わたしの飼い主
 玉狛第二も参加しているB級ランク戦は始まったばかり。そして私は、そんな玉狛第二の四人が戦術の打ち合わせをしている所に同席していた。修くん、千佳ちゃん、遊真くんの三人で、あれやこれと相談の真っ最中だ。
 一緒にいる栞ちゃんは、聞かれればアドバイスするけど、積極的に意見を出すことはしない。まぁ元々風間隊でオペレーターを務めていた経験もある大先輩だ。まずは三人で戦略を立てられるよう見守るのだろう。

 つまり、手持ち無沙汰な栞ちゃんは私をとても可愛がってくれる。暇を持て余す栞ちゃんに撫でられ、抱っこされてとひたすら甘やかしてもらうのだ。

「リアはいくらでもモフモフさせてくれて優しいねぇ〜〜」

 でろっでろにとろけた栞ちゃんの声をBGMに、私もたくさん撫でてもらって気持ち良くて、ゴロゴロと喉が鳴る。ちなみに、そんな私たちを見る三人組の表情はなんとも言えないものだ。触りたそうな、我慢しているような……気が散っていそうな。
 これはいったん席を外したほうがいいかと考えはじめた矢先のことだった。ふいにエレベーターの動く音がして、少しすれば扉が開く。

「遊真〜、いるか〜」
「ボス? おかえり」

 やってきたのは林藤支部長だった。わざわざ、しかも遊真くんに用事とはなんだろうか。
 同じように疑問に思ったのだろう遊真くんは首を傾げつつ林藤支部長を伺っている。朗らかな笑顔を浮かべている様子から、怖い用事ではなさそうだけど……。

「鬼怒田さんからの預かりもんだ。ほら」

 林藤支部長はカバンから取り出したものを、そのまま遊真くんへと差し出す。
 黒い首輪だ。ぱっと見は板状の留め具が付いている、開閉式のバングルみたい。それ以外のデザインはレプリカが初期に設計していたものをそのまま踏襲しているようで、黒地に白いラインが走る、シンプルな首輪。

「おぉ、もうできたのか」
「一応プロトタイプだとさ。研究結果によってもう少し効率化、軽量化できるかもって言ってた。あとおまえたちからも要望があるなら言うだけ言ってみろってさ」
「ふむ、わかった」

 修くんと千佳ちゃんはなにがなにやらといった表情だが、栞ちゃんは違う。いよいよ設計図にあった猫用のトリガーが完成したのだ。目を輝かせながら「おぉ……!?」と声を漏らし、食い入るようにトリガーを見つめている。

「ゆ、遊真くん、ちょっとそれ見せて?」
「ほい」

 耐え切れず声を上げた栞ちゃんに、遊真くんはさらりと首輪を差し出した。受け取った栞ちゃんはひどく興味津々で、「なるほど、こういう構造になったんだ……」なんて呟きつつ眺めている。
 そのかたわらで遊真くんが、修くんと千佳ちゃんに「これはリアのトリガーだ」と掻い摘んで説明。修くんも千佳ちゃんも不思議そうに頷き、また「動物もトリガー使えるんだね……?」とふんわりした感想を零している。

 私は待ちきれなくて、いそいそと移動して遊真くんの膝の上に飛び乗った。急に私が乗ってきたからか、不思議そうにしている遊真くん。撫でてほしいのかと解釈されたようで、頭と首を撫でられながらもじいっと待ち続ける。
 まだかな、まだかな。そう待ちきれない私がわかるのか、林藤支部長が苦笑しながら話を遮って。

「ほら、遊真。早くつけてやれって」
「え?」
「新しい首輪が待ちきれない、って顔してるぞ、そいつ」

 完璧な代弁をありがとうございます林藤支部長! 私もそれを肯定するべく食い気味ににゃぁと鳴く。

「なるほど、そういう意味か」

 遊真くんはゆるりと笑った。栞ちゃんからトリガーを渡され、受け取った遊真くんは改めてトリガーを観察する。留め具の部分を確認して「こうか」と呟いたと思えば、ゆるりと開いたバングルを私の首にそっとはめる。
 最後、留め金がパチリと鳴った。遊真くんが手を離すもしっかりと首に収まったトリガー。
 まだ少し違和感があるので、遊真くんの膝から下りて訓練場をうろうろと歩いてみる。思ったよりぐらぐらしたりはしない、かな。重さも感じないから、肩が凝ったりみたいなのもなさそうだ。いや、猫って肩が凝るのかはわからないけど。

「リア、トリガーの確認もしてみてよ!」

 栞ちゃんからの声がかかるので、私はいったん足を止める。トリガー起動。にゃぁん、の鳴き声とともに全身がスキャンされて、改めてトリオン体を生成。すぐにトリオン体に置き換わった自分が訓練場の地に足をつける。

「す、すごいな……ぼくらの言葉もわかるのか!?」
「リア、すごい!」

 一連の様子を見ていた修くんと千佳ちゃんからの歓声を受けると、ちょっとだけ誇らしい。なお実際の換装を初めてみた栞ちゃんは目を輝かせて楽しそうにしている。

「すごいよ〜リア! 起動は問題なさそうだね!」
「リア、ちゃんと元に戻せるか?」

 遊真くんの声に応えて今度はトリガー停止。しゅん、と換装が解けて生身に戻り、首輪が戻ってきた感覚にほっと息をつく。
 私は覚えた芸を見せて興奮する犬のように遊真くんの元へと戻った。嬉しくて勢いのままに遊真くんの肩へと飛び掛かれば、遊真くんは難なく受け入れてくれる。だから頭に一生懸命に擦り寄ってはありがとうと鳴いて甘える。

「わかった、わかったから」

 くすぐったくはないのだろうけど、首をすくませながらも私を撫でて諫める遊真くん。少し落ち着いた私が改めて遊真くんの頬に擦り寄れば、遊真くんは私の首元をくすぐりながら笑うのだ。

「あらためて、おまえはおれの猫だ。よろしくな、リア」

 にゃぁん! とひと鳴き。ひょんなことから始まった私の猫生は、『リア』という名前と遊真くんという主人を得た。
 新しい首輪ももらって心機一転。遊真くんと同じく命の恩人であるレプリカの任務を遂行するべく、私は今日から、遊真くんの猫として生きるのだ。




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ねこてん!

 

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