玉狛支部にはじめまして
「迅さん、おかえり〜……って」
「宇佐美、ちょうどよかった。猫ってなに食うんだろ」

 想像どおり、連れていかれた先は玉狛支部だった。宇佐美、と呼ばれた栞ちゃんもいるし、私の思惑どおりの展開だ。

「え〜、牛乳はあるけど……猫用のほうがいいんだよね?」
「レイジさん今防衛任務だよな……帰りに買ってきてもらうか」
「っていうかその子飼い猫だよね? 連れてきて大丈夫なの?」
「いや、なんか……わかんないけど変なんだよな、こいつ」

 栞ちゃんはパタパタと駆け寄ってきたかと思えば、私をじぃっと見つめる。ので、こんにちは、と鳴いてみれば、あっという間に頬が緩んで笑顔を見せてくれた。猫の愛嬌様々だ。
 いっぽうで、私を抱えている迅さんには納得がいかないと言わんばかりに見下ろされている。怪しまれているのだろうか。そういえばさっきも、珍しい、とかなんとか言っていたような。

「陽太郎は? あいつのほうが早いかもしれない」
「さっき、おやつだよ〜って声かけといたから、もう少しで戻ってくるんじゃないかな〜」

 ……またしても、唐突に思い出した記憶。もしかして私と一番コミュニケーションが取れるの、陽太郎くんじゃないだろうか。だって陽太郎くんは確か……。

「もどったぞ!」
「お、ウワサをすれば」

 元気よく玄関に飛び込んできたのは陽太郎くんだ。雷神丸と一緒に戻ってきたということは近くで遊んでいたのかな。迅さんに抱えられている私はまじまじと陽太郎くんを見下ろす。
 すると陽太郎くんのほうも、迅さんの腕の中にいる私に気づいたのだろう。あれ、と不思議そうな顔をしたのでとりあえずは声をかけてみる。

(こんにち、は?)
「……お、お!?」

 響いたのはいつもどおり、にゃぁんという鳴き声だけだ。けれど陽太郎くんは、途端にぱちくりと目を丸くして私をまじまじと見つめはじめる。それを見ていた迅さんが不思議そうに首を傾げて。

「どうした?」
「こいつ、おれにはなしかけてきたぞ」

 やっぱり、陽太郎くんには私の言葉が通じているらしい。さすが、動物との意思疎通ができるサイドエフェクトを持っているだけある。ただの鳴き声なのに、そこに込められた意味を汲むことができるようだ。
 私が声をかけたことで陽太郎くんは私に興味を示してくれたらしい。今度は陽太郎くんから「こんにちは」と声をかけられたので、(はじめまして、リアです)と答える。

「そうか、リアっていうのか」
「……陽太郎、それホントか?」
「おれがうそをついてるっていうのか!」
「いやぁ、そういうわけじゃないけどさ……」

 ……え、私マズかっただろうか。動物との意思疎通ができるって聞いたから普通に話していたんだけど、異常だっただろうか。
 陽太郎くんはむすりと頬を膨らませ、不満ですと言わんばかり。迅さんが困ったようにしながらも場を取り繕うので、私はその間に必死で陽太郎くんのサイドエフェクトについて記憶を掘り起こす。
 確かに動物との意思疎通だったハズなんだけど……。あぁでも、どの程度の意思疎通ができるのかは動物側の知能による、という話だったような。ってことはちょっと、人間っぽい話し方をしすぎたのかな……?

「こいつはかしこいねこなんだ、きっと」
「う〜ん……やっぱりなんか、変なんだよなぁ」

 やばい、ますます迅さんに不審がられてる気がする。じっとりと見下ろされるのが居た堪れなくて、私は思わず身を固くしてしまった。
 それがわかるのか、あるいは疑われたことによる反発心か。陽太郎くんはどんと胸を張って私に笑いかけるのだ。

「リア、だいじょうぶだ。じんにはおれがきつくいっておく」
「おいおい」
「いえはどこだ? かいぬしはいないのか?」

 陽太郎くんの質問の返答に迷って、おずおずと(わかんない、はぐれた)と答える。返事を聞いた陽太郎くんはしんみりと「そうか、さみしかったな」と慰めてくれた。……優しい。

「あんしんしろ。みつかるまではここにいていいからな」

 そうあっさりと受け入れてもらったけれど、大丈夫なのだろうか。いや、私としては願ってもない幸運だけれども。
 迅さんも栞ちゃんも、陽太郎くんが私に話しかけるのを見守るだけ。栞ちゃんは穏やかに見守ってくれているようだけど、見上げた迅さんはまだちょっとだけ不審がるように眉根を寄せている。

「……まぁ、害はないっぽいけど……」
「そうだろう! リア、おなかへってないか? だいじょうぶか?」

 陽太郎くんはさっそく私の面倒をみてくれるつもりらしい。私はまたおずおず(お水が飲みたい)と鳴くと、陽太郎くんはすぐに「わかった」と言ってくれる。

「しおりちゃん、リアがみずのみたいって」
「お水でいいの? じゃあ用意してくるね」

 栞ちゃんはパタパタと奥へ入っていってしまった。陽太郎くんは陽太郎くんで、栞ちゃんを追いかけながら「おれのおやつは〜?」なんて言っていて。二人がパタパタと――おそらく食堂に――消えていったあとで、迅さんはゆったりとしゃがみ込む。

「おまえの主人は何者だろうなぁ」

 そんなことを呟きながら私を床に下ろした迅さん。まさか――本来ならいるはずのない私がここにいることで――よくない未来でも視えてしまったのだろうか。おそるおそる迅さんを見上げるも、表情を正しく読み取れているのかどうか、ちょっと自信がない。
 けれど見間違いでないのなら、迅さんは穏やかに微笑んでいた。
 迅さんのサイドエフェクト、未来視の発動条件は相手の姿を見ること、だった記憶。会ったことのない人間の未来は視えないはずだ。
 だから私の主人――つまりは遊真くん――のことはぼんやりとしか視えていないはず。今の時点ではまだ、二人は出会ったことがないのだから。

「とりあえず、おまえをもてなしておいたほうがよさそうだ」

 まるで悪戯っ子みたいな笑顔を見せた迅さんもまた、すたすたと歩きはじめてしまった。私は恐々とついて歩きつつ、私もとりあえずは玉狛に甘えさせてもらおうと気合を入れ直すのだった。




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ねこてん!

 

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