っておけるようなサイズではなく、思わず「な、なんで?」と聞いてしまうくらいには迫力があった。
「撮影で使ったやつ、もらっていいって言われたから」
「……それで、どうしてもらったの?」
「おまえにやろうと思って」
だから、それをどうしてかと聞いているんだけど……。と言い返すよりも前に、遊真は「ほれ」と言って、受け取れと言わんばかりに私へとそれを押しつけてきた。どうにか受け取るも、大きすぎる頭は目の前を覆い隠してしまう。この状態で部屋に戻るのは足元が頼りなくて怖いなぁと、ぼんやり思っていたのだけれど。
「おれの代わりになるらしいぞ、それ」
そう言った遊真の表情が見えなくて、けれど、良かったとも思った。どういう顔をしていいのか、わからなくなったから。
「……ならないでしょ」
「こっちでは、そういう意味でわたすこともあると聞いたが」
「初めて知ったよ。知らない人も多いんじゃない?」
「ふぅん。そうだ、言われてた写真も、もらってきたぞ」
「見せて……いや、とりあえず上がって」
ようやく、私は改めてテディベアを抱え直す。開けた視界に映った遊真は、いつも通りの飄々とした表情で「おじゃまします」と言うだけだった。
§
写真の中の遊真は、ちょっとだけ気取った笑顔を浮かべている。撮影のテーマは確か、ホワイトデー。今期デビューした玉狛第二が、あっという間にB級ランクを駆け上っているという話題性を加味したものだった。
広報の撮影も任務のうちだとは聞いていたけれど、まさか遊真に白羽の矢が立つとは思っていなかった。遊真がこんなに上手くこなしてしまうのも予想外。とはいえ、採用されなかった分を含めた大量の写真をもらい、こうして今、寂しさを慰めるために眺めることができているのだから、結果としては有難いものだ。
「……はやく、帰ってこないかなぁ」
視界の隅に映った時刻は午前零時ちょうど。いつの間にか日付が変わってしまったらしい。今日は海の日で休みだけれど、あまり夜更かしもよくないかと渋々端末の光を落とす。
私は、遊真の代わりにテディベアを抱えたまま目を閉じる。今夜の私もまた、夜を越せますように。そうして早く、また会える日が来ますようにと、祈りながら。
織姫の憂鬱
(2022.7.18 Happy Birthday 空閑遊真!)