射手同士で模擬戦闘
「こんばんはー」
「おう、ひさしぶりだな和音」

 玄関で真っ先に出迎えてくれたのは陽太郎と雷神丸だ。のっそりと歩く雷神丸に跨る陽太郎は相変わらずおこさまらしい。ふんぞり返るその姿が可愛くて笑顔を浮かべながら、皆何してる? と尋ねれば揃って修行中だとのこと。

「じゃあ皆忙しいかな」
「訓練室にいくといい。栞がいるぞ」

 ではな、と格好つけたままのそのそと雷神丸と共に部屋へと消えて行く。多分あの格好つけた退場がやりたかっただけだろうなと後姿を見送って、言われた通り地下の訓練場へと向かうことにした。

「お邪魔しまーす」
「お、やっほー和音」

 オペレーション用のヘッドセットを装着した栞が片手をあげる。他には誰も居なくて全員がどうも訓練室に篭っているらしい。

「皆の修行だって? 見ても大丈夫?」
「大丈夫だよー」

 栞の脇へ移動して並んだ三つのディスプレイを覗くと、見慣れない、空閑君と同じくらい小さい女の子が映っていた。

「栞、この可愛い子は?」
「千佳ちゃんが三人目のチームメイトだよ〜」

 どうやら狙撃手らしい千佳ちゃんは真剣な表情で的を撃ち続けている。真面目そうな可愛い子だと感心して他のディスプレイへと目を移せば、三雲君と烏丸君が模擬戦闘を行い、空閑君と小南が激しく剣戟を交わす姿が映っていた。

「空閑君は凄いなー」
「強いよ。千佳ちゃんなんてトリオン量凄いしね!」

 栞も後輩三人に期待を寄せているようで、わくわくと楽しそうな笑顔を浮かべている。もう一度、なんとなく三雲君と烏丸君の訓練室の映像を眺めれば、疲弊した三雲君がいよいよ烏丸君に止めを刺されていた。

「三雲君、面白そうな子だね」
「え?」
「頭良さそうっていうか曲者っぽい感じ」

 メガネをかけてるからかな? なんて茶化してみると、栞はむふふ、とこらえきれずににやけた表情を浮かべる。問えば和音の感想は的を射てるからなぁ、とのこと。

「期待の大物新人組って感じでしょ!」

 栞がそう笑うのと同時に訓練室が二部屋同時に開いた。どうやら三雲君達だけでなく、小南達の訓練も一区切りついたようだ。

「和音、久しぶりじゃない!」

 小南が明るい声で私を呼ぶ。その勢いのまま抱きつかれて思わず笑顔がこぼれた。

「小南が師匠なんて、教えられるの?」
「うちの遊真は優秀なのよ! 紹介するわ」
「やぁ和音ちゃんこんばんは」
「う、ん? こんばんは……」

 小南がいざ紹介せんとばかりに空閑君の首根っこをつかんで引き寄せるが、当の空閑君はふわふわの髪をぐしゃぐしゃに爆発させた状態のまま、目を細めて唇を尖らせた顔で平然と片手を挙げて挨拶をしてくれた。どこから突っ込むべきかと返事に一瞬詰まると、小南が眉間に皺を寄せる。

「何よ、あんた達いつ知り合ったの?」
「昨日小南達が帰った後遊びにきてたんだよー」

 そうだよ、と空閑君がそれを肯定して、もそもそと自らの髪を撫でつける。一拍遅れて三雲君もこんばんは、と挨拶をくれた。

「こんばんは、訓練お疲れ様。烏丸君も」
「水沢さん、お疲れ様です」

 きちんと年上への対応をしてくれる希少な人間烏丸君。と思えば挨拶もそこそこに慌しく帰り支度を始めた。クリスマスも近いし、バイトに忙しいのかもしれない。

「水沢さん、この後暇すか?」
「うん? まぁ皆が訓練するなら暇かな」
「じゃあよければ修の練習相手になってくれませんか? 俺これからバイトなんで」

 やはり予想に違わずバイトに行くらしい烏丸君は、支度を整えて後は行くだけ、の状態で私に頭を下げる。特に断る理由も無かったのでいいよ、とそれを受ける事にすれば、そのまま慌しく去る烏丸君を栞がいってらっしゃい、と見送った。

「和音ちゃんとオサムが戦うのか、見てみたいな」

 空閑君は興味を示したようでわくわくしたように私を見る。その姿を見て小南はふぅ、と呆れたように息を吐いた。

「まぁあたしもそろそろ帰らないといけないから、今日は終わりね」
「おう、また明日もよろしくな、こなみ先輩」

 ぴしり、と軽い敬礼のポーズをとって空閑君は小南に向き直る。挨拶を受けた小南は私をびしりと指差した。

「和音明日も来なさいよ、明日は夜時間あるから!」
「りょーかい。また明日ね、小南」

 むすぅ、と少し頬を膨らませて小南は渋々と訓練室を去っていく。久々に玉狛でゆっくり夕飯を食べたいなぁとは思っているのだけど、中々計測地獄から開放されなくて時間に間に合わないから難しい。

「こなみ先輩と和音ちゃんも仲いいのか?」
「あの二人は騙されやすいコンビなんだよ〜」
「ちょっと栞、誤解を招くこと言わないで」

 いやいや和音は結構抜けてるからね〜と栞の声は聞こえなかったことにしとこう。じゃあやろうか、と三雲君に声をかけて一緒に訓練室へと入る。

『仮想戦闘モード、完了だよ〜』

 さすがに仕事の早い栞の声が室内に響いた。さてどうしようかと私はボーダーのトリガーを握って換装を済ませる。

「三雲君はポジション何?」
「射手です」
「おお、仲間だね」

 私のブラックトリガーの性能と相まって、最近はもっぱらバイパーばかりで戦っていたから丁度いい。トリオンキューブをふわりと浮かせて三雲君を見据えれば、彼も換装を済ませてレイガストを構えた。

「三雲君が一撃入れるか、スタミナ勝負ね」

 さぁ、始めて。と声をかけて構える。三雲君は私の宣言の意味を考えているようでしばし状況が膠着した。

 しかし数秒後には三雲君がきゅう、とレイガストを握り締めた。来る、と気配を察知した私は反射的にその場から飛びのく。次の瞬間にはブレードがスラスターの推進力のままに私が居た空を裂いた。

 慣れていないのかやや大きく空ぶって崩れた体制を慌てて直す三雲君。私はその様を眺めているだけで、三雲君の顔色が少し猜疑心に染まる。やはりというべきか、彼は私と違って理屈で動くタイプのようだ。反撃して来ない理由をきっと考えているのだろう。

「アステロイド!」

 平均より小さめのトリオンキューブがふわりと浮かんで、真っ直ぐに私目掛けて飛んでくる。見切ってバイパーで迎え撃てば弾同士が撃ち合い爆発した。
 どうやらそこまでは彼の予測どおりだったようで、互いの弾の相殺で発生した煙幕に紛れて背後に人の気配。最小の動作でブレードを交わして一応バイパーをレイガスト目掛けて放つ。三雲君はシールドモードでそれら全てを受けきった。しん、とまた数秒の膠着状態の後三雲君は再び訓練室の床を強く蹴りあげる。

 しばらくして、栞から終了の声をかけられた。どうやら大分長く戦っていたようで三雲君はそれを聞いてはぁぁ、と深い息を吐く。栞に声をかけられるまで戦いきったとあれば、スタミナというより精神力が凄い。粘り強い子だな、これから強くなりそうだと三雲君に少しだけ期待かな。
 二人そろって訓練室を出れば、お疲れ、と栞にドリンクを差し出された。その横で空閑君も三雲君にドリンクを差し出している。三雲君はへろへろとそれを受け取ると力なくソファに沈み込んだ。そんな三雲君を見届けてから、空閑君がきょとりとこちらへ視線を向ける。

「和音ちゃんは何で戦わないんだ?」

 問われたその意図が掴めず、今戦ってたよ? と尋ねると違う、と首を横に振られる。避けてるだけで一度もオサムを攻撃しようとしなかった、と指摘されてしまった。栞はそれに対して指導だからじゃないの? と私に向けて首を傾げるけど、どうしてかそれに頷いてはいけない気がしたのだ。

「油断すると私が落ちちゃうからね。それじゃ練習にならないでしょ?」

 空閑君は、ふーん、とまだ少し訝しげにそれに頷いて、栞に至ってはそうなの? と少し驚いたように瞳を瞬かせた。ふと栞がヘッドセットを外していることに気付いて訓練は終わり? と聞けば、どうやら栞は今日はもう帰るつもりらしい。
 聞けばレイジさんが丁度今車を準備していて、千佳ちゃんもそこで待っているから栞も乗せてもらうとのこと。和音はどうする? と聞かれて少し悩んだけど、送ってもらうほどの距離でも無いし遠慮することにした。

「じゃあオサムも送ってもらえば?」
「え? 空閑はどうするんだ?」
「和音ちゃんと一緒に帰る」

 な、和音ちゃん? と伺うようでいて有無を言わせない圧力。にたり、と含んだ笑顔を浮かべる空閑君の勢いにおされて、私は拒否することもできず静かに頷いた。
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