二人の選択、決意の先に
 忍田本部長からも通達があった、火曜日の記者会見。報道の様子は家族によって録画されていて、学校から帰宅するなり家族に「話がある」と言われてその記者会見を見せられた。  連日報道されていたニュースと同じような内容を繰り返す記者たち。取り沙汰されたのは六人のボーダー職員殉職者、および三十二人の行方不明になったC級隊員――訓練生だ。
 行方不明の話題になるや否や、家族から、ボーダーを辞めないのかと訊ねられた。いや、BGMとなっていた記者会見と合わさってもはや懇願のように聞こえた。
 そんな昨晩の出来事を、今週唯一の合同訓練に向かう道すがら友人に話す。

「沙智の家も?」
「うん。お前だって訓練生なんだろう、一歩間違えば、お前が行方不明になってたかもしれないんだぞって」
「ウチも、そんなこと言ってた」

 ボーダー本部への足取りは重い。私たちは家族に、選択を迫られた。
 三門市民から注目されていた先日の記者会見では、確かに冒頭通りの被害結果が報告されていた。家族はその被害にばかり注目していたが、一方では新たな話題も提供された。
 それが、近界民への遠征計画だ。もちろん遠征に向かうのは精鋭中の精鋭だが、彼らが三門市を空けるからこそ、市民の協力と、市民を守るボーダー職員、隊員の協力が望まれる、と。
 家族と一緒にその記者会見を見て、浮かんだ感情は――

「なんかさ、悔しかったんだ」

 ポツリとつぶやいた言葉は、しっかりと友人の耳に届いたのだろう。それが意外な言葉だったのか足を止めた友人に、私も一緒になって立ち止まる。

「同じ場所に住んでて、同じ訓練生だったのに、私は帰ってニュースを見るまで攫われた人がいるなんてことに気づかなかったんだよ」
「……うん、私も」
「記者会見の……三雲くん、だっけ。運命の分かれ目はこっちの都合とは関係なくやってくるって言ってた。それ聞いて思ったんだ。私、ボーダーの訓練生のハズなのに、なんか、“当事者じゃなかった”んだよね」

 もしかしたら、野次馬と揶揄られてしまう人たちの気持ちにはほんの少しでも、今の私と同じような気持ちがあるんじゃないか、なんて。
 野次馬とは疎まれるものだ。何もしないのに、ただ騒ぎを一目見たくて集まってくる。その根源にはきっと“関係者でありたい”気持ちがあるんだと思う。自分の身近で起こったことに、何の意味もなく疎外されることが寂しくて、悔しくて。見るだけでもいいから、そこに“関係していたい”。

「あの日は学校の皆を避難させて、住民の人たちにも避難を呼びかけて。最後には南部地区の救助活動だって手伝った。やるべきことはやったと思う」
「……うん」
「けど……あの時はすごくたくさんの近界民が襲ってきてた。戦える力があれば、私にはもっと、できることがあったんじゃないかなって」

 私もきっと同じだ。まるで部外者みたいに感じてしまうのが悔しいのだ。私は確かにここにいて、ボーダー隊員だったのに。
 けれど私は野次馬になるわけにもいかないのだ。だってただ“見ているだけ”なら、次にさらわれるのは私かもしれない。じゃあ、私が近界民と関わる方法って何?

「三雲くん、『ただその時やるべきことを、後悔しないようにするだけだ』って言ってた。やるべきことはしたはずだけど、戦えなかった自分が、悔しいんだよ」

 彼は確か、市立第三中学の生徒だと言っていた。記者会見に現れた三雲くんは明らかに重傷人といった装いで、家族なんかは痛ましいと言わんばかりの目で見ていた。けれど私の印象に残ったのはそれより――あの場にいた誰よりも堂々としていたことだ。
 だから。続きを口にしようとして、手が冷たくなっていることに気づいた。多分、緊張している。おかげで声も震えそうだけど、私は友人を見つめて宣言する。

「だから、私はボーダー続けるよ。もしも次があった時にできることを増やしたい。戦えるようになりたい」

 クラスメイトに凄いだの頼もしいだの言われる度に自分が惨めだった。私は凄いと言われるほどのことをしていない。それはたぶん、“ボーダーにいるから”こそわかっている。
 それを知らなかったことにはできない。ボーダーには凄い人がたくさんいる。論功行賞に連なる名の中で、同じ訓練生だったはずの――空閑くんの名前があったことだって。もう私には、忘れることができないのだ。
 空閑くんは凄い。尊敬している。けれど羨ましくて、できない自分が悔しい。
 ならば前に進むしかない。できなくて悔しかったから、できるようになりたい。

「……そう、家族にも言った。元々、学年順位下げない代わりに入隊していいって言われてたんだもん。だから六頴館受かったら続けてもいいって言質とった」
「……なるほどね。ま、沙智なら余裕でしょ」
「だといいけどね」

 私の宣言は終わった。次は、友人の番。どうするんだろうかと伺えば、友人はニッと笑う。

「私も六頴館受けるよ。出願期限ぎりぎりだったけど」
「……えぇ!? 三高に行くって言ってなかった!?」
「うん。まぁ担任には、六頴館もチャンスはあるって言われてたんだよね。でも無理したくなくて三門高に行こうと思ってたんだけど」

 三門高――三門高校が、この辺りの学生の多くが通う公立高校。三門中学の生徒は大部分が三門高校に行き、一部の生徒が進学校である六頴館を目指す。そしてそのどちらもが、ボーダー提携校と呼ばれる協力体制にある高校だ。
 友人の成績は悪い方ではなかったけど、本人の言う通り余裕があった方がいいということで三高に行くと言っていたはず。そんなこんなで余裕があるからこそ、受験目前のこの時期に二人でボーダーに応募し、採用されたのだから。

「それが、親から出された条件。ボーダーに挑戦するなら、まず高校受験も挑戦しなさいってさ。沙智んとこと同じ、勉強もちゃんとやるならそっちは好きにしなって感じだった」
「……そっか」

 友人の宣言は予想外のものだったけど、安心もした。ボーダーを続けるために、お互い同じ高校を目指すことになる。同じ高校に入れば、お互いボーダーを続けられる。

「でもね、だから合同訓練以外では本部に行くのは控えることにする」
「……え?」
「沙智は学年上位常連だし余裕だろうけど、私はちょっと危ないからね。前期で受かるかわかんないし、後期に備えてちょっと受験勉強真剣にやらなきゃと思って」

 つまり、週二回の合同訓練には参加するけどそれ以外はボーダーに行かず勉強する、ということらしい。最近はほぼ毎日のように二人でボーダーに行っていたので少し寂しくはなるけど、そういう事情ならばと私は拳を握ってエールを送る。

「がんばって。週末なら、勉強もつきあうよ」
「ありがと。沙智もポイント稼いでおきなよ。受験終わった時に追いつく背中がないと張り合いないでしょ」
「りょーかい」

 顔を見合わせて笑った。それから改めて、私たちはボーダーへ向かう一歩を踏み出す。
 私は少しだけ未来のことを考えた。前期試験まではあと一週間。受験対策のテキストは問題なく続けているし、担任からも、内申も悪くないからそうそう落ちないだろうとのお墨付きはもらってる。あとは、受験日当日いつもの調子が出せれば問題ない、ハズ。
 さらにはボーダーの訓練。現状、友人とも差が開いていたところだ。友人の受験が終わる一か月後までに、最低でも友人の持つポイントは越えておかないと。

「だからさ沙智、今日は私といっぱいランク戦やろうよ」
「私からポイント獲るつもり〜?」
「負けるつもりなんだ? まぁ応援と思って受け取っとくけど?」
「そんなこと言えるの今のうちだけなんだからね!」

 ――その、あと。そんな二つの目標を達成して、無事にB級にあがったら。その時は友人と部隊が組めないかな、なんてことを考えたりした。
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