また会える日を想う夜
 消灯時間を過ぎて真っ暗な部屋の中。今日は運よく個室がもらえたから、集中して端末をいじってしまったと我に返る。
 おれは、ずっと眺めていた端末から目を離して、窓へと視線をうつした。部屋の中で唯一光る端末をずっと見ていたからか、窓のむこうはしばらく黒一色のまま。けれど時間がたって少しずつ、闇の中にもぽつぽつと光る星々まで見えるようになってきた。

「……うぅむ」

 せっかくだからと端末を窓へとむけて、写真を一枚。ぱしゃり、と撮れたはいいものの、残念ながら真っ黒が映っているだけだ。

「ま、近界のことだし、見せられんか」

 ほぅ、と息をつく。考えるのは、今も三門市に残る名前のこと。
 名前もよく写真を撮っていた。ふとした瞬間に端末を構えて、数枚。帰り道で見つけたキレイな花だとか、たまたま出くわした猫だとか。たまのデートの最中に撮っていい? と聞かれて、おれを撮る時もあったくらいだ。だいたいは、おいしそうなデザートと一緒に。
 真似をして撮ってみた、ろくに映らない近界を少しだけ残念に思う。うまく撮れていたら、こっそりと名前に見せるくらいは許されただろうか。まぁ、どちらにせよ無理だったのだから意味のないことだ。

「……お、やっとか」

 端末に表示されている時刻が、ようやく日が変わったことを告げている。まだまだ朝まで長いものだが、少しだけ時間が進んだことを実感して、また一息。

 少し前、遠征の最中に聞いた七夕の話を思い出した。仕事熱心な二人がいたものの、恋人同士になってから仕事を放りだすようになってしまって、怒った神様が二人を天の川で引きさいたという話だ。そんな二人が年に一度だけ会えるのが七夕で、なぜか、その日は願いごとをしてもいいのだとか。

 なんだか少しだけ自分たちを思わせたもので覚えている。別に恋人になったからと言って、ランク戦で手を抜いていただとか、防衛任務を放りだした、というわけではないけれど。それは名前も同じで、向こうだってやるべきことはやっていたけれど。
 それでも今、互いに離れた場所で仕事をしているということは同じだ。

「……ふむ」

 おれはもう一度端末からメモを起動して、なにとはなく打ちこんでいく。記録のような、日記のような――メッセージのような。
 ずいぶんと日本から離れたところまで来た。目標までもう少しかかる。チカがいるからと停泊の時間は短くなっていたけど、それでも長い旅だ。あたりまえだが、ここまで遠くに来ていると日本との連絡はとれない。もちろん、メッセージも送れない。
 だからと代わりに打ちこんで残しているのだ。長く会えない間に思い浮かんだこと、話したくて話せないことを、あとで伝えられるように。

「……遠距離恋愛、か」

 誰かにそうからかわれたのを思い出す。離れている恋人との恋をそう呼ぶのだとか。
 今は、なにをしているんだろうか。寝ているだろうか、名前のことだからもしかしたら、さみしくて泣いているかもしれない。いつもなら一晩中一緒にいることだってできるのに、今はそうできないから心配だ。あるいは防衛任務に出ているかもしれないし、もしかしたら――どこぞの星から侵攻を受けていたりするかもしれない。

 迅さんが「こっちを守ったほうがいい感じになりそう」と言っていたことを思い出す。暗に、おれたちが遠征している間になにかが起こるような言い方だった。だからきっと、同じように三門市に残っている名前にも仕事ができるのだろう。
 おれたちはおれたちの目標のために遠征に来た。同じように名前も、名前たちのために残って任務を続けている。ほら、やっぱり七夕の話みたいじゃないか。

「…………なんだか恥ずかしいな」

 打ちこみかけたメモを消そうかと悩んで、結局そのまま続きを書いておくことにした。これを読んだ未来の名前まで一緒に照れていそうだと、そんな想像に頬が緩む。
 まだまだ夜は長い。せっかく久々に与えられた個室なのだから、今夜のうちにたくさん名前へのあれこれをメモしておこうと、おれはまた端末に集中することにした。
 こんなに長いラブレターとやらを書いたのは、これが最初で最後だと思う。

また会える日を想う夜

(2021.7.18 Happy Birthday 空閑遊真!)

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